特別寄稿
ジェネリック医薬品の使用促進の取り組みについて(前編)
くすり研究会
この度、日本ジェネリック製薬協会様から機関誌への寄稿の機会を頂戴した。
依頼を頂戴したタイミングで「くすり研究会」のリーダーの役割であったことから私が寄稿する形になっていますが、以降の内容については、私が参加する前から立ち上がっていた研究会の諸先輩方の研究の上に成り立つものであるとともに、現在も共に研究を行っているメンバーに協力してもらって書き上げたものとなっていますので、「くすり研究会」としての寄稿としています。また、「くすり研究会」はジェネリック医薬品の使用促進に留まらず、くすりに関わる様々な課題への対応や制度の活用を通じて医療費の適正化や健康被害の削減についても研究を行っていますが、本稿の主旨に則り活動の一部のみを報告することを予めお断りします。
表題にありますジェネリック医薬品の使用率は、国が目標とする 2020 年 9 月に 80%を「くすり研究会」平均として達成見込みであり、今後は、数量を追い求めるのではなく、本来の医療費適正化の観点から視野を広げて保険者として対応可能な金額ベースの対策に軸足を移すために 2020 年 3 月末を持って「くすり研究会」は休会とし、ここまでの研究や参加健保での実践、薬局・薬剤師などの医療専門家の知見を整理して残せる機会として「くすり研究会」のこれまでの足跡に沿って成果と課題を述べます。
1 ジェネリック研究会の発足~シンポジウム開催まで
2012 年 4 月に発足した「ジェネリック研究会」は 13 健保 13 名という小規模ではありましたが、外資系製薬会社の 2 健保が参加し、くすりの知識や先発医薬品とジェネリック医薬品の違いなどの基礎的知識の習得から始まり、使用率の正しい求め方や加入者への通知などの対策実施有無について一つ一つ情報共有を行いながら、健保としてどういった取り組みをすべきなのか、加入者への周知が必要ではないかと議論を行いました。国がジェネリック医薬品メーカーに対して「安定供給」「品質確保」「情報提供」を求めるなど、医療関係者の信頼を高めるのに躍起になっていた時代に、一部の健保では「差額通知」など加入者へのメリットを伝える試みを行っていました。
その頃、国(厚労省)の対応としては 2007 年に策定した「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」で前述の後発医薬品メーカーへの要望に加えて、2012 年度までにジェネリック医薬品の数量シェア 30%(当時は分母が全医薬品)を目指しましたが、高位推計でも 26.3%にとどまるなど目標到達には程遠いものでした。そのような状況を受け、2013 年には「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」が策定され、改めて 2018 年 3 月末の目標数値が示されました。この時、国際的な比較を容易にするために、「後発医薬品の数量シェア」の求め方が新指標 ※1 とされ、60%以上と設定
されました。
そのような手探り状況の中、「くすり研究会」はジェネリック医薬品の普及促進の必要性と共に、現状を示し、普及を図るために保険者としてやるべきことを保険者に対して伝えるためのシンポジウム(図1)を 2015 年 3 月に開催しました。タイトルは「ジェネリック医薬品の普及を図るためのシンポジウム」、サブタイトルは「差額通知を出せばいいと思っていませんか?」と、当時としては魅力的なタイトルに衝撃的なサブタイトルだったと思います。シンポジウムの中では、一般名処方や処方箋のチェック欄の説明や、いち早い「オーソライズド・ジェネリックの有効性紹介」、「分割調剤を使った薦め方」といった医師や薬剤師と患者のつながりなどにも言及したジェネリック医薬品の利用促進策を分かり易く説明しました。
研究会の参加者も 16 健保 17 名とやや増え、新指標での数量ベース使用率の平均は 2014 年 6 月に 55%を超えましたが、下がる月もあるなど伸びのペースは非常に遅いものでした。
シンポジウムでの強い手応えから、「AGのさらなる研究」「分割調剤の具現化提案」「安全性の具現化提案」「バイオシミラーの研究」に加えてジェネリック医薬品使用率を容易に把握できる手段としてのレセプト管理システム(レセ管システム)の研究、加入者の行動変容のための情報提供といった方向へ向かっていきました。
ここで、関連の深い診療報酬改定について補足しておきますと、
【2008 年】
・処方箋の後発医薬品への変更可チェックを変更不可チェックとした
・保険薬局の後発医薬品調剤体制加算が設置された
・医療機関や薬局に後発医薬品の使用・調剤の努力義務
