廃棄プラスチック問題について
プラスチックは短期間で経済社会に浸透し、且つ生活に利便性と恩恵をもたらしました。一方、不適正な処理のため、世界全体で年間数百万トンを超えるプラスチックが陸上から海洋へ流出しており、世界的に海洋プラスチックごみの汚染が問題視されています。このままでは2050年までに魚の重量を上回るプラスチックが海洋環境に流出することが予想されています。こうした地球規模での資源制約・廃棄物削減や海洋プラスチック問題の対応はSDGs ※1 でも求められ、昨年6月に大阪で開催されたG20 ※2 大阪サミットで話し合われました。会議の結果は、2050年までに新たな海洋プラスチック汚染をゼロにすることを目標とした「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン ※3 」が宣言として共有化されました。
日本は廃プラスチックの有効利用率が低く、また一人当たりの容器包装廃棄量が世界で2番目に多いことから第四次循環型社会形成推進基本計画を踏まえ、3R+Renewable(再生可能資源への代替)を基本原則としたプラスチック資源循環戦略を策定、海洋プラスチック対策や国内適正処理・3Rを率先することにより世界的課題に貢献しています。
プラスチック資源循環の展開に当たって、日本は以下のような世界トップレベルのマイルストーンを設定し、国民各界各層との連携協働を通じて、その達成を目指しています。
【リデュース】
2030年までにワンウェイプラスチック製容器包装・製品 ※4 を累積25%削減
・不必要な使用を避けるよう消費者に対して声掛け
・容器包装の有料化
・再生可能資源(再生材、バイオマスプラスチック ※5 等)への代替
【リユース・リサイクル】
2025年までにリユース・リサイクル可能な容器包装・製品の設計
2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル
2035年までに使用済プラスチックを100%リユース・リサイクル等により有効利用
・回収が進む方法の検討
・持続的な回収・リサイクルシステム構築の推進
・ケミカルリサイクル、熱回収を最適に組み合わせる
【再生利用・バイオマスプラスチック】
2030年までに再生利用を倍増
2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
・プラスチック再生材の安定性確保
・燃やさざるを得ないプラスチックをバイオマスプラスチックへ代替
・用途、素材等に対応した「バイオプラスチック ※6 導入ロードマップ」の策定
製薬業界においてこれらのマイルストーンを達成することは容易ではありません。特にリデュース、リユースは医薬品の製造管理上、個々の企業として対応できることは少なく、限界があります。従って、リデュース・リユースの目標を達成するためには、業界全体、社会全体で取り組み、投資やイノベーションを促進する必要があります。
リデュース・リユースの対応が難しいことから、廃プラスチックの処理はリサイクルが中心になっています。リサイクルには以下の種類があります。
【マテリアルリサイクル(物質還元リサイクル)】
廃プラスチック類の廃棄物を破砕溶解等の処理を行った後に同様な用途の原料として再利用すること。素材ごとの分別が必要であることから専門知識が必要です。
【ケミカルリサイクル(化学的リサイクル)】
廃プラスチック類を化学的に分解することで石油原料を得て製品原料として再利用すること。元の製品が何であるかは問わない。異物除去等が必要でありコストが掛かってしまうことがデメリットです。
【サーマルリサイクル(熱源利用リサイクル)】
廃プラスチック類を主燃料あるいは助燃料として利用することにより、その燃焼処理によって得られる熱量を原料等の製造工程等の有効利用に用いること。現状、行えるもっとも現実的な対応です。
リサイクルの中でも、製薬業界ではサーマルリサイクルが多く利用されていると思われます。しかし、この方法は化石燃料を燃やすことと同じことになってしまうため気候変動対策に逆行してしまいます。こういった背景からもバイオマスプラスチックの容器包装等への実用化が望まれます。
「Single-use plastics:A roadmap for sustainability」(国連環境計画、2018年)によれば、世界全体のプラスチック容器包装のリサイクル率は14%、熱回収を含めた焼却率は14%とされており、有効利用される割合は14~28%となっています。
