諸刃の剣
小林化工株式会社
代表取締役社長 小林 広幸
最近、身近に癌を患って亡くなられる方が多いように感じます。またそれ以上に、以前はそれ程頻度が高いとは思わなかったような難病を患い、長い闘病生活を続けている方も多く見受けられます。一方、我々製薬メーカーは、医薬品を開発、製造し、販売までを担っているわけですが、実際の臨床現場で、特に病院等で癌や難病を患っている方に、どのように薬剤が使われ、そして投与後に実質的な効果や副作用がどのように現われているのかを直接的に目にする機会は少ないかと思います。かく言う私も、薬剤師でありながら臨床での体験は大学4年時の実習程度であり、この春6年制薬学課程を終了し、病院薬剤師としての道を歩み始めた現役の娘とは議論にすらならない程の知識レベルの差を感じております。
さて、ステロイド薬と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか。強い副作用を伴うことから、こわい薬だと身構えてしまうことがありますが、さまざまな疾患に対しては著効を示す薬剤で、炎症反応、免疫反応が強く、炎症性疾患や重要臓器障害を有する膠原病では第一選択薬として位置づけられています。一度は服用したことがあるという方も多いかと思いますが、今回身近で全身性血管炎を発症し、初期治療が遅れ、一刻の猶予もなくステロイド治療を開始しなければならない状況に追い込まれた患者さんの臨床経過を報告したいと思います。
この患者さんは、腎不全寸前の、腹水がたまり、尿も出ない状態で入院したのですが、ステロイド薬を初期投与量40mg /日から開始し、その後50mg /日を2週間程度投与した結果、炎症を示すCRP値が劇的に改善され、ほとんど出なくなっていた尿が1日1,500ml以上排泄されるまでに回復したことには驚かされました。最新の利尿剤(バソプレシンV2受容体アンタゴニスト)の併用もありましたが、クレアチニンや尿素窒素、GFRの値も改善されました。一度機能不全に陥った腎臓は元に戻らないと言われますが、透析実施寸前まで進んだ値がここまで改善されるとは思いもしませんでした。一方、ステロイド薬により全身性血管炎は寛解し、腎機能も劇的に改善はされたのですが、副作用の典型である血糖値の大幅な上昇を抑制するためにインスリンを投与することになりました。また、精神状態の変調抑制のために抗不安薬を投与し、更には、感染症や骨粗鬆症予防のための薬剤も投与することとなってしまいました。結果として、食前のインスリンの自己注射とともに、食後には10種類近い経口薬を服用しなければならない状況となり、この薬物治療が患者さんのQuality ofLifeを考えた場合に本当にベストな選択だったのかどうかを考えさせられる経過をたどりました。
ステロイド薬は、優れた効果と副作用が同居していることから、古くから諸刃の剣と言われておりますが、まさしく、この病気に対しての一連の処置からはこのことを痛感させられました。
また、ステロイド薬は、JGA会員会社様からも発売されておりますが、先発製剤を含め各社剤形が異なります。今回の処方薬は、直径が5.6mmしかない製剤であったため、高齢者にとってはほとんどつまむことができない大きさで、製剤のサイズや形状が服薬アドヒアランスにも大きく関わる要因であることをあらためて考えさせられる機会にもなりました。
我々ジェネリック製薬メーカーの使命として、患者さんに福音をもたらす製剤開発が今後も重要であり、そのような製剤が国を越えて評価されていく時代になってもらいたいと期待する次第です。