特別寄稿
- 多摩市におけるジェネリック医薬品への取り組み(ジェネリック医薬品について感じること)
- 岩手県の後発医薬品(ジェネリック医薬品)安心使用促進事業の取組みについて
- ジェネリック医薬品80%に向けた健保組合の取り組み
多摩市におけるジェネリック医薬品への取り組み
(ジェネリック医薬品について感じること)
一般社団法人 多摩市薬剤師会 会長
小坂 智弘
【多摩市について】
東京都のほぼ中央に位置し、都心から約30分。市外、都外へのアクセスも良く、秩父、奥多摩、高尾、宮ヶ瀬、横浜方面へと足を伸ばせばすぐに出かけて行けます。また、周辺には高尾山、多摩動物公園、高幡不動尊、よみうりランドなどがあり、行楽にも便利な場所です。
市内にはちょっと歩けば自然が楽しめる箇所が豊富で、遊歩道なども整備され、ハイキングコースもいくつも描けます。
【多摩市薬剤師会及び南多摩薬剤師会について】
多摩市薬剤師会は、一般社団法人南多摩薬剤師会に所属しています。
42薬局、A 会員44名、B 会員28名で運営しています。
現在活動の一つとして糖尿病の重症化予防事業に取り組んでおり、これは行政主導で、医師、栄養士などと連携して行っております。選定された糖尿病患者さんを対象に、医師の指示のもと、薬剤師が食事、生活習慣、運動指導などを栄養士と組んで指導を行い、重症化を予防する試みで、一定の成果が出ております。また、学校保健会などの活動も充実しており、学校医師、歯科医師、養護教諭、保健所、市の担当課との交流も盛んです。
【ジェネリック医薬品への取り組み】
南多摩薬剤師会では平成20年ころから数年間、ジェネリック委員会というものを立ち上げて、研究会を開催しておりました。
当時は未だ一般名処方や体制加算なども整備されておらず、まだまだ普及しておりませんでした。会員薬剤師の間でもジェネリック医薬品に対する不信感もあり、ジェネリック医薬品の普及に懐疑的な風潮もありました。
そんな中で「採用薬を薬剤師が選択できる時代が来た」ということを前向きにとらえ、「薬剤師が自信をもって選択できるジェネリック医薬品(メーカー)を薬剤師会で推薦しよう!」というコンセプトで始まりました。
【ジェネリック医薬品を試食する】
「推奨できるジェネリック医薬品を選別する」のにはまず根拠から考える必要がありました。その細かい部分に関してはここでは割愛しますが、メーカーの歴史や信頼度、先発品を扱っているか否か、原料の流通、そして製剤的工夫 etc
皆さんご存じのように、点眼や貼付剤においては製剤的な工夫は推奨する大きな材料になります。剥がす時痛くない、再現性がある(クシャっとくっついてももう一度貼ることができる)などが利点になります。
そして毎日、時には毎食服用するものなので、口腔内崩壊錠などは味もその一つです。そこでボグリボースの口腔内崩壊錠を多社からサンプルをもらい、全員で試食しました。
溶けやすさ、風味、口に残る感じなど。もちろん好き嫌いは個人差が大きいのですが、面白いのは第1印象が良くても、継続するうちに飽きる味であったり。好きな味ではあるが、食前に飲むため、その後の食事の味覚に影響しやすかったりと、実際に服用してみないと分からないことが沢山ありました。溶けやすさなどは各社かなり差があり、ものによってはもはや口腔内崩壊錠とは言えないものもありました。
(ボグリボースは健常者が服用しても問題ないという薬学的根拠から思い切って一度に多数試食しました)
皆さんも一度口溶けを体験するのに色々試してみてはいかがでしょうか。
(その後沢山出るおならには閉口しました)
【生物学的同等性】
〈私達薬剤師が〉
一番気になる所は、何と言ってもその「同等性」です。科学的に何を根拠に「同じ」だと言えるのか?
です。この点に関しては当時地区研修会で発表した時も、多くの質問が出ました。
「そうは言っても全く同じではない」と言うのが、ジェネリック否定派の最後にでる言葉です。
ジェネリック医薬品は許可を得るための試験で多くを免除されます。(ここではその詳細は割愛します)どうしてでしょうか?
