特別寄稿
ジェネリック医薬品の使用促進の取り組みについて(後編)
くすり研究会
この度、日本ジェネリック製薬協会様から機関誌への寄稿の機会を頂戴しました。
本稿は、4月号掲載内容の後編となることから、併せてお読みいただければ幸いです。
4. パーソナライズな対応の必要性
2018年度は「数量シェア80%を目指すだけでなく、使用感や金額など効果的な対応策を実施する」ことを目標に定めました。これまでも、差額通知やお願いシール、様々な媒体を通じた情報提供や案内などを進めてきましたが、薬剤師にも必要性を認めていただいた差額通知が読まれているのか、効果的なものなのかといった疑念を持ち、参加健保に差額通知を行う際の工夫を確認したところ、同封物は勿論、封筒にも工夫を凝らして使用促進に努めていました。「くすり研究会」では、さらに掘り下げて「どのような薬に、どのような情報提供を行えば」より効果的になるのか、これまでの分析ノウハウを駆使し、「薬効分類から見た使用数量」及び「薬効分類から見た金額」を見える化し、使用割合と金額の大きな先発医薬品を薬効分類別でターゲティングしました(図5)。これを個人に響く使用者数と使用額に置き換えて傾向分析を行い、「使用額が高く使用者数が少ない」主に生活習慣病薬などについては、「金額面」から、「使用額が低く使用者数が多い」湿布薬やアレルギー薬については、「使用感」からのアプローチが有効との方向性を定めました(図6)。
先立って、2017年度には薬剤師のノウハウとして、くすりの味(イチゴ味、バナナ味など)や剤型(小型、ドライシロップ、口腔内崩壊錠など)による「飲み易さ」をくすりの苦味等が苦手なお子様を持つ親御さんには「飲ませ易さ」として響くことや、貼付剤の「剥がれ易さ」「温感タイプ」を高齢者に対して「痛くない・剥がし易さ」「冷たくない」と伝えることなどを学びました(図7)。
金額面では生活習慣病など長期服用や複数の疾病により差額の累積が大きなものになることを伝えることにインパクトがあることです(図8)。
「使用感」や「金額」で差額通知の効果を高めることで、加入者への「節薬」を促し、薬との付き合い方に関心を持ってもらう良い機会となることが分かりました。「くすり研究会」は80%という目標は通過点であって、保険者は「薬剤費の適正化」を将来にわたって進めていくことが必要であると改めて認識しました。
5. ハイブリッドなおくすり通知の可能性
2019年度は参加健保のそれぞれがどのような構成や状況にあるのか、本人/家族・性別・年齢といった尺度を用いてジェネリック使用率の分析および可視化を行い、他の健保との比較も行うことで、各々の健保におけるターゲットの明確化を行いました。健保として「額」と「率」のどちらをターゲットにするのかでも打つ手が変わってきます。前年度までの研究の中でターゲットに応じて効果的な手法は異なることを認識してきましたから、ターゲットに応じた策を投入することで高い成果が得られるものと思っています。
健保の事例として、女性や子供、あるいは、高齢者といったターゲットに合わせたチラシやシール(図9)を作って配布したB健保は、3か月間でジェネリック使用率は約2ポイント上昇し、81%を超えました。女性や子供を持つ保護者向けに安価であることと「当健保でも皆さん使ってます」を訴求しました。高齢者には先発医薬品と「同じ効き目」で安価で、溶け易い・飲み易い味などを訴求しています。細かな事ですが、希望シールは従来の保険証やお薬手帳だけでなく、電子カルテなど医療機関の電子化に合わせて診察券への貼り付けも有効としています。
前年度のまとめでも申し上げましたが、単にジェネリック使用率を追いかけるのではなく、薬剤費の適正化も考える必要があり、避けてはいけないのがポリファーマシーの中でも不適切な処方となります。差額通知をターゲット別に工夫する考えの中で特に高齢者に対する健康被害なども意識した分析と情報提供が出来ればと考えましたが、金額以外の情報として同一成分や併用注意・併用禁忌といった情報も併せて載せる(図10)ことで、くすりに関する情報を一元的に見ることが出来るようになります。ジェネリック医薬品の体制加算がジェネリック使用率を向上させるために役立ってきたのと同様、薬局からの減薬の医師への提案や医療機関での入院時の減薬確認などといったことが診療点数として取り入れられてきていることは、患者個人の診療情報を一元的に有する保険者と専門的な分析が出来る事業を組み合わせることで、患者はもちろん、薬局や病院に対してもメリットのある情報を組み合わせて提供可能と考えています。
5. ハイブリッドなおくすり通知の可能性
