EN

月刊JGAニュース

特別寄稿  

「姑息」脱却の覚悟を

株式会社じほう

報道局日刊・PJ編集部 大塚 達也

 誤用が多い日本語の 1 つに「姑息」がある。しばしば目にする「卑怯」「ずるい」というニュアンスでの使われ方は本来誤りで、「その場しのぎ」「間に合わせ」というのが正しい用法だ。  新型コロナウイルス感染症の拡大によって、製薬業界を取り巻く環境も大きく変化した。ほんの 2 ~ 3カ月で、これまで当たり前にできていたことが全くできなくなり、これまでやる必要がなかったことをやらなければいけなくなった。想定外の事態の中、各社は必死で対策を講じている。患者は当然のこと、医療従事者や自社、関連会社の従業員、広くは全国民の安全と健康のため、業務内容や業務環境を変容させている。

 そうした新型コロナ対応だが、社会的責任が重く、場合によっては緊急性を要するため、どうしても「変えてからやる」ではなく「やりながら変える」になる。従って、本来の意味での姑息な対応で乗り切るしかないことも多くある。

 ただ、この新型コロナ対応は長期化する可能性がある。そして、かりに収束したとしても1度転がったボールはそのまま戻ってこない可能性がある。医療機関との付き合い方、サプライチェーン、社内の人員配置、機器の導入など、新型コロナ対応として行っている現在の業務形態は、もはや一時しのぎでなく、恒常的になると覚悟したほうが良いのではないか。覚悟のもと、抜本的な変革が必要な領域は一気にそれを推し進めるべきではないか。

 今、誰かが無理をしている、どこかで余計なコストがかかっている。一時的なものと考えればそれらも仕方ないが、長期化となると持続性の問題が生じる。持続的に社会的責任を果たすためにも、覚悟を決めなければいけない。原薬調達など、まだまだ予測がつかない領域も多いが、患者の通院や処方動向など一定の方向性が見えてきたところもある。早めに情報を収集して、できるだけ姑息ではない形で対応にあたっていきたい。

 もっといえば、薬価制度に関する予見性の低さの問題に対しても、同じ態度で臨みたいところだ。もちろん薬価制度は最重要因子であり、常に業界の意見を適切に反映させられるよう訴えていく必要はある。だが、それと同時に薬価改定の影響を受けないようなビジネスモデルも各社が模索していくべきではないだろうか。


新型コロナウイルスと「Society 5.0」

株式会社薬事ニュース社

編集部 野口 一彦

 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として、国民一人あたり 10 万円を給付する「特別定額給付金」。私はマイナンバーカードを保有していたので、アプリの「マイナポータル」を使って申請したところ、わりとすんなり振り込まれた。しかし、ニュースを見ると、私のようなケースは例外だったようだ。システム障害などが起こり、オンライン申請の受付を停止した自治体も多くあった。いまだに給付されていないという人も少なくないようである (7 月 16 日時点 )。
 今なお続いている新型コロナウイルスの感染拡大によって、浮き彫りになった日本の課題の一つが、ITインフラの整備の遅れだ。医療機関が、新型コロナウイルスに感染した患者を保健所に報告する方法がFAX であったことも話題となった。さらに、感染拡大に伴う臨時休校が長引くなか、各学校はオンライン授業を取り入れようとしたが、それが可能となったのは一部の学校にとどまったようである。
 製薬企業においても、医療機関における訪問規制もあり、MR による情報提供活動はオンラインに切り替わった。一方で、製薬企業、医療機関ともに環境整備が十分でなかったところもあり、IT 企業や PR 会社、CSO 企業などがリモートディテーリングサービスの提供で競い合っている。そんななか、GE 企業の話を聞いていて意外に思ったことは「MR が医師のメールアドレスを知らない」ことが結構多いということだ。しかし私自身、製薬企業の広報部門がリモートワークになったことで、広報担当者の携帯電話番号を知らないことに気づき、他人事ではないことに思い至った。また、取材においても ZOOM や Microsoft Teams などを使用したリモート取材が増え、自分の IT リテラシーの低さにも気づかされた次第である。
 さて、理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター「富岳」が、性能を競う世界ランキングで、計算速度など 4 つの部門で世界一となった。日本の技術力・開発力が、世界トップクラスであることを証明したといえる。一方で、一般国民の IT リテラシーはどうだろうか。行政や公共機関におけるインフラはどうだろうか。そう考えると、世界トップクラスの技術力が一般国民レベルにまで下りてきていない。いや、基盤が弱いために下りてこられないというべきか。国は、超スマート社会「Society 5.0」の構築を打ち出した。日本ジェネリック製薬協会も「Society 5.0」を実現した社会からバックキャスティングした産業ビジョンを打ち出している。技術的には、おそらく「Society 5.0」の実現は可能なのだろう。しかし、今の環境では一部の人しかその恩恵を受けることができないのではないだろうか。普及率 16%のマイナンバーカードによる給付がうまく進まなかったことも、それを暗示している。「Society 5.0」が絵に描いた餅にならないことを願いたい。