〈その一番の根拠〉
となるところは、クロスオーバー法(詳細は割愛)による同等性試験です。
要するに「あなた(同一人物)が先発品とジェネリック医薬品と同じ期間に飲み比べたときにどちらも同じ血中濃度曲線を描く」か?どうかを見ているわけです。血中濃度曲線が同じだと言うことは、吸収スピードが全く一緒なのですから、当然半減期や AUC は同じだと言うことになります。そうなれば、いくら外見や添加物、剤型が違っても「体にとってはその違いは見分けがつかない」ということになります。
良くジェネリック医薬品を選別するときに各社の添付文書中の血中濃度曲線を比べる人がいますが、これはナンセンスです。何故ならそれぞれの臨床試験で被験者が違うからです。血中濃度曲線が各社ごとに同じはずが無いのです。
医薬品毎に行われる試験の被験者も違えば数も違うのですから違って当たり前です。そして添付文書にはその平均値が記載されることになるのです。
【違う気がする】
〈一番の問題点は〉
ジェネリック医薬品を服用したときに、効かない気がするっていう例のあれです。果たしてどうなのでしょうか?
ジェネリック医薬品の臨床データを見せてもらった時に一番目に付いたのは、それぞれの被験者で血中濃曲線が全く別の薬だと勘違いするほど「個人差」が大きいことでした。
AUC どころか、半減期など人によって全然違うのです。
要するに先発品とジェネリック医薬品とでは同じ人間では同じ薬だが、人が違えば同じ薬とは言えないということです。
〈各被験者の血中濃度曲線を見比べてみると〉
ある人は、完全に有効血中濃度を突き抜けています。こういう人は効果より副作用が出易く、時に薬害も深刻なものになるかもしれません。
またある人は、有効血中濃度に達していないまま消失しています。こういう人は恐らく全く服用する意味が無いでしょう。ひょっとすると長年飲めばその効果より内臓への負担の方が大きくなることでしょう。
要するに「自分にとって良い薬が他人にとっても良いとは限らない」ということです。
ここで考察すべきことは、ひょっとしたら季節毎、体調毎によっては個人でも差異が生まれるのでは?と言うことです。私の推測では個人でも年が違えば、また体調が変われば効き方も変わる、というように考えました。早い話、飲む時期が違えば同じ薬でも効き方が変わるわけで、これがジェネリック医薬品は効かないと言われる一つの現象ではあるなと思いました。
【自信を持ってお勧めすること】
私達薬剤師が不信感を持って接客していたら、それが患者さんへ伝播してしまいます。一番のポイントは自分達が扱うジェネリック医薬品を自信を持って患者さんに勧めることだと思います。
現在ではかなりのレベルで品質も担保される時代に入っています。
お国の為でもありますが、患者さんのため、何より薬剤師の職能を活かすためにも、ジェネリック医薬品の普及に一役買いたいものだと思っています。
岩手県の後発医薬品(ジェネリック医薬品)
安心使用促進事業の取組みについて
岩手県保健福祉部健康国保課
1.岩手県のプロフィール
岩手県は本州の北東部に位置し、15,275 平方キロメートルの面積を有しています。これは、北海道に次ぐ面積であり、埼玉、千葉、東京、神奈川の面積を合わせた、13,565 平方キロメートルより広い面積になります。
岩手県の内陸部の大部分は山岳丘陵地帯で占められ、西側には秋田県との県境に奥羽山脈があり、これと平行して東部には北上高地が広がっています。そして、この二つの山系の間を北上川が南に流れ、その流域に平野が広がっています。
また、太平洋に面した沿岸部は、北側は、典型的な隆起海岸で、海食崖や海岸段丘が発達しています。一方、南側は北上高地の裾野が沈水してできた、日本における代表的なリアス式海岸で、対照的な景観をみせています。
さらに、その沖合いは世界有数の三陸漁場となっており、優れた漁港・港湾にも恵まれています。
このような環境から、四季折々の海や山の食材、温泉やアウトドアスポーツを楽しむことができます。 広い県土を有する岩手県ですが、医療機関等の状況を見ると、病院93施設(人口10万人当たり7.3施設、全国6.7施設)、一般診療所898施設(人口10万人当たり70.8施設、全国80.0施設)、薬局586施設(人口10万人当たり45.8施設、全国45.9施設)となっており、人口10万人当たりでは、病院が全国の数を上回り、一般診療所では下回っています。(病院・診療所は平成28年10月1日現在、薬局は平成28年度末現在)
