2 つの世界遺産
梅雨の合間に初めて訪ねた長崎は、三方を山に囲まれた美しい港町であった。だが、そんなこじんまりした外観からは想像もつかないほど大きな歴史を背負った土地でもある。
ユネスコ世界遺産委員会により、2015 年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が登録され、続いて 2018 年には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が登録された。2019年6月現在、日本にある世界遺産は文化遺産18、自然遺産4の合計22であることを鑑みると、長崎県は全国でも数少ない複数の世界遺産がある都道府県となった。
「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は、封建社会の幕末から明治時代に急速な発展を遂げ、日本の近代化に貢献した重工業に関する産業遺産で、8県に点在する23の資産から構成され、そのうち8資産が現在も稼働中という珍しい世界遺産である。中でも、軍艦島の通称で知られる端島炭鉱は、高品位炭を産出し、明治末には八幡製鉄所へも原料炭を供給していた。閉山から半世紀近くが経ち廃墟となっていが、世界遺産登録によって、保全が勧告され、今では人気観光コースになっている。
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、江戸幕府によるキリスト教禁教政策の下で、ひそかにキリスト教信仰を継承しつつ、社会や他宗教と共生し、独特の文化を育んでいった潜伏キリシタンの歴史を伝える遺産群。長崎県西部に五島列島、熊本県天草と、2 県 6 市 2 町にまたがる 12 の資産で構成されている。
同資産は、日本にキリスト教が伝来し、宣教師が活動した初期の時代から、キリスト教及び入植者が禁教により迫害を受けた時代、そして禁教が解かれカトリックの信仰が復活した時代までを段階的に表している。
長崎港を見下ろす高台に立つ大浦天主堂は 1864 年に建てられ、美しいステンドグラス等をふんだんに使ったゴシック様式の造りで、日本での洋風建築の始まりとされ、日本に現存する最古の教会で国宝にも指定されている。来日した外国人宣教師が、200 年以上も信仰をひそかに継承していた潜伏キリシタンの村民と出会った歴史的な「信徒発見」の舞台でもある。
世界遺産制度の素晴らしさは、明るい歴史の部分だけに焦点を当てるのではなく、闇の部分も直視し、それらを全て人類共通の遺産として、後世に伝えていこうという姿勢だと思う。
さて、この度、「日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会第 13 回学術大会」がご当地の長崎大学で開催され、ポスト 80%時代へ向けた活発な議論が各会場で繰り広げられた。「明治維新の風は長崎から吹いた」という言葉があるように、この歴史的な長崎の地から、新たにどのようなジェネリック医薬品の風が吹くのであろうか。
(M.U.)