EN

月刊JGAニュース

次世代産業ビジョン~社会との約束~  

Monthlyミクス編集部
望月 英梨

 「健康長寿社会を実現する“健康・医療・介護の未来に貢献します。”特許期間満了医薬品“供給の社会インフラとして世界に貢献します”」―。日本ジェネリック製薬協会は7月、次世代産業ビジョンの概要を公表した。後発品80%目標達成が迫るなかで、ジェネリック業界として、社会に約束として掲げたのが冒頭の一文だ。
 遠隔診断による疾患の発症予測を患者のスマホが受信する。再生医療による治療や、3Dプリンターを活用したテーラーメード医療が実現する。車に乗るだけで血圧や心拍数、血糖値などバイタルを自動でとり、必要に応じてドローンが薬を届けに来る―。ビジョンでは“2030年のある日の夕子さん”として、AI(人工知能)やIoTにより、Society5.0が実現した日常を浮き彫りにした。この姿から、遡り現在すべきことを策定する“バックキャスト”と呼ばれる手法を活用し、考え方を示したのが特徴と言える。
 実はこの手法、国の政策決定の場でも活用されている。例えば6月に閣議決定された、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)や成長戦略実行計画の策定に際しても、この手法が用いられている。

◎人口減少が社会システムを変える

 日本を襲う環境変化が、激しく、そして速い。2025年に超高齢社会を迎えた日本は、その後急速な労働生産人口減少に直面する。1970年代の日本の高度経済成長を支えてきたのは、労働力に他ならない。人口減少時代で起きるのは、消費の落ち込みだけではない。成長の源泉でもある、労働人口が減少することで、これまでのような右肩上がりの成長軌道そのものを見出すことが難しくなる。社会の変革が起きるなかで、AIやIoTをはじめとした技術革新は、時代の変革のスピードを加速させる可能性がある。我々の固定観念を根底から覆す可能性をもはらんでいる。
 こうした社会の到来は、足元(現在)から予測を立てるのが難しくなる。そこで活用されるのが、未来の姿から必要な施策を考えるバックキャストというわけだ。今回のビジョンは政策決定同様、バックキャストを活用。社会や医療環境変化に対して、国民の「健康・医療・介護」において存在感を発揮するジェネリック産業像を描いた。策定過程では、政策委員会の各メンバーが執筆に携わったと聞く。こうした業界自らが考える、その過程こそが重要だと感じる。
 次世代産業ビジョンからは、製剤技術や生産技術といった強みを活かす医療分野を超えた介護・未病分野への活用や、医療・介護従事者の生産性向上への寄与、社会にバリューを提供するSDGsの達成に寄与など、社会課題解決に貢献する決意が見える。ICTをはじめとした異業種とのオープンイノベーションを推進し、医薬品などの保健医療分野を超えたソリューションの開発に取り組む姿勢も鮮明にした。すでに大手先発メーカーがソリューションの提供へとビジネスモデルの転換に向けた模索を始めているが、ジェネリックメーカーも名乗りをあげた感さえ受ける。
 今後、地域包括ケアシステムへと医療現場が移るなかで、感染症や生活習慣病などの多くの医薬品供給を支えるジェネリックメーカーの責任は増す。しかし、これは同時に大きなビジネスチャンスでもある。社会、地域を支えるいわば、プラットフォーマーとなる可能性もある。社会や地域に医薬品をはじめとしたソリューションの提供で、国民の健康長寿に貢献する。それこそが真の製薬企業の役割でもあるだろう。

◎薬価差ビジネスを論じる時代ではない

 ジェネリック医薬品もこれまでは、薬剤費抑制の象徴的な存在として、政策誘導的に成長を描いてきた。しかし、2030年、40年を考えたときに果たして成長モデルを描くことはできるだろうか。当然のことだが、業界全体だけでなく、各企業が自社の強み、弱みを分析し、社会に貢献する新たなビジネスモデルを構築することが必要だ。後発品80%時代を考えれば、安定供給や品質管理、品質・安全性情報の提供などは当然のこと。さらなる高みを目指す必要がある。
 2020年度薬価・診療報酬改定に向けて、薬価の議論も本格化する。7月に開かれた中医協薬価専門部会で、日本ジェネリック製薬協会は、「同一価格帯のなかで改定後の薬価が改定前の薬価を超えるものを別の価格とする」と主張した。これまで、後発品の価格帯一本化ありきで進んできた議論にも一石を投じ、9月以降に議論の本格化も見込まれる。
 これまで、ジェネリックビジネスは、薬価差を国の政策誘導で発展してきたことは否めないだろう。しかし、社会や医療環境が大きく変化するなかで、薬価差に主眼を置いた戦略は、もう限界にきているのではないか。ジェネリックビジネスは、薬価、流通、情報提供、あらゆる面から新たなビジネスモデルを考え直すタイミングに来ている。

 

PDFでご覧になる方はこちら