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月刊JGAニュース

所信表明演説から見えた菅首相の政治スタイル  

株式会社ミクス ミクス編集部 デスク
望月 英梨

 「毎年薬価改定の実現に取り組むとともに、デジタル化による利便性の向上のためオンライン診療の恒久化を推進する」―。10月26日召集の臨時国会の所信表明演説に臨んだ菅義偉首相は、こう強調した(関連記事)。日薬連、製薬協はこの臨時国会に照準を合わせて、毎年薬価改定(薬価中間年改定)の実施阻止に向けた活動の準備を進めていただけに、首相の決意表明の前に出鼻を挫かれた格好だ。新型コロナウイルス感染症が再び感染爆発を起こさない限り、毎年薬価改定の実施は避けられない。今後は毎年薬価改定の対象範囲やルール化に焦点が移る。今後の中医協や開催日の調整に入った流改懇での意見陳述に向け、これまでの主張を修正・肉付けし、与党議員や政策当事者にどう理解を求めるかがカギを握ることになる。
 毎年薬価改定をめぐって、その実施方法が議論となっている。政府部内では、乖離率をベースに議論を進めたい構え。これに対し、財務省主計局は10月8日の財政制度等審議会財政制度分科会で、「形式的な乖離率や品目数のみではなく、乖離額に着目すべき」と主張し、牽制している。乖離率の観点から後発品がターゲットとなるとの見方もある一方で、財源確保の観点からは乖離率に着目するだけでは不十分との声もある。市場実勢価格が高止まりするような、長期収載品にもっとメスを入れる必要性を指摘する声もある。新型コロナの影響もあり、歳出改革の手綱を緩めないことが重視されるなかで、年末に向けて調整が進むことになりそうだ。

 

◎日薬連・製薬協 与党議員への攻勢強める
 こうしたなかで、日本製薬団体連合会(日薬連)や日本製薬工業協会(製薬協)は新たに、「令和3年度予算への要望」を取りまとめ、臨時国会の召集に合わせて与党議員へのロビー活動を開始した(関連記事)。薬価中間年改定については、これまでの主張と同様に、「COVID-19対応により、卸と医療機関・薬局との価格交渉の大幅遅延、医療現場の多大な負担、医薬品業界の医薬品の安定供給への努力を踏まえると、薬価改定は困難な状況にあり慎重な対応をお願いしたい」と訴えている。
 ただ、薬価調査の実施時期である9月を過ぎ、多くの医療機関、薬局が例年通り妥結に至った現在も、製薬業界の主張する「価格交渉の大幅遅延」に首を傾げる流通当事者も少なくない。一方で、新型コロナ患者を受け入れた医療機関の経営状況が悪化し、収入減に伴って医薬品購入原資が目減りしているなど、購入者側のバイイングパワーが例年以上に厳しくなっている。厚労省の「医療用医薬品の流通の改善に関する懇談会」(流改懇)も関係者間で日程調整がすでに始まっており、早ければ11月中にも開催される見通しだ。ただ、東京地検特捜部と公正取引委員会が談合疑惑で、医薬品大手4社を家宅捜索しており、流通改善に向けた議論の先行きは不透明感も漂っている。

 

◎日米欧・製薬団体それぞれの主張に温度差が
 一方で、欧米系製薬団体も毎年薬価改定については独自の主張を展開し始めている。米国研究製薬工業協会(PhRMA)のジョバンニ・カフォリオ会長(ブリストル・マイヤーズスクイブ取締役会会長兼CEO)は10月9日のオンライン会見で、毎年薬価改定の対象範囲について、「特許切れ医薬品については支持するが、節約コストはイノベーションに再投資すべきだ」と述べた。暗に薬価中間年改定の対象から革新的新薬を除外することを政府に求めたものだ。
 これに対して長期収載品比率の高い内資系企業にとっては経営上の死活問題と捉えられており、毎年薬価改定の対象範囲をできる限り絞り込むことにロビー活動の軸足を置いている。製薬業界の主張も、それぞれの立ち位置により一枚岩とは言い難い。中間年改定の対象範囲とされる「価格乖離の大きな品目」が何になるのか。新型コロナの影響から、薬価と市場実勢価格の乖離が例年以上に開いているとの声も聞かれるなかで、財政当局、製薬業界、医療関係団体それぞれの思惑が交錯し始めている。毎年薬価改定の議論は年末に向けて一気に佳境を迎える。

 

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