医薬品の連続生産について
連続生産への期待
医薬品の製造ではバッチ生産が一般的ですが、最近注目されている生産方法に連続生産があります。いずれの生産方式においても複数の工程を経て製品が生産される点は共通していますが、バッチ生産がそれぞれの独立した工程で、ある一定の決まった量の製品を一度にまとめて加工して生産する方式であるのに対し、連続生産は、ある一定の時間継続して製品を生産する方式であり、複数のつながった工程で加工されながら継続的に製品が産出されます。このことから、連続生産では次のようなことが期待されています。
●製造機器の稼働時間を変更することで生産量を調整することができるため、需要の変動に応じた生産計画の変更に柔軟に対応可能であり、これにより在庫を抑制し保管コストを削減できる。
●バッチ生産と異なり製造機器のサイズを変更することなく生産量を調整することができることから、開発段階で用いていた製造機器をそのまま実生産で用いることも可能となり、スケールアップ検討の省力化により開発コストが削減され、製造機器の小型化により小スペース化できる。
●各工程がつながり連続化しており、人がかかわる作業が少なくなるため、人的エラーが減り製品の品質が向上する。
バッチ生産と連続生産の違い
バッチ生産と連続生産は異なる生産方式ですが、一つ一つの工程を見ると大きな違いはありません。このため医薬品を製造するうえでの基本的な考え方の多くは共通していますが、生産方式が異なるがゆえの注意すべき違いもあります。
バッチ生産では工程ごとに、決まった量を一度にまとめて加工するため、各工程が終了した時点でサンプリングし、試験することで製造途中の中間製品や完成した最終製品の品質を確認しながら製造を進めることができます。ただし、一度にまとめて加工、生産するため、異常が生じた場合には生産物全体に影響をおよぼす可能性があり、生産物をすべて廃棄することもありえます。
一方で連続生産は各工程がつながり、稼働時間中は供給された原料が加工されながら止まることなく工程内を移動し、継続的に生産物が産出されるため、ある一時点におけるサンプリングと試験では生産物全体の品質を確認することはできません。つまり、連続生産では稼働時間中のある一時点で生じた何らかの変動により、この影響を受けた一部分の品質が変化し、そのまま生産物に混入する可能性がありますが、一時点のサンプリングではこの一部分の品質の変化を見逃すリスクがあるということです。このため、連続生産においては工程内の状態を常にモニタリングし、品質に影響のある何らかの変動があれば、正常な状態となるよう運転パラメータを変更する、変動の影響を受けた部分の生産物のみを工程外に排除するといった自動制御機構を組み込み、常に一定な品質の製品を得ることができるようにコントロールすることが必要となります。
連続生産においてはこのようにバッチ生産と異なる部分を認識し、どのように品質を担保していくかを考えていく必要があります。
連続生産装置について
現在、固形医薬品の製造に用いられる連続生産装置が国内外で開発されており、主要な剤形である錠剤の製造に対応している連続生産装置には、各原料の秤量から錠剤のフィルムコーティングまで可能なものもあります。錠剤の製法には主薬と各添加剤を混合した混合物(錠用末)を打錠する直接打錠法、混合物を造粒して顆粒(錠用顆粒)とした後、これを打錠する間接打錠法などがあり、いずれの製法にも対応可能な連続生産装置が開発されていますが、直接打錠法の主たる工程は主薬および各添加剤の秤量、混合および打錠であるのに対し、間接打錠法では、これに加えて顆粒を造る連続造粒工程が組み込まれます。造粒法には、ローラーなどを用いて混合物を圧密して顆粒を製する乾式造粒法、混合物に水などの結合液を加え練合して顆粒を製する湿式造粒法がありますが、ここでは湿式造粒法の連続造粒装置について紹介します。
湿式造粒法の連続造粒は水などの結合液を混合した粉体に添加して練合する造粒工程、湿った造粒物を加熱して乾燥させる乾燥工程、乾燥した造粒物を整粒機で一定の粒度に整える整粒工程からなり、これらの工程が連続的につながり稼働することで継続的に顆粒を産出します。目的に適した品質の顆粒を継続的に産出するために、例えば乾燥工程での水分や整粒時の粒度などをモニタリングしながら、一定の品質の顆粒を得られるよう製造条件を制御することが必要です。また、連続造粒では湿った粉体が装置内を加工されながら進むため、経時的に湿った粉体が装置内に付着するといったトラブルが想定されます。連続造粒ではこのような点も考慮しながら最適な処方設計や製造パラメータ設定に取り組む必要があります。
このように連続造粒が組み込まれている湿式造粒法の連続生産装置は直接打錠法と比べると複雑ですが、紛体のハンドリングの改善や主薬の含量均一性の確保に有効な製造法となっています。
最後に
連続生産は石油化学や食品業界ではすでに導入されている生産方法ですが、これまで医薬品産業での導入は遅れていました。しかしながら、連続生産に期待される様々な利点から、医薬品ならびに原薬(主薬)製造においても注目を集めており、医薬品製造に用いる連続生産装置の開発も進んでいます。また、ICH
Q13として国際的なガイドライン作成も進められるなど、連続生産への取り組みが進んでいます。国内においても連続生産技術を用いた製品が2品目承認されており、医薬品の製造方法の新たな選択肢として発展が期待されています。