泉南薬剤師会におけるジェネリック医薬品使用促進の取り組み
泉南薬剤師会
少子高齢化を背景に膨張を続ける医療費と支え手の減少は、医療保険財政を圧迫し続けている。安価で先発品と生物学的に同等とされるジェネリック医薬品の使用促進は、こうした問題の解決策として、また患者負担の軽減という観点からも大きな期待がよせられている。ジェネリック医薬品の使用促進に向けて、これまで国もさまざまな施策を講じてきた。患者及び医療関係者が安心してジェネリック医薬品を使用できるよう、ジェネリック医薬品メーカーに対して安定供給・品質確保・十分な情報提供・使用促進に係る環境整備などを求め、また国としても医療保険制度を見直すことで普及に努めてきた。
こうした取り組みが奏功し、ジェネリック医薬品の数量シェアは上昇を続け、平成30年9月時点においては全国平均72.6%にまで達している。しかしながら、平成29年6月に定められた「平成32年(令和2年)9月末までに、ジェネリック医薬品の使用割合を80%とする」という目標を達成するためには更なる尽力が必要であり、ジェネリック医薬品使用促進の最前線たる調剤薬局の果たす役割は大きい。ジェネリック医薬品の使用促進にあたり、調剤薬局にもいくつかの解決すべき課題が存在する。その中でも未だに消えない患者や医師のジェネリック医薬品に対する不信感は主要な課題の一つと考えられる。泉南薬剤師会では、こうした不信感を払拭するための取り組みを行った。
泉南薬剤師会に所属する市町は、泉南市・阪南市・岬町の2市1町であり、それぞれの2018年3月時でのジェネリック医薬品の使用割合は泉南市が65.2%、阪南市が74.2%、岬町が78.5%である。(図1)また、2市1町の人口は合計135,506人である。
各市町で状況は異なり、ジェネリック医薬品の使用割合は泉南市が最も低く、岬町が最も高い。泉南市と岬町を比較すると13.3%と10%を超える隔たりがあり、同じ泉南薬剤師会圏内でも地域により大きな差があった。
また、事業実施前に会員薬局に対してジェネリック医薬品の使用割合について調査を行った。その結果を以下に示す。(図 2)
泉南市ではジェネリック医薬品の使用割合が61%未満の薬局が過半数を占め、阪南市、岬町では51%未満の薬局は存在せず、71%以上の薬局が 3/4 を占めている。この調査結果は各市町のジェネリック医薬品使用割合の傾向と一致した。
次に泉南薬剤師会で取り組んだ内容を以下に示す。まず従来通りにジェネリック医薬品について丁寧な説明を行い、患者に正しい理解を促した。本事業ではさらに変更後 1 週間を目安に、服薬状況や副作用の有無を電話連絡により確認することで、より安心してジェネリック医薬品を使用できるようサポートした。また、電話連絡時の情報に加え、経済的効果を調査するためにジェネリック医薬品への変更による薬価差についての情報も収集した。電話連絡時の報告内容についての詳細は以下に示す。
- ・ 確認相手(本人・家族・その他)
- ・ ジェネリック医薬品への変更後の体調変化の有無と内容
- ・ 飲み方や不安に思うことなどの質問の有無と内容
- ・ 電話フォローによる患者の感想(安心した・このまま飲み続けようと思う・まだ不安なので後日連絡が欲しい・その他)
- ・ 今回の変更薬以外の併用薬
- ・ 変更内容(先発医薬品名・ジェネリック医薬品名とそれぞれの薬価)
- ・ ジェネリック医薬品への変更による削減金額
また、お薬手帳にジェネリック医薬品への変更の動機、変更した薬剤名を記入することで、医師への情報伝達を行った。伝達情報の詳細な内容を以下に示す。
- ・ ジェネリック医薬品に変更した先発医薬品名
- ・ 患者に説明した内容(以下より選択・複数可)
- 先発と効果が同等であることの説明
- 国民皆保険制度の維持について説明
- 支払額の説明
- オーソライズドジェネリックであることの説明
- 錠剤が小さく飲みやすいことの説明
- 錠剤・シートごとに販売名が記載されていることの説明
事業終了後に各薬局に対してアンケート調査を行った。本事業に対する各薬局の主観的評価を収集し、今後の課題や成果について検討した。
アンケート項目の具体的内容については以下に示す。
- ・ 今回の事業を実施した感想について (5 段階評価 )
- ・ 今回の事業を振り返って 良かった点・悪かった点
- ・ 実施にあたり問題のあった点、もしくは問題があると思った点について
- ・ その問題の解決策について
- ・ 手帳シール・ポスターなどの資材は活用できたか?
