特別寄稿
ジェネリック医薬品対する患者意識の変遷
北海道女性薬剤師会会長
山口 路子
平成30年度の診療報酬改定において、更なるジェネリック医薬品の推進が盛り込まれています。調剤 報酬改定では、ジェネリック医薬品の調剤数量割合が著しく低い場合は、調剤基本料から減算する、いわ ゆるペナルティが課されることとなりました。私は保険薬剤師として、保険薬局に在籍していますが、こ の2年間は定期的に、社内8薬局のジェネリック医薬品の調剤数量割合を確認して、「ジェネリック医薬 品使用の推進」に対する管理薬剤師意識の確認をしてきました。努力の甲斐あって、7薬局は80%前後、1 薬局のみ50数%で推移しています。この当社の数字は、「ジェネリック医薬品の使用は推進しなければな らない」という薬剤師の目標の反映であるとともに、患者がジェネリック医薬品を認知している反映で あると感じています。
数年前までは、患者にジェネリック医薬品を勧めると「安心できないから、このままで良い」という人 や、「それってパチもんだろう」という冷ややかな言葉が返ってきたものです。しかし、いったんジェネ リック医薬品を使用してみると、不都合がとくに見当たらないことに気づき、やがて経済効果を実感す るようになったことを感じとれます。とくに、鎮痛薬の内服薬や外用薬で良くみられる患者の反応とい えるでしょう。最近では、2型糖尿病の新薬ラッシュに対し「この薬はジェネリックに変更できないの?」 という声も聞かれるようになりました。吸入ステロイド薬も高価であるため、患者の方からジェネリッ ク医薬品の有無を聞かれることがあります。このように慢性疾患の医薬品を使用していればいるほど一 部負担金が家計にのしかかってくるため、「特許がきれてジェネリック医薬品が出たら教えて!」と言われ るようになりました。一方、いまだにジェネリック医薬品に懐疑的な人もいます。品質に対して懐疑的な 例として、ジェネリック医薬品の向精神薬が「先発医薬品に比べて効きが悪い」という人が少なからずみ られます。科学的な検証のない評価であって、先入観に左右されている可能性もあります。だいぶ前にな りますが、マイナートランキライザーであるロラゼパム錠の先発医薬品が入荷停止になったことがあり ます。明らかに添加剤は異なっているにも拘わらず、医療機関はこぞってジェネリック医薬品に処方を 切り替えたため、今度はジェネリック医薬品が品薄になって調剤に苦労しました。ジェネリック医薬品に否定的な人は「添加剤が異なるから、どのようなアレルギー症状が出るか不安なので処方しない」とい う持論を展開しますが、ロラゼパム錠の供給が停止したときは、「添加剤が不安」といった議論は聞かな かったように思います。最近では、ゾルビデム酒石酸塩錠では、ジェネリック医薬品に切り替える人も 徐々に増えています。エモーショナルな要因に評価が左右される医薬品では、ジェネリック医薬品への 移行は時間がかかるのではないかと思います。患者の不安に応え、患者に合わせた情報提供と交付後の フォローアップを行うことこそ、かかりつけ薬剤師の仕事の一つではないでしょうか?