また、県立の病院20施設、地域診療センター6施設と県の設置する医療機関が多いことも特徴です。
2.ジェネリック医薬品使用促進への取り組み
当県は、従前からジェネリック医薬品の使用割合が比較的高い水準で推移していました。
平成20年度には、「岩手県後発医薬品適正使用検討協議会」を立ち上げ、医療機関、薬局を対象にしたアンケートを実施し、21年度は、その結果を協議会で共有しています。平成22年度以降は、協議会の開催には至らなかったものの、県立病院が共通で使用している、ジェネリック医薬品の採用リストを県薬剤師会のホームページを通じて共有する取組みなどを継続してきたところです。
その後、平成27年に骨太の方針2015で数量シェアの80%という目標が示されたことや関係団体のジェネリック医薬品への理解が進んできていることなどを受け、平成28年度から協議会の名称を「後発医薬品安心使用促進協議会」名称を改め開催することとしました。
【後発医薬品安心使用促進協議会の構成】
・学識経験者(岩手医科大学薬学部)
・医師会、歯科医師会及び薬剤師会
・病院等(私立病院協会、病院薬剤師会、県立病院薬剤師)
・医薬品卸売業者(医薬品卸業協会)
・後発医薬品製造販売業者団体(日本ジェネリック製薬協会)
・消費者の代表者(老人クラブ)
・保険者(全国健康保険協会、国民健康保険団体連合会)
【平成28年度活動実績】
・後発医薬品安心使用促進協議会の開催
平成 28 年 9 月に国、県の取組みについて情報提供を行うとともに、各団体の意見交換を実施
・啓発事業
テレビスポット CM を作成し放映(民放4社:10月17日~23日)
JR 盛岡駅等 16 駅でポスター掲示(3月13日~3月31日)
・ジェネリック医薬品使用促進情報交換会の開催
県内2地区において、県、地域の病院・薬局及び全国健康保険協会の取組みの紹介と参加者の意見
交換(参加者:盛岡地区49名、花巻地区22名)
・県立病院で作成している、ジェネリック医薬品の採用リストの共有
【平成29年度実績】
・後発医薬品安心使用促進協議会の開催
平成29年9月及び平成30年3月の2回開催。国、県の取組みについて情報提供を行うとともに、
各団体の意見交換を実施
・啓発事業
テレビスポットCMを作成し放映(民放4社:10月17日~ 23日)
You-Tube インストリーム広告(再生回数 18,580 回:10月17日~23日)
・アンケート調査の実施
県内医療機関の半数を無作為に抽出し、ジェネリック医薬品の使用状況や使用にあたっての問題点等について調査を実施
・県立病院で作成している、ジェネリック医薬品の採用リストの共有
【平成30年度実績】
・後発医薬品安心使用促進協議会の開催
平成 31 年 2 月開催。国、県の取組みについて情報提供を行うとともに、各団体の意見交換を実施
・啓発事業
テレビスポット CM を作成し放映(民放 4 社:11 月 23 日~ 30 日)
You-Tube インストリーム広告(再生回数 28,005 回:11 月 23 日~ 30 日)
ジェネリック医薬品啓発ポスターのバス車内掲示(1 月 1 日~ 31 日)
ジェネリック医薬品希望シール等の啓発資材を差し込んだポケットティッシュを作成し、保健所窓口や健康関連イベント会場で配布
・県立病院で作成している、ジェネリック医薬品の採用リストの共有
【令和元年度計画】
・後発医薬品安心使用促進協議会の開催
・啓発事業
ジェネリック医薬品啓発ポスターのバス・鉄道車内等での掲示啓発資材差し込みのポケットティッシュを作成、配布
・県立病院で作成している、ジェネリック医薬品の採用リストの共有
3.平成29年度実施のアンケート調査(抜粋)
南多摩薬剤師会では平成20年ころから数年間、ジェネリック委員会というものを立ち上げて、研究会を開催しておりました。
当時は未だ一般名処方や体制加算なども整備されておらず、まだまだ普及しておりませんでした。会員薬剤師の間でもジェネリック医薬品に対する不信感もあり、ジェネリック医薬品の普及に懐疑的な風潮もありました。
そんな中で「採用薬を薬剤師が選択できる時代が来た」ということを前向きにとらえ、「薬剤師が自信をもって選択できるジェネリック医薬品(メーカー)を薬剤師会で推薦しよう!」というコンセプトで始まりました。
【ジェネリック医薬品を試食する】