ジェネリックメーカーの命名権ビジネス

薬事日報編集局

村嶋 哲

 スポーツや文化施設などの名称に企業名をつける“命名権ビジネス”は、企業の宣伝手法としてすっかりお馴染みとなった。地域に本社を置くジェネリック医薬品メーカーも地方自治体が運営する施設の命名権を買い取り、地域活性化に手を貸しながら、自社のPRを行っている。
 富山県富山市に本社を置く日医工は、2014 年に富山市のスポーツパークを当時の米国法人名「NIXS」を冠としたNIXSスポーツアカデミーと命名。さらに 16 年には富山県サッカー協会と滑川市が共同で運営するサッカー場の命名権を獲得し、「日医工スポーツアカデミー」と名付けた。
 大阪府門真市に本社を置く東和薬品は、15 年から門真市にある水泳場やスケート場などの多目的アリーナを「東和薬品RACTABドーム」の愛称として命名した。RACTABは水なしで飲める同社独自の口腔内崩壊錠技術の名前である。
 山形のジェネリックメーカー「日新製薬」は、11 年から山形県中山町の山形県野球場の命名権について地方銀行の荘内銀行との 2 社で共同取得している。県民には「荘内銀行・日新製薬スタジアムやまがた」として認知されており、高校野球の県予選でも使われている。
 武田テバの名前がついたスポーツ施設といえば、愛知県名古屋市にある日本初のフットサル専用アリーナ「武田テバオーシャンアリーナ」が有名だ。プロフットサルクラブ「名古屋オーシャンズ」の本拠地でもある。
 もともと 08 年に「大洋薬品オーシャンアリーナ」として開業し、12 年に興和テバが大洋薬品を買収し、「テバオーシャンアリーナ」に改名。17 年には武田テバファーマの誕生で「武田テバオーシャンアリーナ」と変わった。これら施設名の変遷だけでジェネリック業界の動きが分かるから面白い。
 医療機器、ジェネリック医薬品など多角的に事業を展開するニプロは、17 年に秋田県大館市の野球場の命名権を年 330 万円の 3 年契約で獲得した。愛称は「ニプロハチ公ドーム」。大館市は秋田犬ハチ公の故郷であり、大館工場を持つニプロはそれにちなんで名付けた。ドームの屋根には樹齢 60 年以上の秋田杉 2 万 5000 本が使われており、国内最大の木造建築物となっている。
 製薬企業でも地域包括ケア対応など地域密着型の事業展開が重要なテーマになっている。地域スポーツの活性化は健康寿命の延伸などともかかわり、県内施設への命名権取得を通じて、自社のブランド名、事業活動を地域に認知させる取り組みは今後も有効かも知れない。業界団体としての取り組みも同様で、例えば日本ジェネリック製薬協会がジェネリック医薬品の浸透が遅れている都道府県の商業施設、スポーツ施設の命名権を買い取り、「ジェネリック」と冠を入れてみるのはどうだろうか?