「くすり研究会」に参加している21健保の平均使用率は、2019年10月度のレセプトで79.88%となりました。約半数の12健保が80%を超えています(図11)。12月レセで平均が80%を超え、3月レセで21健保全てが80%を超えるのも夢物語では無いと思っています。しかしながら、2020年9月に全ての保険者において80%を超えたとしても2022年危機を乗り切るだけのパワーにはなり得ません。本来、薬剤費の伸びが大きなことからこの伸び率を抑制するための安価なジェネリック医薬品への切り替えを促すものであり、数量ベースで80%を達成したとしても、金額ベースでの抑制は十分ではありません。「とにかくジェネリック使用」とか「高い薬は使うな」といった極端な施策に向かうのではなく、「医療費の適正化」の観点に立ち、標準治療が存在するように、標準処方としてのフォーミュラリーがあり、マイナンバーカードの保険証利用などを通じたマイナポータルでの個人の健診・診療の管理といった一元的で継続的な情報を分析・活用することで、不適切な医療や処方を無くすことは直接的な医療費の適正化につながるだけでなく、長寿社会における適切な医療の提供にもつながっていくことを期待しています。
最後に、こういった研究を進める上で、情報の一元化や開示が必要であることに気付かされました。日本は、電子化を通じて生産性向上を図ることでも「少子高齢化(生産年齢人口の減少)」に立ち向かおうとしています。アナログからデジタルへ転換するには時間も労力も要しますので、既にデジタル化された情報をいかに活用するか(活用できる形に整理するか)といったところから始めて即効性のある生産性向上の先にデジタル社会への転換があるのでは無いかと思います。それにはまず、国が持つデータの開示を進めるとともに、自治体などの単位でまとまりの無い状況を強制力と責任を持って適正な一元化を図る必要があるものと思います。
東京都における後発医薬品安心使用促進の取組について
1. 東京都の後発医薬品(ジェネリック医薬品)使用状況について
東京都のジェネリック医薬品の使用割合は、令和元年9月時点で74.9%と全国平均の78.7%を下回り、全国では46位となっています。
政府は、令和2年9月までにジェネリック医薬品の使用割合80%到達を目標に掲げて取り組んでいますが、「診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」などの各種調査により患者や医療従事者の中には、ジェネリック医薬品に対して漫然とした不安を抱いている方が少なからずおられることが示されています。
このため、都では、令和元年度から、都民や医療機関のジェネリック医薬品に対する不安や疑問を解消し、安心して使用できる環境を整備していくため、有識者、医療関係団体、都民代表等からなる「東京都後発医薬品安心使用促進協議会」を設置し、関係者が連携して、都の実情に応じた効果的な取組を検討しています。
2. 令和元年度の取組について
(1)後発医薬品(ジェネリック医薬品)に関するアンケート調査
東京都における特性や課題などを明らかにし、ジェネリック医薬品を安心して使用できる環境整備に向けた施策を検討するため、「後発医薬品(ジェネリック医薬品)に関するアンケート」を薬局訪問患者、薬局、病院・病院医師・診療所、保険者を対象に実施しました。
東京都のホームページに概要と報告書を掲載しましたので、ご一読いただければ幸いです。
(URL)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kokuho/kohatsuanshin/kohatsuchosa.html
(2)「医療機関・薬局の皆さまへ 患者が安心してジェネリック医薬品を使用するために」の作成、医療機関・薬局向け配布
東京都の数量シェアは、全国でみると低いものの、1「後発医薬品(ジェネリック医薬品)に関するアンケート結果」では、外来の院外処方で一般名処方を行っている病院医師は約70%、診療所医師は約80%となっており、一般名処方が進んできています。
また、患者は、勧められたとおりジェネリック医薬品にする人や、先発医薬品かジェネリック医薬品かこだわっていない人が多い傾向であることもわかりました。
ジェネリック医薬品を安心して使用できる環境整備を図っていくため、医師や薬剤師をはじめ医療関係者がジェネリック医薬品に対する理解をさらに進め、連携して患者の声に応えていくことが重要な取組の一つです。
医療関係者が連携して取り組む一助となるよう「医療機関・薬局の皆さまへ 患者が安心してジェネリック医薬品を使用するために」を作成し、医療機関・薬局に配布しました。
東京都のホームページに概要と報告書を掲載しましたので、ご一読いただければ幸いです。
(URL)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kokuho/kohatsuanshin/kohatuiyakuhin/index.html