世界文化遺産と医薬品の対応性
東洋カプセル株式会社
代表取締役社長 望月 陽介
東洋カプセル(株)は人口13万人の静岡県富士宮市に在する。富士宮市はかつて隣接する山梨県南部を含めた重要な商業拠点であり、富士山本宮「浅間大社」を中心に大変な賑わいを見せていた。しかし、多くの地方でみられるように今では人通りがまばらになってしまった。かつて賑わいを見せていた市内7つの商店街はシャッター通りと化している。ところがこの数年、土日祝祭日を中心に市を訪れる観光者数が増加傾向にある。その要因として、2013年6月、富士山が世界文化遺産に登録されたことがあげられる。この登録は富士山だけでなく、浅間大社をはじめ富士五湖、白糸の滝、忍野八海、三保の松原など富士山が「信仰の対象」「芸術の源泉」となった25の資産により構成されている。この構成資産の中でも富士山を背にした浅間大社は、世界遺産の中心的な存在といえよう。さらに2017年12月には「逆さ富士」を模った「富士山世界遺産センター」が浅間大社の近くにオープンした。これは、世界遺産の根拠として「世界遺産条約」に規定されている世界遺産を「保護し、保存し、整備し及び将来の世代へ伝えることを確保する」ための拠点施設であり、学術調査機能などを併せ持つミュージアムである。1階から5階を繋ぐ螺旋のスロープを擬似登山の体験をしながら登り、頂上にたどり着くと眼前には実物の富士山がスペクタクルに広がるという建造物である。入場者数も初年度で50万人を越えたとのことで、かつて市を訪れ賑わっていた頃の人数を上回っているのは間違いないであろう。しかし、その頃に訪れた人々は近隣の方々すなわち日本人がほとんどであったのに対し、このミュージアムの入場者にはとても多くの外国人が含まれているのが当時と違うところである。近隣アジア諸国をはじめ北米、南米、欧州、中近東、アフリカなど数十か国から訪れており、この富士宮市という地方にも民族多様性を見せているのである。
ここでふと思ったことは、「医薬品の対応性」である。これだけ多くの外国人観光客がこの小さな街に訪れているのだから時には事故や発病もあるであろう。その際に市内の医療機関では対応に苦慮することもあるのではないか?と思った。例えば日本で承認された医薬品を用いる際の投与量などはどうしているのか?など考え始めると種々の気になる点が浮かび上がってくる。これは富士宮市に限らず全国各地でみられる事象だと思う。医療用医薬品の承認審査レギュレーションは当然ながら日本人が対象となっている。しかし、今や都市だけでなく地方までとても多くの外国人が訪れており、医薬品が必要な際は国内で承認された医薬品を使用することとなる。その際、投与量については悩むところではないだろうか。そろそろ投与量など承認申請・審査の段階でそれらを考慮する必要性もでてきているのではないかと考える。そこで、今後は用法・用量など外国のレギュレーションも考慮する時期にきているのではないだろうか?一方で、米国では処方薬として購入できるオピオイド系鎮痛剤が日本では違法薬剤であることも多い。2015年、国内大手自動車会社の外国人女性役員がオキシコドンを国内に持ち込んだ際に麻薬取締法違反容疑で逮捕された。他に個人輸入による医薬品の個人使用も問題になっている。これらの問題は決して小さくなく大変なことであるが、多様性への対応は経済効果も含めて考えると国や企業にとってもある意味チャンスかもしれない。
今年はラグビーのワールドカップが我が国で開催される。来年はいよいよオリンピックが開催され世界各国からいまだかつてないほどの外国人が日本に訪れようとしている。この機会に「医薬品の対応性」ついて考えるのも必要ではないか?と市内に訪れる外国人観光客を見て思った次第である。