病院、一般診療所及び歯科診療所の各施設のジェネリック医薬品の使用割合を 10% 毎の階級に属する施設数を集計した結果では、無床の診療所及び歯科診療所では 10% 以下と回答した施設が多かったのに対し、300 床以上の病院では、全ての施設で 70% 以上の回答でした。
また、ジェネリック医薬品を使用する利点として、「患者からの評価の向上」、「経営の向上」、「処方の選択幅の拡大」が回答として多く、特に「経営の向上」については病院が占める割合が大きくなっています。
各施設のジェネリック医薬品の使用方針を聞いたところ、概ねジェネリック医薬品の使用を前向きに進めるといった回答になっています。
次に、ジェネリック医薬品を採用した後に発生した問題点として 139 施設が「臨床効果の問題」を挙げ、次いで、「メーカーの情報提供体制の問題」、「品質の問題」が多く、施設種別では、病院では「メーカーの情報提供体制の問題」と「メーカー、卸売業者の供給体制の問題」の割合が高く、診療所及び歯科診療所では、「品質の問題」と「臨床効果の問題」の割合が高くなっています。
ジェネリック医薬品の使用中止の理由としては、「患者や家族からの申し出」が最も多く、続いて「効果の問題」、「販売中止のため」が多くなっています。
(全体版は岩手県のホームページ上でご覧いただけます。
https://www.pref.iwate.jp/kensei/shingikai/hofuku/1001476/1017137.html
4, まとめ
岩手県においては、関係各位の御理解と御協力により、ジェネリック医薬品割合は83.2%となっています。(最近の調剤医療費(電算処理分)の動向(平成31年2月)より)
岩手県がジェネリック医薬品の使用割合が高くなっている理由については、前述のとおり、他県と比べて県立病院の数が多く、もともと積極的にジェネリック医薬品の採用に取り組んできていたこともあって、各地域において中核的な役割を果たしながら他の医療機関を牽引したことが、その要因の一つと考えています。
また、アンケート調査からは、医療機関のジェネリック医薬品に対する理解は概ね得られてきていることが伺われますが、ジェネリック医薬品の中止理由で「患者等の申出」が多くなっていることから、改めて住民への啓発が必要になっているものと考えます。
最後になりましたが、東日本大震災津波、平成28年度台風第10号災害からの復旧・復興に際しましては、関係各位から多大な御支援を賜りましたことに深く感謝を申し上げ岩手県からのご報告を終わらせていただきます。
ジェネリック医薬品80%に向けた健保組合の取り組み
健康保険組合連合
健康保険組合とジェネリック医薬品
少子高齢化が進み、医療保険財政が厳しさを増すなか、健康保険組合(以下健保組合 ) はこれまで数 多くの医療費適正化対策に取り組んできた。主なものとしては人間ドックをはじめとする健康診断の実 施、生活習慣病を予防するための運動の奨励といったものから、毎月の診療報酬明細書(レセプト)や 接骨院からの療養費の申請書の内容点検などがあげられるが、なかでもジェネリック医薬品については、 政府が 2007 年 6 月の閣議決定で、2012 年度に数量ベースで 30% の数値目標を掲げたことにより、 その使用促進に向けた取り組みが開始された。
当時、レセプトは紙での請求であったため、健保組合がジェネリック医薬品を加入者に勧めるとなる と、ポスターの掲示やリーフレットの配布、独自で発行する機関誌での周知、さらには保険証と合わせ て診察の窓口で提出するジェネリック医薬品の処方を希望するカードを作成する程度であった。ジェネ リック医薬品への理解が浸透せず、なかなか普及が進まない状況に現場では困惑を隠しきれずにいた。
レセプトのオンライン化が契機に
その後、厚生労働省が 2008 年 4 月以降のレセプトの請求にあたっては、原則オンライン化(電子化)の方針を打ち出した。これがきっかけとなって、健保組合だけでなくすべての保険者から病院・診療所や薬局といった医療機関まで、電子レセプトを請求・受け取るためのシステム導入が進み、レセプトの電子化率が徐々に上昇していった。健康保険組合連合会(以下健保連)ではこのシステム導入に合わせて、ジェネリック医薬品普及のための対策を打ち出した。その 1 つが「差額通知」システムの導入である。健保組合のレセプトを受け取るためのシステム(レセプト情報管理システム)に、ジェネリック医薬品の経済的な効果を加入者に理解してもらうための機能「差額通知」を開発し、各健保組合に提供した。
