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月刊JGAニュース

心に残ることば  

 女性・社会学者のパイオニアである上野千鶴子先生をご存知でしょうか。ベストセラー著書「おひとりさまの老後」は記憶に新しいのではないでしょうか。私は今から十数年前、仕事の関係で上野先生にお会いしたことをきっかけに、先生の「女性学」や「男女同権主義」に関するストレートな考えやそのお言葉に、感銘を受けてきました。先生の学問的感性は、私自身の社会人経験や結婚・出産・育児と、これまでの生き様から得たキャリアとが重なりあうことで、共感を生み出してくれます。
 さて、今年の上野先生の話題といったら、4 月の東京大学入学式の来賓として述べられた祝辞です。祝辞では医学部不正入試問題、大学全体における女子入学者の比率の低くさ、未だ根強く残っている性差別の現状を指摘。その上で、現在の自分があるのは努力ではなく環境のおかげであるとし、自らの能力を自分のためだけではなく不平等が残る社会において恵まれない人々を助けるために使うこと、そして、待ち受けているのは予測不可能な未知の世界であり、未知を探求し続けることを惜しまないでほしいと述べられたことでした。

以下、祝辞を抜粋 ( 一部省略 )。
 「あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひとたちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。」
 「あなた方を待ち受けているのは、これまでのセオリーが当てはまらない、予測不可能な未知の世界です。これまであなた方は正解のある知を求めてきました。これからあなた方を待っているのは、正解のない問いに満ちた世界です。学内に多様性がなぜ必要かと言えば、新しい価値とはシステムとシステムのあいだ、異文化が摩擦するところに生まれるからです。未知を求めて、よその世界にも飛び出してください。異文化を怖れる必要はありません。人間が生きているところでなら、どこでも生きていけます。あなた方には、東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、わたしは確信しています。」
 この祝辞の受け側として賛否両論あるかと思いますが、私はこの祝辞には本来、人として大切な自助努力がデフォルトに陥りつつある現代に対して深意が込められていると感じました。そしてなぜか女性だから生き辛い社会だということを忘れさせてくれ、「もっと正々堂々と生きなきゃダメよ」とどこからなく声が聞こえてくるようでした。私は先生のファンの一人としてこの名演説を励みに多様性に満ちた社会の中で日々邁進してまいります。

(K.M)

 

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