- ・ 手帳シールに関して、医師から何か問い合わせはあったか?
- ・ 今回の事業がジェネリック医薬品使用のきっかけとなったか?
- ・ 事業終了後も同様のサポートを継続していきたいと思うか?
- ・ ジェネリック医薬品の使用割合について(6-8 月と 9-11 月分)
事業実施後、各薬局の事業実施前(6 月から 8 月)3 か月と事業実施期間中(9 月から 11 月)のジェネリック医薬品使用割合を調査し、その比較から本事業の及ぼした影響を評価した。図 2 に示した薬局数との比較から、泉南市では 51%未満の薬局数が 1 減少し、61%以上 71% 未満は 1 増加した。阪南市では、61%以上 81%未満の薬局数が 3 減少し、81%以上は 3 増加した。岬町では、変動はなかった。さらに、事業期間を経て、それぞれの薬局のジェネリック医薬品使用割合がどの程度変動したかを図3に示す。なお、0%未満の変動とは、事業期間後にジェネリック医薬品使用割合が低下したことを示す。
それぞれ 0%未満(使用割合が減少)の変動に該当する薬局数は4、0-1% 未満では5、1-2% 未満では 8、2-3% 未満では7、3% 以上は2 であった。本事業を経て全体の約 85% の薬局でジェネリック医薬品使用割合が増加した。
また、本事業では実際にジェネリック医薬品に変更した際の薬価差についても調査しており、その結果を表 1 に示す。
本事業期間中に473例で新たにジェネリック医薬品への変更が行われ、変更による経済的効果は859,151円(薬価差)であった。
次にジェネリック医薬品に変更した 1 週間後の電話連絡での患者の反応についての集計結果を表2に示す。
全報告数に対して回答数は 87.1%であった。報告数に対して回答数が少ない理由は、患者の中には電話連絡を断る方や、連絡が取れなかったケースがあったためである。表に示したそれぞれの割合はすべて母数を全報告数である 473 として算出した。
表より、電話連絡時点においてジェネリック医薬品に変更した 98%(未回答含む)の患者で問題はなかった。体調変化を訴えた場合も、ジェネリック医薬品への変更とは無関係であるケースがほとんどで、電話対応により問題は解決した。中止された 3 例については「先発品より効果が低いと感じた」、「飲む気がしない」、「見た目が変わったことで飲み間違えてしまう」という内容であった。
最後に実施後に薬局から得たアンケート結果について一部抜粋したものを以下に示す。(回答数は 28薬局)
- ・ 事業を実施した感想については、普通以上と答えた薬局が 23(大変よかった・よかったは 13)であり全体のおよそ 8 割が好意的であった。
- ・ 事業を振り返って良かった点としては、「ジェネリック医薬品を進めるきっかけとなった」という意見が多かった。
- ・ 逆に悪かった点としては、「手間や時間がかかる」という意見が多かった。
- ・ 本事業実施にあたり問題があった点については、ほとんどが電話に関するもので、「繋がらない・連絡が取れない」や「逆に不信感を与えた」などの意見が多かった。その対策としては「必ず電話するのではなく、臨機応変な対応が良い」というものであった。
- ・ 本事業がジェネリック医薬品使用のきっかけとなったか?という問いに対しては、19 薬局がきっかけとなったと回答しており、全体の 2/3 を占めた。
アンケート結果より、本事業がジェネリック医薬品の使用促進のきっかけとなり、多くの薬局が実施して良かったと感じた。しかしながら、多くの薬局が「手間暇がかかる」という点を問題視していた。さらに事業の改善点として、電話連絡がかえって不信感を招くケースもあり、臨機応変な対応の必要性が指摘された。
本事業は、薬局側の業務負担の増加や、患者が不信感を持ったケースなど今後の課題も見受けられた。しかしながら、473 例の新規変更により 859,151 円という削減効果があったことは大きな成果であった。他にも、多くの薬局がジェネリック使用促進のきっかけとなった点も本事業の成果であったと考えられる。