紙のレセプトでは、1枚1枚目視でどの薬剤が別の薬剤に置き換えられるか判断しなければならず、膨大な時間とコストが発生する。しかし電子化されたレセプトならば、薬剤ごとに置き換えられるリストをシステムにプログラムとして組み込み、毎月のレセプトの薬剤のデータから患者ごとに、どの薬を何のジェネリック医薬品に変更すれば、いくらの削減となるかを知らせることができる。
患者にとっては、それまでジェネリック医薬品になかなか興味を持ってもらえず、先発品に比べ効果が異なるのではないかといった誤解もあり、健保組合が用意した処方を希望するカードを医療機関に提出するだけで、それ以上の行動をとる患者は少なかった。しかし、レセプトの電子化にあわせて、健保組合から発行される差額通知を受け取り、ジェネリック医薬品の使用効果が経済的に「可視化」されたことにより、患者自身が医療機関に強く働きかける行動変容を引き起こし、使用割合の上昇に寄与する結果となった。
保険者別使用割合を公表
その後、診療報酬上の評価や加算を経て、厚生労働省では2013年4月に「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」を策定。さらに2015年6月の閣議決定で、2017年に70%以上とするとともに、2018年度から2020年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とする新たな数量目標が設定された。この80%目標の具体的な達成時期については、2017年6月の閣議決定において、「2020年(平成32年)9月までに、後発医薬品の使用割合を80%とし、できる限り早期に達成できるよう、更なる使用促進策を検討する」と定める一方で、「経済・財政計画改革工程表2017改定版」(2017年12月21日経済財政諮問会議)において、保険者別の使用割合を2018年度実績より公表することが決定され、保険者により一層の取り組みが求められている。
直近の厚生労働省の発表(最近の調剤医療費の動向)によると、今年3月時点での使用割合は全保険者の数量ベースで77.7%となり、前年同月に比べて約5ポイント上昇した。健保組合は78.0%と全国平均を上回り、73の健保組合が政府目標の80%以上に達し3健保組合が90%以上となっている。全体的に見て、使用割合は上昇傾向にあるが、地域や業種によっては取り組みが遅れている健保組合もあり、さらなる取り組みの強化が求められている。
支援金のインセンティブの指標にも
これとは別に、厚生労働省では特定健診・保健指導の実施率を向上させる観点から、健保組合と共済組合に対し、後期高齢者支援金の減算(インセンティブ)の指標に、現在の特定健診・保健指導の実施率に加えて、健診結果の加入者への分かりやすい情報提供(ICTの活用)やがん検診、歯科健診・保健指導等の取り組みとあわせて、ジェネリック医薬品の使用促進を追加する見直しを行った。希望カードの配布、差額通知の実施といった従来からの取り組みはもちろん、切り替え率、使用割合の上昇幅など評価項目が細かく設定されている。
特定健診・特定保健指導は40歳から74歳までのすべて方を対象に、メタボリックシンドロームに着目した健診を実施し、その健診結果に応じて生活習慣の改善が必要な方に保健指導の実施を2008年度から義務付けている。特定健診の実施率は高いものの、特定保健指導の実施率は各保険者とも低く、国が目標として設定した実施率45%を上回る保険者は少ない。このため厚生労働省は、2018年度から特定健診・特定保健指導の仕組みを見直すとともに、後期高齢者支援金の加算減算を強化した。
これまで減算の対象となった健保組合では、新たにジェネリック医薬品の使用促進が評価項目に加わったため、健診や保健指導の実施率が高い健保組合であっても、ジェネリック医薬品の使用割合が低ければ、減算の対象から外れてしまう可能性がある。そのため使用割合向上のための対策が急務だが、前述の通り困難な地域や業種の健保組合もあり、目下その対応に頭を悩ませている。
使用割合は頭打ちの状態に