(注釈)1:後発医薬品の数量/(後発医薬品のある先発医薬品の数量+後発医薬品の数量)
【2010 年】
・後発医薬品調剤体制加算の見直し
・医療機関・入院基本料に後発医薬品使用体制加算の導入
・医療機関や医師に対して患者の意向確認の努力義務
【2012 年】
・後発医薬品調剤体制加算の再度見直し
・医療機関の後発医薬品積極使用の体制評価
・処方箋での変更可否を個々の処方薬ごとに明示できる様式変更
・一般名処方加算の導入(一般名処方マスタの公表)
といった対応がありました。
2 ジェネリック研究会から実態に即した「くすり研究会」へ
シンポジウムの翌年である 2015 年 6 月には閣議決定において「2017 年央に 70%以上とするとともに、2018 年度から 2020 年度末までのなるべく早い時期に 80%以上とする」という新たな数量シェア目標が定められました。また「2018 年には健保毎の後発医薬品使用率によって後期高齢者支援金の加算・減算導入予定」などといったことも示され、未だにジェネリック医薬品の安全性に対して医師の疑義がある中で、差額通知を行うだけでは 70%の数値目標さえ高いものであり、目に見える効果を感じられないことから、更なる促進策としてシンポジウムでも取り上げた「AGの使用促進」「分割調剤の普及」に力を入れることとしました。一方、レセ管システムを使った数量比率の把握や分析に対する機能追加が必要と言った声も出ていました。ジェネリック医薬品の数量ベースの比率を「都道府県別」「入院・外来・医科・歯科」「男女別」「調剤薬局の後発薬処方ランキング」「疾病別」「薬効別」などで分析して効果的なターゲットを見極めることが近道では無いかとの声が出ていました。
年度の成果物として収載数は少ないものでしたが「AG使用促進マニュアル」の中に先発医薬品との対比、薬価差、適応症の情報などを示した上で薬価差の大小や服用期間の長短で分布図(図2)を示すなど価格メリットを見える化しています。また、「分割調剤普及マニュアル」として「いきなりすべてのお薬を切り替えるのが不安なら、お試し調剤(分割調剤)という一枚の処方箋で何日分かだけ後発医薬品を試せる方法があります」と示した上で、「同一薬局処方」「処方箋保存」「次回来局日確認」「体調の変化に気を付ける」などといった注意事項を示しています。
そういった成果の実践を意識しながら、改めて研究会の目的を話し合った結果、この研究会の目的は「くすりを取り巻く環境を理解し、くすりを通じて保険者が出来る医療費削減を目指す」としました。医療費削減ということが明確に見えてきたとき、「ジェネリック医薬品の使用率増加は実践編として取り組んでいく」こととしながら、「残薬問題の解決(多剤投与や重複投与の是正、かかりつけ薬局の利用促進、服用コンプライアンスの向上)」や「セルフメディケーションの観点から一般用医薬品の利用促進」といったことも併せて研究していくこととしています。研究テーマを「ジェネリック医薬品の利用促進」一本から複数の取り組みとしたことにより、研究会の名称を翌年度から「くすり研究会」とし現在に至っています。
3 薬局・薬剤師・医療従事者へのヒヤリングを通じた学びと 70%超え
「くすり研究会」と名称も新たな 2016 年度は、
・ジェネリック班(数量シェア 80%を目指す) : 図3参照
・コンコーダンス班(コンコーダンス医療を目指す)
・セルフメディケーション班(行動の浸透を目指す)
と活動の幅も広がりましたが、参加者数は一気に 26 健保 27 名にもなり、十分な活動が可能な基盤が整ってきました。更に 2017 年度は 30 健保になるとともに
・ポリファーマシー班(対策の検証)
が加わっています。
ジェネリック班では参加健保の使用割合を月次で把握・比較しながら厚労省の電算処理集計などと比較もしながら参加健保平均が 60%台の状況では何年後に80%達成などと言いきれる状況ではありませんでしたが、2016 年度末には参加健保の多くが右肩上がりで 70%を超えていきました。そんな中で 2016 年度は使用割合の近い 3 健保で薬効分類ごとの使用割合を比較してみると似たような傾向があり、A健保の上位5 薬効の合計は全体の 65%を占めるなど、それ以外の薬効との使用割合にばらつきがあることがわかるとともに、そういったシェアは少なくてもジェネリックへの置き換えは進んでいるなどといった違いも見えてきました。一方で厚労省の患者に対する調査でジェネリック医薬品に変更したきっかけでダントツに多かったのが「薬剤師からの説明」であったことから、駅前・門前・個人と経営形態の異なる 32薬局にジェネリック医薬品に対する飛び込み調査を行ったところ、「処方箋の変更不可」「高齢者や子供への処方を嫌う家族」といった声もある中で、「保険証に希望シールがはってあるのは有効」「価格や安全性だけでなく味や形といった飲み易さなどの紹介も有効」といったことが分かりました。「80%達成の特効薬はない」が、「薬の専門家である薬剤師の推進積極性がある」「対象者や薬効を意識した差額通知の有効性」といったことが導き出されました。