次、ジェネリックメーカーに何が求められるのか

株式会社アズクルー

月刊ジェネリック 賀勢 順司

 すべての産業が非常事態下にある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )患者が世界中で増加する中、あらゆる産業がその影響を受けている。観光や外食産業は元より、医療業界も診察・治療の減少により厳しい状況に置かれている。もちろん医療用医薬品業界も同様で、直近の決算報告においては新薬・ジェネリック医薬品に関わらず各社とも「先が予想出来ない」とコメントしている。ただ、今のところ他産業に比べ大幅な需要減には至っておらず、供給面でも操業を停止する製薬工場はない。影響は、MR 活動が制限され事務関連に在宅勤務が多くなったということだろう。もちろん医療現場が異常な状況にある以上、早晩医療用医薬品需要に大きなマイナスが現れることは間違いない。また病院・医院経営難を訴える声が各地から上がっており、恐らく国は診療報酬等の施策で対応すると予想される。つまりは薬価の大幅な引き下げが次に待っている可能性が高い。新型コロナ治療薬とワクチン開発、確保の費用捻出もこの流れを強化する。
 先行き不安・不透明の状況の中で、ジェネリック医薬品に関しては明確になった点が一つあると感じる。シェア 80%後の促進策を願うことや「低価格・高品質・安定供給」を追求するだけでは芸がない。これからのジェネリックメーカーに必要なのは「臨床に近づくこと」なのではないか。
 世界中で臨床試験が始まった新型コロナ治療薬には、ファビピラビルやレムデシビルのような独占権のある新薬もあるが、ナファモスタットやカモスタット等のジェネリック医薬品のある成分も多い。新薬も本来、新型コロナを適応症としているものではなく、適応拡大のための臨床試験である。従来は「適応拡大」は新薬・先発品メーカーの役割とされてきたが、少なくとも独占権の切れた医薬品成分に関してはジェネリックメーカーがそれを担当する時代が来ている。医療機関、医学・薬学研究機関と協力し既存医薬品に新たな命を吹き込むことは、ジェネリック側の使命だと信じる。
 同時に医薬品の幕引きもジェネリックメーカーが主導権を握るべきだ。今回のような突発的な治療薬・ワクチン開発の必要性は、今後も続くだろう。そのための原資は不要な医薬品を市場から省くことしかない。例えば日本で使われる PPI の中には、海外では不要とされる新薬も多い。ジェネリック登場によって個別成分の薬価が下がっても、医療機関の処方は新たに上市される成分に流れ、結局医薬費は下がらない。ジェネリックメーカーがより臨床現場と近づくことが、「ちょっと新薬」のシェアを抑え更なる医療費削減に結びつくのではないか。当然、必要性の薄い成分はたとえ市場規模が大きかろうとジェネリック医薬品にしないという意志も求められる。シェア 80%を超えれば「ジェネリック医薬品が登場しない長期収載品は不要」と医療機関に言えるだけの力が業界にあるはずだ。COVID-19 は、ジェネリック需要拡大が“行政からのぼた餅”から“ジェネリック業界の汗の結晶”に転換する契機になり得るのではないか。


東京五輪閉会式に思うこと

医薬経済社

坂口 直

 暗闇の中、「蛍の光」のメロディに合わせて無数の松明が揺れ、電光掲示板には「SAYONARA」の文字が浮かぶ――。64 年 10 月 24 日に行われた東京五輪の閉会式の一幕だ。年々、映像技術の進展に伴い、さまざまな演出が施されているが、東京五輪の閉会式はこのシンプルさ故に神々しく、また、キャンプファイヤーのような暖かみさえも感じられる。当初、整然と入場するはずだった選手団は、各国入り乱れ、日の丸を持った旗手は、他国の選手に肩車され、トラックを練り歩いた。その光景を歴史小説の名手である井上靖は「その乱雑さは和やかでむしろ美しい」と捉えた。
 今も伝説の閉会式として語り継がれているが、残念なことに東京五輪 2020 は開催さえ危ぶまれている。新型コロナウイルス感染症は未だ収束する兆しは見えず、世界では日々、万単位で患者数が増えている。一時は落ち着いた東京都も 7 月中旬から感染者が目立ち始め、早くも第2波の到来を予感させる。
 東京五輪 2020 開催の大前提は、治療薬とワクチンの開発だ。世界中の研究機関が果敢に挑んでいるが、まだ確たる製剤はつくられていない。世界中の人々が今か今かと待ち望んでいる一方で、通常の医療で使われている医薬品に関しては危機感が薄い気がしてならない。原薬の多くは中国、インドから調達しており、流行次第では流通が止まってしまう恐れがある。年初の第1波は何とか乗り切ったが、迫る第2波に耐え得るほどの原薬の在庫は確保できているのだろうか。
 日本製薬工業協会は 6 月に「感染症治療薬・ワクチンの創製に向けた製薬協提言」をとりまとめ、そのなかで原薬については調達や備蓄において公的支援の要望などを盛り込んでいる。しかし、医療用医薬品の約8割はジェネリック医薬品が占めている。日常の医療はジェネリック医薬品が支えているといっても過言ではないが、世間には知られていない。
 すでに行動しているかもしれないが、日本ジェネリック製薬協会も何らかのメッセージを世間一般に送る必要があるのではなかろうか。パンデミックが発生した場合、原薬の確保が難しくなり、現在の医療を維持することが難しいことを前もって発信しておけば、深刻な事態が生じたとしても一定の理解は得られやすいのではないか。世界各国、または、日本国内でも、互いに融通し合えるような関係にあるのならば杞憂に終わるのかもしれないが、そう悠長なことは言っていられない状況にある。