このように各健保組合とも使用割合の向上へ向け知恵を絞っているが、実効性のあると見込んだ対策を講じたものの、効果が上がらずに頭打ちの状態になっている。すでに使用割合が80%を超えた健保組合と同じ対策を導入しても、地域の違いにより数十ポイントの差をつけられているケースもある。こうしたことから、健保組合など保険者の努力や取り組みが足りないのではなく、医療機関側の処方に問題があると指摘せざるを得ない要因が、まだ多く存在すると推測される。
その一方で、健保組合の財政は、高齢者医療費への負担がかさんだことで悪化が進み、健保組合に加入する被保険者1人あたりの年間保険料は、約10年間で10万円以上増えた。後期高齢者の伸びが一時的に鈍化する2021年までの健保組合財政は、急激には悪化しないものの、2022年以降は団塊世代が75歳以上に到達しはじめ現役世代が減少するここと相まって、後期高齢者医療費への負担が急増し、医療保険制度の根幹が揺らぎ始める。これが「2022年危機」だ。
政府はこの9月に全世代型社会保障検討会議を立ち上げ、年金、医療、介護といった社会保障全般に渡る持続可能な改革の検討に着手した。健保連でも2022年以降の医療保険制度の持続可能性を探るべく、今年2月にプロジェクトチームを立ち上げ、新たな政策実現に向け議論を重ね、今回、「今、必要な医療保険の重点施策-2022年危機に向けた健保連の提案」を発表した。その中の施策のひとつとして「フォーミュラリの導入」を掲げ、さらなるジェネリック医薬品の普及を求めている。
新たな取り組みとしてフォーミュラリを提案
フォーミュラリとは、一般的に言われている最も効果的で経済的な医薬品の推奨リストのことであるが、国の骨太方針に2015年から3年連続で生活習慣病の処方のあり方を検討することが盛り込まれたほか、経済財政諮問会議でも民間議員からジェネリック医薬品使用の促進策として、病院ごとに推奨リストを策定する提案が行われた。これまでの2年に1度の薬価改定で薬価が引き下げられているにもかかわらず、2014年度の薬剤費は2001年度と比べて1.4倍となっており、医科医療費の伸び(1.3倍)を上回る勢いで増大している。ジェネリック医薬品を基準薬とすることで、薬剤費の削減につながり、ひいては医療保険制度の持続可能性を高める効果も期待される。
今回健保連では、健保組合のレセプトをもとに、諸外国のフォーミュラリ事例および国内外の診療ガイドライン等を参考にしながら、降圧薬、脂質異常症治療薬、血糖降下薬の3種類の生活習慣病治療薬について、診療報酬制度に組み込むことを想定したフォーミュラリの案を策定した。その影響額を試算したところ、薬剤費の削減可能性は年間約3,100億円(全国推計値)にものぼることが明らかとなった。
ジェネリック医薬品が広く普及した欧米では、薬物療法の質の向上や標準化に加えて、経済的な観点から使用促進を図るという目的のもと、保険者、地域、病院ごとにフォーミュラリが導入されている。日本では、生活習慣病治療薬について比較的薬価の高い先発品の占める割合が大きいことから、薬剤費への適正化効果は大きいと推測される。すでにいくつかの病院や地域で導入されているが、有効性、安全性を前提としつつ、経済性にも優れた処方を促す仕組みであるフォーミュラリを、国はより広く推進する必要がある。
健保組合の新たな取り組み
ジェネリック医薬品の使用割合を高めるための対策に頭を悩ませている健保組合だが、ただ手をこまねいているのではなく、すでに新たな取り組みに着手し始めている。地元の薬剤師の協力を得て、昼休み時間に社員食堂の入口に薬に関する相談コーナーを設置した健保組合があれば、これまで取り組んできた差額通知の送付対象を見直し、健保組合に請求されたレセプトの分析結果をもとに薬効分類別に使用量の高い医薬品を中心に送付するようにしたところもある。さらに、先発品と原料や製法が同じオーソライズドジェネリックが使用可能な患者については、差額通知の送付と合わせて、該当するオーソライズドジェネリックの案内を同封する取り組みも行われるなど、創意工夫を凝らし使用割合のアップを狙っている。
健保連でもレセプトを分析し、効果となるデータや資料を提供し、健保組合へのサポートを継続する方針だ。並行して、国や医師、薬剤師など医療関係者に更なる普及につながる見直しも求めていく。なすべきことは山ほどあるが、来るべき「2022 危機」に備え、医療保険制度の維持・発展に貢献したい。
(追記)
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