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月刊JGAニュース

「桜花を見上げて」  

 100回と聞くと多いと思うだろうか、それとも少ないと思うだろうか。

 人の一生のうちに桜が咲く回数である。人生100年時代とは言え咲いた回数の全てを見られる人は多く はないのでだいたい60~70回くらいだろう。毎年何気なく見ていた桜だが、その事に気づいてからは舞い 散る花弁を何とも言えない心境で見るようになった。

 春は出会いと別れの季節である。今年も日本の至る所で涙と笑いの人間ドラマが繰り広げられているの だろう。

 私が協会に来たのはちょうど二年前の春であったが、全く異業種からの転職で右も左も分らず、多くの 方々にご迷惑をおかけしたり、ご指導ご鞭撻をいただいたものである。

 この春、協会で委員としてご尽力いただいていた方が退職されることになった。不慣れな私に対し手厚い ご指導をいただいた恩人の一人であり、協会にとっては勿論、個人的にも彼が去ってしまう事は残念でなら ない。温厚な人柄の彼は業界活動に心血を注いでおられ、その熱心な仕事ぶりには感銘を受けた。彼の「これ は協会としてやらんといかんですよ!」という言葉はとても印象的であり、彼の持つ使命感がひしひしと感 じられ、利己心など微塵もない確固たる信念を垣間見る事ができた。

 残念ながら私は前職でそうした使命感を感じる事が出来なかった。毎日のルーチンワークの中で、私は 「仕事とはただ生活の糧を得る手段でありそれ以上でも以下でもない」と思っていたのである。それ故、使命 感に燃える彼、いや、彼だけではない、協会で業界活動に携わる方々と共に仕事に当たらせていただく度に、 かつてない刺激を受け続けている。

 製薬業界を通してこの国の医療に携わり、社会に貢献できる喜びと使命感を持って日々の業務に当たる、 それは私のような一事務局員とて同じであり、何ものにも代えがたい矜持と言えよう。

 彼はこの春、その重い荷物を降ろす事となるのだが、残る我々はその重い荷物を少しずつ背負い、歩みを 止める事なく一歩ずつ前へと進むのだろう。

 見上げると桜が花吹雪いていた。今年の桜は散ってしまうが、また来年も美しく咲くのだろう。去りゆく 者がいても、その跡を引き継ぐ者がいるように。

(D.F)

 

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