奈良県における後発医薬品安心使用促進事業の取り組みについて

奈良県福祉医療部医療政策局薬務課

(1)後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用状況について

 奈良県における後発医薬品の使用割合(調剤レセプト(電算処理分)のみ)は令和元年 12 月時点で77.8%(40 位)で、全国平均の 79.9%と比べ、約2%低い値となっています。また、昨年同時期75.4%からの伸び率は 2.4% です。さらにジェネリック医薬品の使用割合を伸ばすためには、県民の方へのさらなる普及啓発と病院、診療所、薬局等の医療関係者の協力がとても重要であると考えています。

(2)取り組み

 奈良県では、ジェネリック医薬品使用促進のため、平成 20 年より学識経験者、医療関係団体、保険者、消費者団体及び製薬団体(日本ジェネリック製薬協会)を構成委員とした「奈良県後発医薬品適正使用等協議会」を設置し、平成 25 年からは「奈良県後発医薬品安心使用促進協議会」に改称し、県の附属機関として、県民及び医療関係者がより安心してジェネリック医薬品を使用することができるように取り組みを行っています。
 また、平成 30 年に策定した第3期奈良県医療費適正化計画の下、地域の実情に合わせた効果的な施策を行うために、平成 30 年度より桜井市及び大和高田市、令和元年度には橿原市において「医薬品適正使用促進地域協議会」を発足し、医療費の適正化に向けた取り組みを行っています。ここでは、地区医師会、地区薬剤師会、中核病院、訪問看護ステーション、保険者、市町村、県が連携し、ジェネリック医薬品の使用促進と重複多剤投薬の対策に取り組んでいます。

(1)薬剤師からの普及啓発

 令和元年度より、奈良県薬剤師会と協力し、薬剤師による出張セミナーを開催しています。
商業施設及び医療機関等における健康イベントにおいて、ジェネリック医薬品を使用することの意義について、県民へ啓発しています。

(2)お薬手帳のカバーを用いた普及啓発
 平成 30 年度、令和元年度で延べ 40000 枚作成し、薬局及び病院から患者へ、奈良県保険者協議会から被保険者へ、健康イベント等で県民へ、幅広く配布を行うことで普及啓発を行っています。お薬手帳カバーには、「ジェネリック医薬品を希望します」と記載し、病院・診療所・薬局に提出するだけで、ジェネリック医薬品を希望していることを伝えることができるように工夫しました。

(3)薬剤師が選ぶジェネリック医薬品アドバンテージリストの作成
 「薬剤師が選ぶジェネリック医薬品~ジェネリック医薬品アドバンテージ情報~」で、従来から何らかの理由によりジェネリック医薬品への移行があまり進んでいない医薬品について、県薬剤師会、県病院薬剤師会及び日本ジェネリック製薬協会ご協力のもと、リストを作成しました。移行があまり進んでいない医薬品の他、ジェネリック医薬品メーカーが特に推奨したい品目のアドバンテージ情報(先発品より優れているおすすめポイント)を医師・薬剤師に提供し、ジェネリック医薬品を選択する際の参考にしていただくためのものです。本リストについては、関係団体のホームページに掲載いただいています。

(4)ジェネリック医薬品使用割合の低い医療機関への訪問
 医療関係者への意識付けを目的として、県薬務課、県医療保険課、及び協会けんぽ奈良支部が、ジェネリック医薬品使用割合の低い病院への個別訪問を実施しています。当該病院のジェネリック医薬品使用状況をデータで示し、病院長、事務長及び薬剤部長との意見交換を通じて、個々の病院に合わせた使用促進の方法を検討しています。