その上で、2017 年度には、改めて薬局チェーン 4 社 ※2の薬剤師にアンケートを実施させていただき、481 件の回答を得ました。保険者が行っている「差額通知(図4-1、図4-2)」や「希望シール/カード」が有効であるとの心強い回答をいただきましたが、「一度試してみて」「皆さん使っていますよ」といった声掛けは勿論、小児向けでは「飲み易さ」などのアピールも有効と言うことでした。AGを最後の切り札と言う方も居る一方、ジェネリックやAGの在庫を何種類も持てないので銘柄指定はして欲しくないといった意見がありました。ジェネリック医薬品推奨に積極的な薬局があることも分かりましたので、差額通知に「よく使われているジェネリック医薬品名=在庫がある」「患者近隣の後発医薬品調剤体制加算の高い薬局(コラム2)を明示」「飲み易さ、使い易さの紹介」「利用規模(皆さん使っています)の明示」といったことを盛り込むヒントを頂きました。こういった、薬局・薬剤師が単に安さを伝えるだけでなく、患者ごとの困りごとなども意識した個別対応を工夫している姿勢やノウハウがジェネリック医薬品利用促進のその後の研究活動に大きく影響を与えました。
他班の研究の中で参考になったことは、コンコーダンス班では「患者から、自分が感じる病気や薬剤の不安や自分の信念を伝える必要性と伝える手段」が必要な事を、ポリファーマシー班では「多剤投薬者と不適切処方に関する考慮」が必要な事、セルフメディケーション班では「医療費の適正化におけるジェネリック医薬品利用以外の選択肢となる」事などを共有しています。
また、この年度で忘れてはならないのが、日本のフォーミュラリーの第一人者である医療専門家(薬剤師)より、フォーミュラリーによるジェネリック医薬品のさらなる推進についての考え方を学んだことです。いまでこそ、保険者も加わった地域の取り組みなどが始まっていますが、恥ずかしながら、当時は保険者には手を出せない分野といった印象を持った健保が多かったと記憶しています。
(注釈)2:クオール株式会社、日本調剤株式会社、ファーマライズホールディングス株式会社、株式会社わかば の 4 社
i. 一般社団法人保険者機能を推進する会
http://www.kino-suishin.org/index.html
保険者の役割が重要視され、健康保険組合等では保険料の徴収と医療給付だけでは、その存在意義が問われる時代を迎えています。「保険者機能を推進する会」は、その重要性を認識した有志の健康保険組合が自ら参画し、保険者機能の研究と具体的対策を結びつけ、被保険者・被扶養者の皆様のお役に立つような機能を強化しようと活動しています。
保険者機能の原点は、被保険者・被扶養者のために、(1)如何に良質な医療を確保するか、(2)如何に保険料を効率的に活用するか、(3)如何に保健事業に代表される健康づくりを推進するか、にあるものであり、この実施・実現が保険者の使命である。ただ単に " 支払い側 " に甘んじ、保険料の徴収と医療費の給付が主な事業内容であれば、その存在意義が問われる時代になりつつある。
少子高齢社会の進行に伴い、あらゆる分野から医療保険改革が求められている。政府をはじめ、経済界、労働界、研究機関、学識経験者などから提案、提言がなされており、その多くが保険者機能の強化を訴えている。しからば、保険者機能が強く求められているとき、保険者自身は何を考え、何を為すべきであるか。保険者として社会的存在であると考えるならば、人格ある者として為すべき義務の主体となるとともに、実行すべき権限を強くもつ主体ともなるべきである。
2001 年 3 月に前身の研究会として設立。会員数 110 健保(2020 年 1 月 1 日現在)
令和2年9月使用割合の目標80%に向けた緊急対策 ~ジェネリック医薬品使用促進に向けた取組を強化~
このたびの新型コロナウイルスに罹患された皆様と、感染拡大により生活に影響を受けられている皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
一日も早くこの事態が終息し、平穏な生活を取り戻せるよう心から願っております。