平成30年度の診療報酬改定では、医療機関における一般名処方への評価が一般名処方加算1・2として 設定されています。一般名処方における患者の医薬品選択に適切な助言を与えるのは薬剤師の責務だと 思います。1997年、Vancouverにおける国際薬学連合(FIP) 年会において、「ジェネリック代替調剤を 薬剤師の調剤権とする確認宣言 (FIP Vancouver宣言)」が行われました。本邦での現状を踏まえ、この宣 言に資する薬剤師を育成することが私の役割であり、今後も自分自身の研鑽を積もうと思います。
ジェネリック医薬品のさらなる使用促進について
厚生労働省医政局経済課
後発医薬品使用促進専門官
嶋田 勝晃
(平成30年3月ご寄稿時の職名)
後発医薬品の使用割合に係る数値目標については、2015年(平成27年)6月の閣議決定において、 「2020年度(平成32年度)までの間のなるべく早い時期に80%以上とする」とされていましたが、この 80%目標の達成時期については、昨年6月の閣議決定において、「2020年(平成32年)9月まで」と決定されました。
後発医薬品の使用割合については、これまでの後発医薬品の安定供給、品質等に関する信頼性の向上、 診療報酬上の措置など、国を始め、関係者による様々な取組の結果、医薬品価格調査(薬価本調査)では、 2017年(平成29年)9月に65.8%に到達しました。
政府として、後発医薬品の使用割合に係る数値目標を初めて定めたのは2007年(平成19年)のことで す。この年の使用割合は9月時点で34.9%でしたので、この頃と比較すると使用割合の伸び幅は30%超 となり、着実に延伸している状況にあると考えています。
一方で、後発医薬品の使用割合については、都道府県間で差が生じており、その差は最大で約20%にも 及んでいることから、使用割合80%という目標を達成するためには、更に力を入れて取り組んで行かな ければならないと考えています。
このため、厚生労働省では、2018年度(平成30年度)予算において、特に後発医薬品の使用促進が進ん でいない地域や薬剤料が多い大都市圏を重点地域として指定し、都道府県の取組を支援するための予算 を計上しました。
具体的には、他の地域と比べて後発医薬品の使用促進が進んでいない地域における個別の問題点を調 査・分析し、その結果を踏まえた取組を実施することとしており、重点地域の都道府県において、例えば、 地域の保険者が有するレセプトデータを活用して地域における医療機関・保険薬局における後発医薬品 の使用状況を調査・分析することなどにより問題点を把握し対策を講ずることとしています。
このように、後発医薬品のさらなる使用促進のためには、これまで以上に地域の実状に応じたきめ細 やかな取組が重要であり、地域の医師会、歯科医師会、薬剤師会、保険者といった関係者のより一層の連 携が大変重要なことであると考えています。このような観点からの取組の一環として、日本ジェネリッ ク製薬協会に尽力いただき、本年2月18日に東京都において医療関係者や保険者が後発医薬品の使用割 合80%の達成に向けた課題等について意見交換を行うためのパネルディスカッションを開催しました。
このパネルディスカッションは、今後も定期的に開催することとしていますが、2月18日のパネル ディスカッションでは、特に後発医薬品に係る副作用等の情報の共有が重要であることが指摘されまし た。関係団体、後発医薬品メーカーにおいては、情報提供に関する様々な取組が行われているところです が、これまで以上に情報提供が求められていますので、医療機関、保険薬局へのより一層の取組をお願い します。
保険者に関する取組としては、厚生労働省において、保険者別の後発医薬品の使用割合を公表するこ ととしています。この取組はまず、2017年度末(平成29年度末)の実績について2018年(平成30年)の夏 頃を目途に厚生労働省から都道府県に対して保険者別の使用割合のデータを送付し、都道府県や保険者 協議会における分析・検討に活用してもらうこととしています。2018年度(平成30年度)以降の実績につ いては、各年度の9月時点の実績を当該年度末に、各年度末時点の実績を翌年度の夏頃に公表すること としています。
また、2018年度(平成30年度)から開始される第3期医療費適正化計画において後発医薬品の使用促 進に関する取組目標が盛り込まれることや、都道府県が保険者協議会の構成員となることからも、地域 の医師会、歯科医師会、薬剤師会等との連携に加え、医療費適正化に関わる関係者との連携も重要となり ます。
このため、厚生労働省としては、都道府県に対して、都道府県内における後発医薬品の使用促進を担う 部署、医療費適正化を担う部署、保険者業務を担う部署の連携や、後発医薬品の使用促進の役割を担う後 発医薬品の使用促進のための協議会と保険者協議会とが連携して取組を推進するよう要請しています。 また、いくつかの都県においては、後発医薬品の使用促進のための協議会の活動を休止しているとこ ろもあるため、活動の再開も要請しています。 このように、これまでの取組に加え、地域の関係者が連携することによって地域の取組がより一層活 発化されるよう取り組んでいくこととしています。