ジェネリック医薬品普及東京都薬剤師会の取り組み
ご承知の通り、東京都におけるジェネリック医薬品使用率(数量ベース)は74%程度であり、全国から見ますと45位であり、非常に問題視された地域といえます。これまで本誌において、東京都内の5地区(江戸川区、立川市、世田谷区、南多摩、練馬区)薬剤師会におけるジェネリック医薬品普及への取り組み状況を紹介させていただきました。当然、これらの地区以外でも、医療機関、製薬企業、医薬品卸業者との連携に基づく取り組みや医薬品・情報管理センターの活用によるジェネリック医薬品(以下、GEとします)等、地区の状況に応じて在庫管理、流通対策といったGEの供給整備に関する対応や地域啓発活動として区民、市民の皆様に対する普及啓発への取り組みなど、様々な対応がなされているところです。
最終回となる今回は、公益社団法人 東京都薬剤師会としての過去からの取組を紹介させていただき、令和2年度に向けて新たに取り組むべき内容をご紹介させていただきます。
まずは、東京都におけるGEの使用促進のための問題点を抽出するにあたり、全体像を把握するために地理的要件を含めて簡単に東京都の特性を紹介します。
東京都は、23の特別区と多摩地域(26市と西多摩郡3町1村)と東京都島しょ部(大島、三宅、八丈、小笠原)に区分されています。また、人口は令和元年11月1日現在で13,857,443人(対前年同月比96,080人増)と推計されています。薬局数は厚生労働省の平成30年度衛生行政報告例によりますと6,702施設(全国では約60,000施設)人口10万人当たりの薬局数で見ると全国平均47.1施設に対して48.5施設となっています。薬局に従事する薬剤師数は、平成28年の統計値から開設者を含めて23,408人となっています。人口から見れば日本の10分の1が都民であり、地理的要件から見ると島嶼・奥多摩地域などのいわゆる過疎地も存在することから、東京都は日本を10分の1に縮尺したモデル地区といえるのではないかと個人的には考えています。調剤報酬などに係る全国の統計値等を見ますと、10%がおおよその東京都の数値となっている場合が多いことも裏付けといえるかもしれません。このことから、東京の数値が10%を上回っていれば、そのために行った様々な施策が効果的であったと考えることもでき、全国にも通用する施策として紹介することも考えられます。
しかし、地域状況の差がある条件下では、GE使用促進に向けての施策の統一化は、様々な要因に配慮する必要があり、コアとなる問題点を抽出し都独自の方向性を示す必要があります。そこで、東京都における区市町村の現状を分析し、低率の地区の状況を考えてみます。
【ジェネリック医薬品に関する東京都の現状】
『最近の調剤医療費(電算処理分)の動向(平成31年3月)』によると、東京都は以下の状況で数量ベース73.6%となっています。区市町村別の使用率では、都内中心部が70%に到達しておらず、足立区・葛飾区・江戸川区、多摩地域といった住宅地域における使用率が全国平均に近い割合となっています。特に、新宿・中央・渋谷・杉並は66.1%~ 67.6%とかなり低い使用率となっています。このことから、23区の山手・オフィス街・住宅地域・下町地域といったそれぞれの特性が起因して使用率に影響を与えていることがわかります。従って、GE使用のために示された医療保険制度の維持や患者一部負担金の軽減といった全国共通の施策のみでは進展は望めません。
【医師・薬剤師等の医療従事者を対象とした取組み】
東京都薬剤師会ではホームページ上でGEの選択時の参考となるよう「後発医薬品比較サイト」を運営しています。
ホームページの「会員用ページ」からアクセスすることでGE同士、先発医薬品とGEについてその品質情報、供給体制、使用実績等を1画面上で容易に比較できます。
処方する医師も使用できるよう、本サイトについて東京都医師会にも情報提供をしています。
【職能団体としての取組み】
GE使用促進に関する課題、問題点の抽出、解決への方策等につきましては、医薬品卸業者との「流通懇談会」の定期開催、東京都三師会での研究会開催、日本ジェネリック製薬協会や保険者代表を交えての「ジェネリック医薬品使用促進に関するシンポジウム」への参加、東京都の「東京都後発医薬品安心使用協議会」等において検討を行っています。
ここでは、医療従事者が一堂に会しそれぞれの立場で抱える問題点を協議できたことにより、使用促進に向けての更なる合意形成が進展し、薬剤師の立場では気付き得なかった点が診療現場では大きな問題となっていることが判明しました。この点について、「新たな試み」として令和2年度の対応策を示させていただきます。
【新たな試みに向けて】
