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月刊JGAニュース

夏休みの読書感想文 ~令和元年版と平成元年版の科学技術白書〜  

ナガセ医薬品株式会社
代表取締役社長 赤坂 満

img11.jpg 5月に閣議決定された令和元年版の科学技術白書、副書名は「基礎研究による知の蓄積と展開~我が国の研究力向上を目指して~」で、京都大学の本庶先生(2018年ノーベル生理学・医学賞)、島津製作所の田中先生(2002年化学賞)をはじめとするノーベル賞受賞者の先生方が基礎研究への危機感を訴えていることが紹介され、我が国の基礎研究に関する世界的な存在感が低下している現状を論文数(被引用数の減少)・研究資金・研究人材(博士課程入学者の減少)・研究環境などの面から分析しています。そのうえで基礎研究が社会にもたらす価値という章で、基礎研究が社会の役に立った事例として、青色発光ダイオードの実現によるLED時代の到来(2014年物理学賞)、土壌中の細菌が作り出す物質(イベルメクチン)による寄生虫感染症の撲滅(北里大学の大村先生、2015年生理学・医学賞)、iPS細胞による新たな再生医療実現の可能性(京都大学の山中先生、2012年生理学・医学賞)などが紹介されています。
 ここで平成元年版の科学技術白書はどういう内容だったんだろうという興味がふと湧いて文科省ホームページで調べてみました、副書名は「平成新時代における我が国科学技術の新たな展開」という至極当たり前のもので飛ばし読みをしつつ今後の課題と展望の章をみて少し驚きました。科学技術の充実のための新たな課題の第一として「基礎研究の本格的強化」があげられていました。当時はGNP(1989年は未だGDPではなくGNP国民総生産が経済規模の指標であったことを思い出しました、時代を感じます)に対する研究開発費の比率が10年前に2%を越え科学技術先進国としての一応の水準に達した時代であったこと、80年代の10年間は産業界中心の活発な研究開発により高い科学技術力を実現したこと、90年代以降も産業に直結した応用・開発研究の推進、製造業の基盤技術力の確保など産業界
の努力により順調に発展するであろうことが述べられています。一方では産業界に大きく依存することで科学から技術への相対的な傾斜の傾向が問題になりつつあることも指摘しており、公的部門がトータルの科学技術力を確保できるよう基礎研究の本格的充実に大きな役割を果たすべきであると結ばれています。平成元年当時に科学技術の充実のための新たな課題として挙げられている5項目は、第一は基礎研究の本格的強化、第二は国際社会における大きな存在としての我が国の科学技術の国際化の一層の推進、第三は科学技術と人間・社会との調和、特に地球環境問題への対応、第四は地域科学技術ポテンシャルの育成と発展、第五は優れた理工系人材の十分な確保、という内容でグローバル化の推進、地球環境問題への対応、優れた理工系人材の確保などは基礎研究の本格的強化も含め30年後の令和元年現在においても大きな意味でとらえれば変わらない長期的・継続的な課題であるのかなという感想を抱いています(もちろん手法・測定方法・データ処理方法・通信などの技術や機器の進歩、デジタル化の進展やAIの登場など当時では想像もできなかった格段の差があるのは承知の上で)。
 この文章はお盆休み最終日8月18日に書き始め何十年ぶりかに夏休みの宿題気分を味わっていますが(締切1日前の切迫感も当時のまま)、科学技術白書の読書感想文はここまでにして、冒頭のノーベル賞つながりと9月号掲載の時事ネタ絡みということでもう一つ。
 「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」を表彰するイグノーベル賞(Ig Nobel Prize)をご存知でしょうか。ノーベル賞のパロディーとして報道されているのを目にされた方もおられると思いますが、日本人研究者がここ12年連続で受賞しているそうで、2018年度は「座位で行う大腸内視鏡検査―自ら試してわかった教訓」なる業績で昭和伊南総合病院の堀内朗先生が医学教育賞を受賞。新しい時代、令和になっても連続記録を更新できるのか、どんな奇抜で斬新で癖がすごい研究業績が選ばれるのか9月の発表を楽しみにしつつ結びとさせていただきます。

 

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