さて、全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」という。)では、令和 2 年 2 月から緊急対策として、平成 29 年 6 月に閣議決定された目標の使用割合 80%に向けて、(1)ジェネリック医薬品軽減額通知サービス(以下「軽減額通知」という。)の対象者の拡大、(2)厚生労働省が定めた重点地域(東京、神奈川、山梨、愛知、京都、大阪、広島、徳島、高知、福岡)を中心とした医療機関・保険薬局への訪問強化等を実施しています。
※令和2年2月末から新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、医療機関・保険薬局への訪問を当面の間、見合わせております。
なお、重点地域については、日本ジェネリック製薬協会様に取組等のアドバイスをいただきながら、実施計画を策定の上、実施しています。
≪1.緊急対策を行う背景≫
使用割合の伸び悩み。診療所(院内)、大学病院、0 ~ 19 歳が特に低い。
協会けんぽにおけるジェネリック医薬品の使用割合は、平成 31 年(2019 年)1 月診療分は 76.0%、令和元年(2019 年)11 月診療分は 78.0%と、少しずつ伸びている一方で、年々上昇率が縮小しています。
仮に前年同月と同じ伸びで推移しても、目標の使用割合 80%の達成が困難となる見込みです。(図1参照)
加えて、協会けんぽのレセプト分析から、設置主体別では診療所(院内)や大学病院の使用割合が低く、年齢別では 0 ~ 19 歳が低いなどの課題が明らかになっています。(図2参照)
≪2.緊急対策の取組≫
お薬代の軽減可能額のお知らせの対象を初めて 15 歳以上に拡大
協会けんぽでは、軽減額通知により、新薬(先発医薬品)をジェネリック医薬品(後発医薬品)に切り替えた場合のお薬代の軽減可能額を、ご本人に対して通知しています。(図3参照)
これまで、通知対象者は18歳以上(年度初め時点での年齢)の加入者としていましたが、令和2年2月に通知した軽減額通知は、対象年齢を引き下げ、本サービスを開始して以来初めて、15歳以上(年度初め時点での年齢)の加入者に拡大して通知しました。
これは、約7割の市区町村において、15歳の年度末に乳幼児等医療費助成が終了するため、ジェネリック医薬品の切替えに繋がりやすいと考え、実施するものです。
ジェネリック医薬品への切替えをご希望いただく場合は、医師または薬剤師に、軽減額通知を持参してご相談いただくことで、スムーズに切替えができます。
なお、このサービスは、平成21年度から実施しており、平成30(2018)年度の通知件数は約670万件、切替約186万件で切替率は約27.7%でした。軽減効果額は一か月で約27.5億円、年間推計すると約330億円となります。
厚生労働省が定めた重点地域を中心とした医療機関・保険薬局への訪問強化
協会けんぽでは、加入者のレセプトを分析することにより、個別の医療機関・保険薬局ごとに、ジェネリック医薬品の使用割合に特に寄与する医薬品の処方状況を記載したリスト(図4参照)や、当該医療機関の所在する都道府県でよく使われているジェネリック医薬品のリスト(図5参照)を提供することで、ジェネリック医薬品を積極的に採用したいと考えている医療機関・保険薬局をサポートすることができます。
これまで、個別の医療機関・保険薬局に対して、主に郵送により情報提供を行ってきましたが、今後は、ジェネリック医薬品の使用割合が低く、都道府県平均の向上に寄与する医療機関・保険薬局に対して、積極的な訪問、説明を行うことにより、医療機関・保険薬局におけるジェネリック医薬品の使用をサポートしていきます。
その際、0~19歳においては、ジェネリック医薬品の使用割合が特に低いため、特別な事情がない場合には、ジェネリック医薬品を使用していただけるよう、お願いしていきます。
〔 医療機関・薬局をサポートするための情報提供ツールとは 〕
医療機関・保険薬局向けに、ジェネリック医薬品の処方(調剤)割合、地域における医療機関(保険薬局)の処方(調剤)割合の立ち位置、医療機関(保険薬局)におけるジェネリック医薬品数量割合向上に寄与する上位10医薬品など、個別の医療機関・保険薬局の情報を掲載したツールを作成しています。
医療機関・保険薬局への情報提供を平成28年度より実施しており、令和元年度においては、医療機関への訪問163件、保険薬局への訪問を134件実施しております。(令和元年12月末時点)医療機関や保険薬局からは、「思ったより使用割合が低かった。今後のジェネリック医薬品を採用する参考としたい」、「院内で協議し処方せんの「ジェネリック変更不可」へのチェックをしない方針としたい」といったお声を頂戴しております。
加えて、協会けんぽ加入者の対象月に係るレセプトを活用し、医療機関・保険薬局のジェネリック医薬品の採用を支援するため、都道府県ごとの医薬品の処方実績を見える化した「医薬品実績リスト」も情報提供をいたします。