薬のうごきを「みえる化」する一目で伝わるADME図鑑 本図鑑の特徴と狙い及びジェネリック医薬品との関係性
髙村 徳人
この度は、拙著『薬のうごきを「みえる化」する一目で伝わる「ADME」図鑑(南山堂)』の紹介の機会を与えて頂き有難い限りである。それでは、早速始めたいと思う。一応、図1に装丁の全てを載せておく(向かって右側から表紙、背表紙、裏表紙のイラスト等)。なぜならば、裏表紙のイラストについても後に触れているためである。
本図鑑は薬剤師以外のすべての人々(患者、医師や看護師やそれ以外の医療スタッフ、薬学の知識を持たない一般人)に薬剤師の根本学問である“薬のADME”を分かりやすく伝えるためのものである。薬のADMEとは、吸収(Absorption)・分布(Distribution)・代謝(Metabolism)・排泄(Excretion)のことであり、それらの英語の頭文字を並べると薬学用語でADME(アドメ)となる。つまりADMEは薬の一生を表す言葉で、薬剤師のど真ん中の学問でもある。
ここからは本図鑑の魅力について述べることにする。
本図鑑は薬のADMEを解説した内容となっているが、薬剤師が悪戦苦闘して理解する本ではない。そう、薬剤師向けのADMEの本といえば、薬物動態を理解させるという厄介な本ばかりである。難解な数学的な式がてんこ盛りで、それを見ただけでアレルギーが出る先生も少なくないはずである。いや、アナフィラキシーショックを起こす先生方もおられるに違いない(笑)。ちなみに筆者もそうである。本図鑑はその手の本とは無縁である。
本図鑑の特徴は、既に先生方の頭に収納されているADMEを、イメージとして薬剤師以外のすべての人々に伝えていく本なのである。なぜイメージなのかというと、そもそも薬は手元にあれば錠剤、散剤、注射剤、貼付剤というように形あるものとして存在し認識することができるが、薬が体内に入った途端、まったく見えなくなってしまう。だから見えないものはイメージで伝える以外に方法はないのである。本図鑑はまさに薬剤師以外のすべての人々に体内に入った薬を薬剤師と同じイメージで分かりやすく伝えようというものなのだ。患者はつらさをこらえて医療機関に足を運んで来るのに、そこで、さらにイメージしたこともない見えない薬について口頭で詳しく説明されては、つらさは増すばかりである。本図鑑では、愛嬌のある人形の絵にADMEのイメージを示すアイコンが分かりやすく配置されているため、患者は楽しく癒されながら薬の説明を聴くことになるのである。
実は今回、本図鑑の作成と並行してADME人形(パペット)も作製している。この人形を手にはめて患者に薬のADMEを説明すると効果は絶大である。既に、公開講座で市民向けにADME人形の講演を行ってきたが大好評であった(参加者はほとんど高齢者である)。その時、彼らにADME人形も実演してもらったが、喜んでやってくれた。これを見て脳裏に次のことが浮かんだ。在宅で、薬剤師が人形で説明した後、患者にも人形で説明してもらったら、さらに、理解を深めてもらえるに違いない。この人形は笑いをもたらすので、認知症予防にも効果を発揮できるかもしれない。
ここで、図2にADME人形の実物を示し、一応説明もしておく。肝臓が正常な場合と肝障害(肝硬変など)の場合の違いを左右に示している。よって、左の代謝能は良好で2回転となっており、右の代謝能は低下し1回転となっている。その結果、左の血中濃度は有効域を推移するが、右の血中濃度は上昇し危険域を推移することになる(効き過ぎや副作用を生じる可能性が高い)。また、左は肝臓が良好なのでアルブミン濃度は正常であり、右は肝障害なのでアルブミン濃度は低下している。それにより右に浮腫を生じている。人形は使う薬剤師の個性が宿るため図鑑とは違う趣がある。
人形の話はこれくらいにして、本図鑑の使い方についてさらに話を進めよう。例えば患者が薬局のカウンターに訪れたとしよう。どうするかというと、本図鑑を患者に見せて薬のADMEを説明するだけでよい。在宅でも同様に説明してほしい。ドラッグストアーに薬局が併設されている場合では、お客に対してもADMEを説明してほしい。もちろん、医師や看護師などの医療スタッフにもADMEを説明してほしい(筆者も病院の研修会で医療スタッフに対し薬のADMEを人形で説明している)。時間がなければ、薬のADMEの中のA(吸収)だけで良いので、薬の吸収の違いと血中濃度の関係だけでも説明してほしい。そうすることで、「薬剤師は見えない薬のADMEを見極めて薬物治療に貢献する職業である」ということを薬剤師以外のすべての人々に認識してもらえるようになるのである。薬剤師が一致団結して数年後の流行語大賞を「ADME(アドメ)」あるいは「アドメ人形」で獲得してみせようではないか。そして、ADMEを薬剤師以外のすべての人々の脳に刻み込んでしまおうではないか。これが、薬剤師の闘いと言っても過言ではない。
しかし、本図鑑の狙いはそれだけに止まらない。ADME人形を作ったもう一つの狙いが語られている。つまりワクワク度をマックスにさせるその真相(筆者の薬剤師としての夢、いや使命)が語られているのだ(ヒントは表紙の人形イラストの右手の上に描かれている)。それは皆様が本図鑑を手にしてのお楽しみということにしよう!
