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月刊JGAニュース

「レジリエンス」のための「暴走」と「慎重」  

寿製薬株式会社
代表取締役社長 CEO 冨山 泰

img20.jpgオプジーボの発見でノーベル賞を受賞された本庶佑先生は大のゴルフ好きで有名であるが、私は一緒にプレーした人物を2人知っている。1人は誰もが知る高名な学者で、もう1人は弊社取締役相談役で実の父だ。あるとき前出の学者とお互いに杯を傾けていた時、「これはあくまで噂なのだが、本庶先生は、初めて回るゴルフ場でプレーする前は、密かに早起きして、全ホールを通常の逆方向、つまりカップからスタートラインまで歩くらしいのだ。」と言われた。私は、とっさに「本庶先生は、ノーベル賞の受賞会見で、川に架かった橋を立派にするのが私の仕事ではなく、橋がない川に橋を架けるのが私の仕事だ、とおっしゃられていました。このようにリスクを恐れずにリスクを取る、暴走しても良いぐらいの姿勢をお持ちの方で、ある意味アメリカっぽくて格好いいと思います。未知のコースを制覇・克服することに醍醐味を感じる人物像ではないでしょうか。」とお答えした。続けて、更に少し杯を傾け、私は「もし、その噂が本当ならば、相当に用意周到なお方ですね。打った場所からは見えない落下地点をあらかじめカップ側から見ておくのですから。」と話しを続けた。本庶先生の未経験のゴルフ場のプレー前の入念な下見の真偽の程は定かでなく、あくまで噂の範疇だが、そもそもゴルフでは、「設備投資とゴルフは手前から」に代表されるように慎重な姿勢が評価されるスポーツでもある。開拓者精神旺盛で豪放磊落にお見受けする本庶先生も、決して暴走しない慎重な姿勢があるからノーベル賞の栄誉に浴されたのではないかと推察している。
 此の頃、「暴走=アクセル」と「慎重=ブレーキ」の相反する単語の経営での重要さを感じている。
・どこで「アクセル」を踏み、どこで「ブレーキ」を踏むのか?
・どこまで「アクセル」を踏んで、どこから「ブレーキ」を踏むのか?
・どの分野の「ブレーキ」を踏み、どの分野の「アクセル」を踏むのか?
 弊社ではジェネリック医薬品と新薬ビジネスの両方を行っているが、ある意味、新薬ビジネスは最近のジェネリック・ビジネスよりも「アクセル」と「ブレーキ」を踏むのが読みやすいのかもしれない。それは新薬開発には流行があり、より高付加価値を求め、水が高い所から低い所に流れるように、ある程度治療満足度が得られれば治療満足度の低い分野に移ること、いわゆるアンメッドメディカルニーズに創薬標的が向かって行くためだ。1970年以降、抗生物質⇒胃粘膜保護剤⇒降圧薬⇒抗脂血症⇒糖尿病⇒抗ガン剤・希少病の流れがあるので、他の分野の開発には「ブレーキ」を踏んだとしても、現在は抗ガン剤や希少病の「アクセル」を思い切り力を込めて精一杯踏み続ければ良い。
 一方で、最近のジェネリック・ビジネスは新薬・ビジネスよりも読みにくい。数年前までは読みやすく、サーキット・レースのように、特許切れの号砲下、各社一斉に「アクセル」を踏み続け、「ブレーキ」を踏みこむのは採算悪化もその一因なのかもしれなかった。一方で最近は、「アクセル」を踏む対象が分かりにくくなりつつあり、ジェネリック・ビジネスにおいて踏むべき「アクセル」を暗中模索している、今日此の頃である。
 更に「アクセル」と「ブレーキ」のみで話は片付かない。どの程度の力や時間で「アクセル」と「ブレーキ」を交互に踏み込むのかが問題だ。それにより加速、失速、上り具合、下がり具合が決定されるためだ。またそれらを使って、どのような将来像を描くのか?
 これも敬服する業界を代表する大先輩に言われたことがある。「レジリエンスに行けばいいよ。例えば、ビーチボールを投げた時に、何度もバウンドして、下がってしまうのではなく、バウンドして上って行くイメージ、あれだよ。この業界は特許切れや商品寿命など、色々な問題はある。ただし、10年後に業績が上がっていればいい、それだけだ。」
 「レジリエンス」とは企業が持続的に成長し続ける「生きる力」そのものであり、これをキーワードとして今後の人生に活かしたいものである。

 

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