2018年度より、厚生労働省、日本ジェネリック製薬協会等が共催するパネルディスカッション「ジェネリック医薬品シェア80%達成に向けた課題と解決策」が開催され、東京都医師会及び保険者と現実的な意見交換をした結果、前述した現行の取り組みだけではなく、医療従事者全体が理解し得る方法を用いた、新たな取り組みについて、下記の内容に関する改善の必要性がクローズアップされました。
1 一般名処方された場合のお薬手帳への記載方法の問題
GE使用促進に係る診療報酬上の評価として、一般名処方による処方箋発行が推進されていますが、現行のレセプト作成システムにおけるお薬手帳ラベルの表記は、処方薬名称及び調剤した薬剤の名称を2段で表記することが主流となっています。古くから発売されているGEは、未だ商品名で発売されているものも少なくなく、一般名称とGE商品名の表記となることもあり、診療側から見るとお薬手帳に記載された薬剤名がどの先発医薬品なのか瞬時に判断できない状況となっていることが判明しました。このことは、診療中に医師自身が薬剤検索をしなければならず、大きな負担を与えることにつながります。また、検索をするという行為はその薬剤を知らないということでもあり、心情的に漠然とした薬剤への不安感を持つことになります。これでは、医師の立場として、信頼を持って後発医薬品を積極的に使用したいとは考えにくい状況といえます。
2 地域におけるGE選択に係る品質情報のあり方
GE使用促進のため、中医協の診療報酬改定結果検証部会による様々な患者アンケート調査が行われているのはご承知の通りです。これらの調査においてGEへの漠然とした不安感等により、先発医薬品を選択する年代の存在が明らかになっています。今までの使い慣れた薬剤が良いと考える高齢世代、医療費削減に関心が薄いと考えられ一部負担金が無償となる世代、この世代の回答にみられる、GE使用への心情的な理解不足等を補う施策を考える必要があります。
3 製造販売承認取得が多すぎる成分に対する対応
旧薬事法改正により、いわゆるヒット医薬品の成分に対するGE製造販売承認数が多くなっています。市場原理として理解しますが、原薬の入手先の問題や自社工場を持たない製薬会社の承認申請などの場合もあり、安定供給に関する不安感を解決する具体策が見えないことも事実です。原薬入手困難等、市場流通に支障をきたす事態が一度発生すれば、代替会社から入手することにも混乱をきたします。診療・調剤側から見て無意味と思えてしまう、共同開発による各製薬会社の製造販売承認取得の在り方について、我々が使用すべき代表的な医薬品に関するリストを考える前に、真摯に改善すべき時期ではないかと考えます。
【東京都薬剤師会としての新たな取組】
都内においてGE80%早期達成のためには、1)お薬手帳への先発品名の記載、2)GEに関する製品情報の収集と分析に基づいた当該薬剤の使用順位との客観的な分析、3)診療側・保険者と共同した地域GEフォーミュラリーの作成 4)共同開発品と思われるGE製品の仕分け(各メーカーが公表していないため)、と都薬独自展開を行う課題と医療側との協同で対応すべき具体的課題が挙げられます。
これらの課題を解決するため、都薬の新たな事業計画として『後発医薬品推進プロジェクト(仮)』を立ち上げます。この事業により、製品情報等の提供を各企業に求め、薬学的観点に基づいて情報整理をおこない、薬剤師による関係者への漠然とした不安感を解消するための資材提供となることを目的とし、GE使用推進に向けて地域連携を踏まえた資料提供を検討しております。
一方、前述の通り、医師側のGE使用に対する抵抗感の一つに一般名での記載では何の薬剤であるか分かりにくい、該当する先発品名がすぐに分からない等の声が聞かれます。具体的な解決策として、GEを調剤した場合に薬局で「お薬手帳」の「調剤した薬剤に関する事項」としてGE名称に対応する先発医薬品名を参考として併記する取り組みも検討しています。これはGEに変更した患者にとっても分かり易く、結果的に医療安全にも繋がるものと考えています。
【おわりに】
これまで厚生労働省の「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」に基づき様々な課題解決に取り組んできましたが、2018年からの厚生労働省、日本ジェネリック製薬協会等共催のパネルディスカッションは我々にとって大きな気付きのきっかけとなりました。診療側と調剤側との忌憚ない意見交換の結果、それぞれが解決すべき問題が可視化され、新たな取り組みへと繫がりました。
今後、東京都において後発医薬品使用率80%を達成していくためには、ここで述べさせていただいた新たな取り組みが必要であり、関係諸団体の皆様と力を合わせて取り組んでいければと考えています。