(5)病院採用後発医薬品リストの公表
 ジェネリック医薬品は品目数が非常に多く、医療関係者にとってジェネリック医薬品採用のための情報収集・評価が大きな負担となっています。医療機関や薬局においてジェネリック医薬品を採用する際の参考としていただくことを目的に「採用後発医薬品リスト」及び「採用基準」の公表を行いました。

 県内の 79 病院中、リストの公表にご賛同いただいた 23 病院について、保健医療圏ごとに薬務課ホームページ(http://www.pref.nara.jp/53776.htm)でリスト等を掲載しました。令和2年度も更新を予定しており、新たに提供頂いた病院については、随時掲載していく予定です。

(3)令和2年度の取り組みについて

 奈良県後発医薬品安心使用促進協議会委員を対象としたジェネリック医薬品の製造工場の見学を実施予定です。
 当該協議会は、前述のとおり医療関係団体、消費者団体、保険者等の代表が委員として参加しており、委員のジェネリック医薬品への不安を払拭し、信頼を得ることは重要であると考えています。工場見学を通じて、後発医薬品への理解がより一層深まることを期待します。


輸入商社における原薬の流通の現状と安定供給に対する取り組み

コーア商事株式会社

 医薬品製剤に用いられる輸入原薬の流通や安定供給に対する取り組みの全体像については、前号で”原薬の流通の現状と安定供給に対する日薬貿の取り組み”として一般社団法人 日本薬業貿易協会から紹介されています。本号においては輸入商社の立場から、この課題にどのように取り組んでいるかを紹介します。

1.ジェネリック医薬品製剤に用いられる輸入原薬について
 ジェネリック医薬品製剤に用いられる原薬のうち、輸入原薬の占める比率については、平成24年度に行われた調査検討事業1)では、薬価基準に収載されているジェネリック医薬品の原薬等の調達状況において、輸入原薬を使用しているとの回答が45.8%、輸入中間体,粗製品等を国内で加工した原薬を使用しているとの回答が14.0%(いずれも金額ベース)でした。また検討事業報告(平成30年3月版)2)では、使用原薬の製造所数の59.5%が海外製造所であると回答されています。医療用医薬品製剤の承認申請においては、使用する原薬の製造所情報や製造方法を記載することになっており、原薬の製造方法等の知的財産に関する情報は、任意に原薬等登録原簿(MasterFile:MF)として登録することが出来ます。登録した原薬の情報は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のHPに公示されており、5月31日に公示された情報では、医薬品等原薬は4134品目が登録されており、このうち国内の製造業者が登録しているものが約35%、海外の製造業者が登録しているものが約65%となっており医薬品製剤での使用実態をある程度反映しているものと思われます。いずれにしても、輸入原薬の使用は医療を維持していく上で欠かせないものとなっています。

