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月刊JGAニュース

カーク艦長、その進路は非論理的です。  

同仁医薬化工株式会社
代表取締役社長 吉里 貞範

06.jpg 「随想」ってつれづれに何書きゃいいんでしょう?と依頼状を読みますと「ユニークで暖かみのある原稿」とのこと。そんなエッセイがすーっと頭に降りてくるんだったら別の道進んでおります。さくらももこさん、あんたはすごいね(まるちゃん風つぶやき)。
 「戦艦好きの人が絶対はまるゲーム見つけたけどやる?」長男が持ちかけてきた。World of Warshipsというボーダレスのオンラインゲームである。自分の戦艦や空母を入手し、世界のプレイヤー11人と艦隊をつくり相手艦隊と戦い、実績を挙げれば上位の軍艦へと進化できる。ちょっとたまごっちテイストも入ってしかも無償。なんで無償と彼に質問。「それはね、課金で強化アイテム買って勝とうという人のおかげだよ」とのこと。「僕が子供の時にはお金で最強カード買って戦うのはズルだって言っていたよね。よもや自分でそんなズルはしないよね」って行間を感じたが、ある程度戦艦を育てた上でハンドルネームごと譲ってくれたので優しいといえば優しい。で、見事にはまる。肝は「自分と自艦の能力向上」「戦闘区域の特性を見極めた戦略的ポジショニング」「競合チームの意図の予見」なのだが、これは社長やセミナー講師として重要だと伝えていることとまさに一致している。しかし、長男が進化させてくれてから便乗しているため、私は突出して弱い。目的もなくリスキーな場所に進んで最初に撃沈され、それが怖くて逃げ回れば通報され、挙句に味方を撃って沈めてしまう(会議で自分がうしろから撃たれたことはありますが、、)。
 そうすると「なにやっとんじゃ、ボケ」「このど素人が」にあたる英語が若者から容赦なく飛んでくる(中国語でも罵倒されているが怖くて翻訳していない)。そんなこと、この30年会社では誰にも言われたことないのに。でもたまに貢献1位になると称賛してくれて嬉しい。褒めることは大事ですねー。そんなこんなで3年かけてようやく最強艦「大和」までたどりついたが、大和で参戦すると競合側にも大和がウヨウヨ、結局自分は弱い。システムのAIよ、私だけ最強艦が使える、超新薬単独発売にしてくれ。ある時、朝7時の運用サーバーリセット後の20分ほど艦数が半分程度になることに気づいた。ウヨウヨしない、徹夜した強者はそろそろ寝てるはず。この読みは的中し、貢献1位にもなれるようになったのだ。ところがここで想定外の敵が登場した。7:15から始まる「おしん」である。物語に引き込まれ砲撃どころではない。おしんの展開の方がよほど連続砲撃だ。
 1983年のある日、私は東北の病院でMRとして朝駆けをしていた。待合室でおばあちゃんたちが号泣している。だれか同室の人でも他界したのかなと思ったが、みなテレビを見て泣いている。おしんであった。東北の同じ地、同じ世代で生き抜いてきた人たち、2019年ですらこの衝撃波だったら、そりゃ境遇が重なるおばあちゃんたち号泣するでしょ。一方、お昼の医局では先生こぞって鑑賞、嫁いびり編では「吉里君九州だよね。こんなに姑さんきついの?」との質問、当時の九州人の東北での婚活に影響与えたのではなかろうか。
 おしんやボラプのフレディもそうかもしれませんが、主人公を知らない世代がその環境や苦闘そして再生に驚き、共感し、そのおかげで世代を超えて同じ目線で会話する機会ができてきました。同じ場面、同じ言葉に心が打たれ、そこで双方向の会話ができるようです。ゲームで世代を超えて罵倒されてるのとは対極にありますね。
 オンラインゲームで「なにやってんだ」と思うPlayerがいたらそれはもしかすると還暦のおじちゃんが必死で頑張ってるのかもしれません。「暖かみのある」扱いで見守ってください。同仁医薬の方、これ読んで社長艦沈めてうっぷんを晴らそうとしても無理ですよ。艦船名は長男命名なので、名前で推測はできないと思われます。あしからず。

 

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