新型コロナウイルスが社会の変革を加速させる
特報チームデスク 望月 英梨
新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に続いている。世界では感染者が100万人を突破し(4月2日時点)、世界で多くのひとが外出の自粛を求められるなど、未知の世界に直面している。製薬各社も2月下旬から、MRの医療機関への訪問自粛や、在宅勤務へと舵を切った。思うような社会活動も難しいなかで、注目を集めるのが、“デジタル”の活用の在り方だ。
政府の規制改革推進会議は4月2日、「新型コロナウイルス感染症対策に関する特命タスクフォース」を設置し、初会合を開いた。議論の俎上にあがったのが、オンライン診療・服薬指導の見直しだ。
「患者の方々のみならず、コロナウイルスとの闘いの最前線で活躍されている医師・看護師の皆様を、院内感染リスクから守るためにも、オンライン診療を活用していくことが重要だ。現状の危機感を踏まえた緊急の対応措置を、規制改革推進会議で至急取りまとめていただきたい」―。3月31日に開かれた政府の経済財政諮問会議で、安倍晋三首相がこう指示した。これを受けて設置されたタスクフォースは急遽会議を開き、オンライン診療の“対面原則”の見直しに着手した。
対面原則については2018年度診療報酬改定で正式に導入されたが、この過程で日本医師会は、“対面原則”の遵守を強く求めた。問診が中心となるオンライン診療では、誤診のリスクなどがあることから、厳格な施設基準などを求めた。
新型コロナウイルスの感染が拡大するなかで、厚労省はこうした運用基準の緩和を進めてきた。オンライン診療・服薬指導の活用で、患者や医療従事者が感染者と接触する機会を減らすことで、感染リスクを抑制するとともに、継続して適切な治療を提供することが期待できる。
厚労省も、“特例的な扱い”として、すでに診断されている慢性疾患については、症状の変化があった場合には処方薬の変更を可能にするなど、臨時・特例的な対応を進めてきた。また、感染疑いの人に対しては、かかりつけ医が新型コロナウイルスについての相談やオンライン受診勧奨を行うことを可能にしている。また、診療報酬上も、従来は再診料と処方箋料しか算定できなかったが、生活習慣病管理料などの管理料が算定できることも3月27日の事務連絡で発出するなど、対応してきた。
ただ、規制改革推進会議が突き付けたのは、こうした要件緩和ではなく、これまでの規制の枠組みそのものの考え方を変えることだ。
厚労省は4月2日、そして翌3日にも開催された規制改革推進会議でも、「重症化の恐れや他の疾患を見逃す恐れもある」と指摘。「初診対面」の原則を守る必要性に理解を求めた。しかし、常日頃受診していない若年者の医療アクセスを妨げるほか、中国や英国など諸外国でオンライン診療が活用されるなかで、反発は大きく、最終的に初診でのオンライン診療を容認する方向が固まった。
特例的な扱いではあるものの、規制に風穴を開けたという意味では、大きな一歩と言える。新型コロナウイルスの感染は国難とも言うべき事態でもあるが、一方でこれまで難しかった規制の概念を打ち破る機会にもなり得る。
「ポストコロナはオンライン元年になるのでは」との声もすでに聞かれる。製薬各社も、在宅勤務のなかで、MRがオンラインシステムを活用して医師、薬剤師と面談するケースもあると聞く。数十年先の未来の姿として描いてきた情報提供がいま、実現に向かっているのだ。
もちろん、こうしたチャレンジは課題も浮き彫りにする。オンライン診療では国内でカルテ情報を共有できるシステムが十分に構築されていないという課題も透けて見える。MRのリモートによる情報提供でも、インフラや受け手側のニーズなどの課題もあるだろう。ただ、情報提供やMRとは何か、という本質的な課題を見つめ直すチャンスにもなり得る。非常時だからこそ、これまでの常識の延長線上にないツールを活用し、それを実証する機会にもなり得る。今回の経験が未来の医療を創るとも言える。
ピンチをチャンスに変える―。そんな製薬企業の取り組みに注目したい。