抗菌薬問題で4学会が厚労相に提言
株式会社じほう 報道局報道1部
大塚 達也
抗菌薬セファゾリンの供給制限問題を受け、日本化学療法学会、日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会の4学会が8月30日付で、厚生労働大臣に安定供給に向けた提言を提出した。
共同で出された提言ではまず、抗菌薬の生産体制を国が把握するよう要求。リスク評価を行った上で、主要な薬は原料の原産地表示を製薬企業に義務付けるよう提案した。
次に、原薬の大半が中国など外国で製造されている現状を踏まえ、国内でも抗菌薬を製造できるよう許認可条件を見直したり、原薬から最終製品化まで国内で行っても利益が出せる薬価を設定するよう訴えた。
抗菌薬の薬価については、海外に原薬を依存している現状でも採算が合わなくなっており、まずはキードラッグを厚生科学審議会感染症部会などで選定し、該当製品の薬価を見直す仕組みが必要と指摘。4学会は提言にあわせて使用頻度が高いキードラッグ10剤も選定した。また、基礎的医薬品が新たな設備投資などで採算割れになった際に薬価を引き上げる制度や、採算割れの基礎的医薬品を抱える企業が薬価見直しを要求できる制度作りも主張した。
実際、供給制限が発生した日医工のセファゾリンは出発物質を製造する中国の製造所と原薬を製造するイタリアの製造所で不具合が発生した。また、そうして海外に原薬製造を委ねても薬価は製造コストを下回っている。提言は諸問題の具体的な解決策を模索した形だ。
もっとも、原薬からすべてを国内生産でまかなえる薬価制度の構築は言うまでもなく難しい。社会全体で医療費、社会保障費が抑制に向かう中、設備投資や人件費といったコストを補えるだけの価格は相当、非現実的なものになるだろう。純日本製抗菌薬誕生までに乗り越えなければいけないハードルはあまりに多い。
それでもやはり、医療側から薬価に関する提案が改めてなされたことは大きな意味がある。抗菌薬の重要性と同時に「安価で手に入るのが当たり前ではない」という価値観を多くのステークホルダーが共有できれば、問題解決に向けた道筋は見えてくるはずだ。
そもそも抗菌薬に限らず、後発医薬品企業は原薬の複数ソース化や製造所の査察など安定供給対策を行っている。業界はそれらを徹底し、自分たちだけでどうしようもない部分は今後も学会などと連携していくしかない。日医工のセファゾリン供給は年内にも再開の見込みとなっているが、抗菌薬ではタゾピペも4月に中国の原薬製造所で発生した事故の影響で、供給制限が発生している。出来るだけ早く、解決への道筋を見つけたい。