ジェネリック医薬品と本図鑑との関係や類似点を探ってみることにしよう。ジェネリック医薬品は服用性や調剤性を工夫した製剤つまり付加価値の有る製剤へと変えることができる。服用のし易さを例に挙げると、1)錠剤の大きさを小さくすること、2)錠剤をゼリーや液体や崩壊錠にすること等である(ここで、図3-1を見て欲しい。ADME人形の口の部分に2種類の薬剤が貼ってある。左は先発品の大きい錠剤で、右はジェネリックの液体ステック剤を表している。この説明は、先発品が大きい錠剤で飲みにくかったものをジェネリックが液体のステック剤になったことで服用しやすくなっている。剤形は変わったものの吸収性は同じで、血中濃度も同じである。つまり効き目も変わらない。ジェネリックは安全で安心なのだ。錠剤を小さくした場合については図3-2に示しておく)。実は本図鑑のPart1の「1薬の剤形と投与経路」の“参考”で剤形の変更の重要性を述べている。筆者自身、大学病院薬剤部時代にジェネリックの製薬会社から剤形改善についての意見を求められることがしばしばあった。そのつながりもあり、なんと十数年後に、学会でのランチョンセミナーの講師を依頼され、ADME人形を持って鹿児島の日本薬剤師会学術大会に参加したことで、本図鑑は誕生している。“どうしてもこの秘話の全貌を知りたい”と思われた方々は本図鑑の最後にその続きを述べているので、本屋で立ち読みして頂きたい。また、ジェネリック医薬品の個装箱にも工夫がある。それは“ラベルを切り取り、そのまま薬棚のネームプレートに利用可能(GSIコード、製造番号、使用期限などの情報も含む)”となっている。本図鑑のp94頁にADME人形を用いた服薬指導に欠かせない「首掛け式のアドメくん・アドメちゃん(手作り)」というアイテムが登場する。本物が付録でついているわけではないので、欲しいと思われた皆様には申し訳ない。しかし、そのアドメくん・アドメちゃんの図を写真やスキャナーで撮って印刷し、ネームプレートに入れてもらえば対応できる。ただし、本図鑑を直接切り取るのはご遠慮頂きたい(笑)。何故、裏表紙のADME人形は逆さまになっているのだろうか?疑問に思われたのではなかろうか。これは、ADME人形が無くても、裏表紙の人形イラストの頭を上にして、今から説明する人形がここにあるという雰囲気を出し、「この人形で説明しますね」と言って、そのまま相手側に倒して、本図鑑の内容を見せると、すんなり患者目線で説明できるように工夫されている。
ジェネリック医薬品には、先発品にない様々な知恵と工夫が詰まっている。これはまさにジェネリック医薬品を手掛けた挑戦者たちの努力の結晶である。本図鑑を改定する際には、彼らに深く共感し、さらに知恵と工夫を凝らした新たな図鑑に仕上げたいと強く思う。
私は、2021年の東京オリンピック・東京パラリンピックまでに“ADME図鑑”と共に“ADME人形”を全国に広めたいと思っている。そして、来日された世界中の方々に「日本の薬局は本図鑑やADME人形で薬学をベースに分かりやすい服薬指導をしてくれる素晴らしい国だ!」と感動してもらおう(勿論ドーピングの説明もできる)。そうなれば、ADME人形は東京オリンピック・東京パラリンピックの偉大なるレガシー(遺産)となるに違いない。
ご支援・ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。