2.外国製造業者における原薬の管理について
 医薬品はヒトの疾病の治療や予防に用いるものであり,国や人種の壁とは無関係に健康福祉に貢献する役割を負っており,優れた有効性を持つ医薬品はグローバルに流通する性質を持っています。世界の医薬品の市場シェアは欧米が約65~70%を占めており、日本は約8%(2016年)3)となっています。原薬のグローバルビジネスを志向する製造業者は、市場の大きい欧米をターゲットとし、日本市場については品質、価格、供給能力がマッチする場合にビジネスとして参入する傾向があります。医薬品を製造する際には、製造管理及び品質管理の基準(GoodManufacturingPractice:GMP)に従う必要があり、原材料の受け入れから、保管管理、製造加工、製品の保管管理及び出荷に至るまで、品質規格の制定、標準的な操作法の制定及び遵守、製造に関する標準指図、製造中の工程管理、製造設備及び試験設備の計測機器の定期的校正等により、品質劣化、異種混入、異物混入及び人為的ミスをそれぞれ防止するシステムが構築されています。新薬(新有効成分)の承認を円滑に進め、より良い医薬品をより早く患者さんへ届ける目的で1990年から始められた医薬品規制調和国際会議(InternationalCouncilforHarmonisationofTechnicalRequirementsforPharmaceuticalsforHumanUse:ICH)では、原薬を対象としたGMP基準である原薬GMPのガイドライン(ICHQ7)がまとめられ、日本では2001年にガイドラインとして発出されています。また規制当局間の連携を目的とする医薬品査察協定(PIC)/医薬品査察共同スキーム(PICScheme)であるPIC/Sには現在49箇国が加盟しており(表1)、PIC/Sでは原薬については”GuidetoGoodManufacturingPracticeforMedicinalProductsPart2”が適用されますが、基本的にこの基準はICHQ7と共通しています。PIC/SのGMPガイドラインには強制力はないものの、PIC/S加盟国を対象にグローバルビジネスを展開する製造業者は、基本的にPIC/SのGMP(原薬についてはICHQ7)に基づいて製造所の管理を行っています。
 医療用医薬品の製造販売承認においては、承認申請書に記載された製造業者のGMP基準に対する遵守が承認要件となっており、原薬の製造業者に対してもGMP適合性調査が実施され、外国の製造業者に対してはPMDAにより4日間の実地査察または書面による査察が行われます。日本は2014年にPIC/Sに加盟しており、基本的にはPIC/SのGMP(ICHQ7)に基づいての調査となり、適切な構造設備(ハードウェア)及び手順(ソフトウェア)を持つ製造業者が適合の判定を受けることができます。
 また、医療用医薬品の製造販売承認書に記載された、または承認書に引用された原薬の製造方法等についてはPMDAによる厳格な審査が実施され、出発物質の妥当性や変異原性不純物を含めた類縁物質の管理等が適切であるか確認がされ、適切な品質を持つ原薬のみが審査に合格します。
 製造販売承認された原薬については、原料、製造スケール、製造方法、製造設備、試験方法等について変更が発生することがあります。これらの変更はGMPの変更管理の中でその影響が評価され、また変更が製造販売承認書に記載された、または承認書に引用された原薬の製造方法等に影響する場合は、影響の程度により軽微変更届出または一部変更承認申請が必要となります。原薬の製造業者においては、予定する変更がどのような薬事的処理が必要になるかについて、事前に原薬を利用している製造販売業者に連絡しどのような対応が必要となるか検討する薬事機能も求められます。この場合、日本の変更管理のシステムが欧米のシステムとは整合性がないことを把握しておく必要があります。
 このように原薬の製造業者には、原薬を製造するための設備や技術だけでなく、GMPを遂行し遵守するための管理能力や技術的課題を解決するための技術能力、及び輸出する各国の法規制に対応するための薬事能力が必要となります。