次に、海洋プラスチック対策は、プラスチックごみの流出による海洋汚染が生じないこと(海洋プラスチックゼロエミッション)を目指し、プラスチック資源循環を徹底するとともに、海洋プラスチック汚染の実態の正しい理解を促し、犯罪行為であるポイ捨てや不法投棄を撲滅する対策を強化することが必要です。美化・清掃活動が一体となった取り組みが有効であり、流域単位で連携した活動により陸地から海洋へのプラスチックごみの流出を抑制することが出来ます。海外由来も含めて沿岸における漂流・漂着・海底ごみの実態を把握するためのモニタリング・計測手法等の高度化及び地方自治体等の連携強化とともに国際的な普及を進めることが世界的な海洋ごみの排出削減につながります。また、海で分解される生分解性プラスチック ※7 の開発利用の取組みも有効です。
途上国における海洋プラスチックの発生を抑制するための対策としては、日本のプラスチック資源循環及び海洋プラスチック対策の知見・経験・技術等についてアジア太平洋地域を中心に世界各国に発信し、必要な支援を行うことでグローバルな資源制約・廃棄物削減問題等と海洋プラスチック問題に貢献していきます。
以上の取組みを横断的に行っていくための基盤として、国民レベルでのソフト・ハードのリサイクルインフラ整備・サプライチェーン構築といった社会システムの確立が必要です。
また、資源循環関連産業を振興するため、幅広いリサイクル、国際競争力の強化やこれらの産業における人材の確保・育成が必要です。技術や消費者のライフスタイルのイノベーションを促すため、再生可能資源によるプラスチック代替品や革新的リサイクル技術等の開発の支援・後押しを行うとともに、マイクロプラスチック ※8 の使用実態、影響、流出状況、流出抑制対策等の調査・研究を推進します。
廃プラスチック問題に対するその他の対策として、(1)各関係主体が一つの旗印の下、連携協働して「プラスチックとの賢い付き合い方」を進めるプラスチック・ストーマを展開する。(2)実効性のある取り組みのベースとなるプラスチック生産・消費・排出量や有効利用などのマテリアルフローを各主体と連携しながら整備する。(3)ESG ※9 投資やエシカル消費 ※10 において企業活動を評価する判断材料の一つとして捉えられるよう検討する。(4)関係する府省庁が緊密に連携しつつ国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、アジア開発銀行、地方自治体や我が国の企業等とも協力しながら総合的な環境インフラ輸出を展開していく。
世界の資源制約・廃棄物削減、海洋プラスチック問題、気候変動等の問題解決に寄与し、幅広い資源循環産業を発展させることが持続可能な社会の発展に貢献していくことに繫がります。これらの問題は生活の豊かさを求めた結果により発生したものであり、これからの世代が生活していく為にも国民各界各層の理解と連携協働の促進により取り組まなければいけない環境課題と考えます。
用語解説
※1:SDGs
「SDGs(エスディージーズ)とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界のリーダーによって決められた“2030年までに達成すべき17の目標”のこと
※2:G20
G7(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ)に欧州連合(EU)、アルゼンチン、オーストリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコの20か国・地域がメンバーとなるグループのこと
※3:大阪ブルー・オーシャン・ビジョン
G20首脳が共通のグローバルなビジョンとして共有したもので他の国際社会のメンバーにもビジョンの共有を求めたもの
「社会にとってのプラスチックの重要性を認識しつつ、改善された廃棄物管理及び革新的な解決策によって管理を誤ったプラスチックごみの流出を減らすことを含む、包括的なライフサイクルアプローチを通じて2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す。」
※4:ワンウェイプラスチック製容器包装・製品
通常一度使用した後にその役目を終える物。スーパ・コンビニのレジ袋や使い捨てのストロー等
※5:バイオマスプラスチック
原料として植物などの再生可能な有機資源を使用するプラスチック素材をいう
※6:バイオプラスチック
バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称
※7:生分解性プラスチック
プラスチックとしての機能や物性に加えて、ある一定の条件の下で自然界に豊富に存在する微生物等の働きによって分解し、最終的に二酸化炭素と水にまで変化する性質を持つプラスチックのこと
※8:マイクロプラスチック
サイズが5mm以下の微細なプラスチック
※9:ESG
ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、今日、企業の長期的な成長のためには、ESGが示す3つの観点が必要だという考え方が世界的に広まってきた
※10:エシカル消費
その商品を購入することで環境や社会問題の解決に貢献できる商品を購入し、そうでない商品は購入しないという消費活動