3.輸入商社における原薬の管理について
 輸入商社は製造販売業者の要望を的確に捉え必要とされる原薬について、自社のネットワークや国際医薬品開発展(CPhI)等で原薬の製造業者を選択し、候補先のリストアップを行います。新規に選択する製造業者については、規模、製造品目、輸出先等の基本的な情報を集め、継続的なビジネスが可能であるかの評価が欠かせません。候補先の製造業者とは秘密保持契約を結んだ上で、原薬について開発の経緯やスケジュール、製造方法等の基本的な情報を入手し、特許抵触の無いことを確認し、原薬サンプルを入手して物理特性や品質の評価を行います。これらの検討を行ったうえで最も適切な製造業者を選びます。その際に、実地や書面による監査を並行して実施し、原薬を製造するための設備や技術、管理能力、技術能力、薬事能力及び安定供給能力の評価を行います。選択した原薬を製造販売業者に紹介し、製造販売業者で製剤化の検討を進めて貰います。
 海外の製造業者が新規である場合は、業者コードを取得した上で外国製造業者認定が必要となります。外国製造業者認定の申請は外国製造業者自らが行うことも可能ですが、日本語での提出や収入印紙での支払いが必要なため、必要な場合は契約を結んだ上で、輸入商社が認定申請代理人としてPMDAに申請し、提出資料についての照会を受け、外国製造業者から回答を得てPMDAに提出し認定を取得します。認定については、構造設備や責任者等の登録事項に変更が生じた場合は変更届を提出し、また5年毎の更新が必要であることから、スケジュール管理を行い更新の手続きを行います。
 外国製造業者が原薬の製造方法等について原薬等登録原簿(MF)に登録する場合は、国内に居住する原薬等国内管理人(In-CountryCareTaker:ICC)が登録に係わる事務を行う必要があります。外国製造業者の指名により輸入商社がICCを行う場合は、契約を結んだうえで日本の関連するガイドラインを説明し、コモン・テクニカル・ドキュメント(CommonTechnicalDocuments:CTD)を作成して貰い、製造指図書や試験規格等の必要な資料を入手してMF案を作成します。作成したMF案は、製造業者に確認して貰いPMDAに提出し登録します。医療用医薬品製剤の承認申請に登録したMFが引用され、製剤の承認審査が開始されると引用した原薬についてもPMDAによる審査が開始されます。重要工程、一変パラメータ、出発物質、類縁物質の生成と除去、変異原性不純物等について照会が出され、照会事項を製造業者に連絡し期限内に回答を貰い、PMDAに提出します。提出した回答に対して、更に確認のための照会や新たな照会が出され、これらの照会を数度繰返したうえでMF登録事項が確定します。審査終了したMFについて、原料、製造スケール、製造方法、製造設備、試験方法等について変更が発生する場合は、その変更の影響の程度を評価し、その結果に基づいて製造販売業者と協議を行い、必要があればPMDAと簡易相談を行って軽微変更届出または変更登録を行います。
 外国製造業者のGMPの実施状況については、輸入商社が事前に監査を行い問題点があれば計画的に改善を行ってもらい、同時に日本のGMPの紹介やPMDAによるGMP適合性調査の特徴、MFの変更管理の注意点等の教育訓練を実施します。また製造販売業者が外国製造業者のGMPの監査を行う場合は、輸入商社が日程の調整や監査に同行し、指摘事項に対する回答の調整を行います。
 PMDAによるGMP適合性調査は4日間の実地査察または書面による査察が行われ、ICCがPMDAからの照会に基づき資料の手配や実地査察では同行し、指摘事項の外国製造業者への連絡及び回答作成と提出を行い適合の結果を得ます。GMP適合性調査は5年毎に定期調査が行われますので、申請者である製造販売業者や外国製造業者とスケジュール管理を行い必要な手続きを行います。
 医薬品製剤の承認申請に使用された原薬については、承認書に記載された製造所と、関係する業務の範囲、技術的条件、GMPの定期的確認、品質管理の方法、変更の事前連絡、品質に関する情報の連絡等について取決め(GQP取決め)や製造販売業者の要望を反映した品質や包装仕様を含めた原薬の品質仕様を結びますが、輸入商社は外国製造業者と製造販売業者の仲立ちとして締結作業に携わります。
 原薬が市販され流通後には、品質情報に対する外国製造業者への連絡や原因究明、各種変更に関する変更管理の連絡や製造販売業者との協議や在庫調整、ICCである場合はMF登録事項の定期的確認を行います。
 日本のレギュレーションやガイドラインについて変更がある場合は、CPhIや外国製造業者訪問時等にその内容を連絡し、外国製造業者に理解して貰い対応に問題が発生しないように周知することも輸入商社の重要な役割となります。
 医薬品を輸入できるのは製造業者であり、輸入商社が自社で輸入し販売するためには包装、表示又は保管区分の製造業許可が必要であり、製造所を保有しGMP組織や手順を整え、GMP適合性調査を受けます。製造業のGMPとして供給者管理、安定性モニタリング、品質照査等の業務を行います。輸入した原薬については、製造業許可の下で自社又は外部試験機関により医薬品の製造販売承認書に登録した規格及び試験方法により試験を行い、適合した品質のものを出荷します。
 この様に、輸入商社は原薬を輸入し販売するために、外国製造業者や製造販売業者とのコミュニケーションを密にして、認定申請代理人や原薬等国内管理人として機能、外国製造業者のGMPの監査、PMDAによるGMP適合性調査への対応、GQP取決めの締結、品質情報の処理や変更管理、包装、表示又は保管区分の製造業者としての保管や試験検査等の機能を備え、原薬の品質保証を達成しています。

1)平成24年度ジェネリック医薬品の信頼性向上のための評価基準等に関する調査検討事業-報告書-(厚生労働省医政局経済課委託事業)
2)後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業報告書(平成30年3月)、(厚生労働省医政局経済課 委託事業)
3)米国における医療関連市場動向調査(医薬品/医療機器/デジタルヘルス) (2018年3月)、日本貿易振興機構(ジェトロ)より

表 1 PIC/S 加盟国

アイスランド、アイルランド、アルゼンチン、アメリカ、イギリス、イスラエル、イタリア、イラン、インドネシア、ウクライナ、エストニア、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、キプロス、ギリシャ、クロアチア、シンガポール、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、タイ、チェコ、デンマーク、ドイツ、トルコ、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、マレーシア、メキシコ、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルーマニア、韓国、香港、台湾、南アフリカ、日本
 

PDFでご覧になる方はこちら