プライマリ・ケア
プライマリ・ケア(primary care)は簡単にいうと、“身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療”となりますが、その定義や意味合いは幅広く、用いられる場面や状況によって若干ニュアンスが異なる場合があります。
簡潔にすべてを包含できる解釈は難しいのですが、そのひとつに1996年の米国国立科学アカデミー(NationalAcademyofSciences,NAS)が定義したものがあり、その中では、『primarycareとは、患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである』と説明されています。すなわちプライマリ・ケアとは、国民のあらゆる健康上の問題、疾病に対し、総合的・継続的、そして全人的に対応する地域の保健医療福祉機能と考えられ、地域医療を担う重要な役割を持つものといえます。
プライマリ・ケアの特徴を表す5つの理念について表1に示します。
「近接性」は“かかりやすさ”を追求した最も重要な特徴のひとつで、地理的・経済的・時間的・精神的の4つの面があげられます。
「包括性」は“すべての訴えや問題にも対応する”ことですが、日常的な問題について、性別や年齢、臓器にとらわれることなく診療を行うことであり、また、疾病の生じる前の段階に予防的な取り組みを行うことも大きな役割のひとつだといえます。一方、認知症や後遺症など日常的な障害がある場合も、リハビリテーションや生活援助など、よりよく生活するための介入を行い、疾病や障害と上手く付き合っていくことも重要な視点であると思われます。
とは言え、地域の中でそれぞれの医師が個別に実践することには限界がありますが、ネットワークを広げることで幅広い視点からニーズに応えていくことが求められます。
「協調性」は“チーム医療を展開すること”にはじまり、“他の医療機関と連携したり社会資源を適宜バランスよく用いること”や、“地域住民と協力して健康問題に取り組んでいくこと”など、幅広い概念を含んだものだといえます。
医療者としての「責任性」はプライマリ・ケアに限ったことではありませんが、“充分な説明の中で受療者との意思疎通を行うこと”や、“医療内容の質の維持、見直し”はもちろんのこと、“プライマリ・ケアに関わる医療者の生涯教育や、今後、プライマリ・ケアの現場に出る医療者の後進育成”についても責任をもって実践していくことが今後もより一層求められているといえます。
このような視点に立ち、医療、福祉、介護、保健を提供し続けていくこと(「継続性」)が、プライマリ・ケアの根幹をなす部分です。1)
日本では、2025年には団塊の世代が75歳を迎え、さらに医療・介護ニーズが高まると予想されます。高齢化に伴う疾患構造の変化等に対応し、生活全般に寄り添いながら、患者・家族とともにきめ細かな保健医療サービスを提供するとともに、地域における予防を含めた健康水準を向上していくことが、今後一層必要となり、患者・住民との強固な信頼関係のもと、患者の複数疾患の状況や生活環境、価値観等を理解したうえで、総合的な適切な診断・処方や、専門医療への紹介、疾病予防等を行う「プライマリ・ケア」を保健医療の基盤として確立し、そのための提供体制を構築すべきであると考えられています。2)
また、「経済財政運営と改革の基本方針2019(いわゆる骨太の方針2019)」には、医療・介護制度改革の項へ『診療能力向上のための卒前・卒後の一貫した医師養成課程を整備するとともに、改正医師法に基づき、総合診療専門研修を受けた専攻医の確保数について議論しつつ、総合診療医の養成を促進するなどプライマリ・ケアへの対応を強化する』との内容が盛り込まれ、「経済財政運営と改革の基本方針2020(いわゆる骨太の方針2020)」においても引き続き着実に実施することとなっていることから3)4)、急激な少子高齢化や医療技術の進歩など医療を取り巻く環境が大きく変化する中、人々の身近な立場で健康をサポートする「プライマリ・ケア」は、今後、ますます重要な役割を担っていくと思われます。
【参考資料】
1) 一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
プライマリ・ケアとは(医療者向け)https://www.primary-care.or.jp/paramedic/index.html
プライマリ・ケアとは(一般の方向け)https://www.primary-care.or.jp/public/
2)第51回社会保障審議会医療保険部会(平成29年4月20日)
資料2:新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000162895.pdf
3)経済財政運営と改革の基本方針2019 令和元年6月21日閣議決定
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2019/decision0621.html
4)経済財政運営と改革の基本方針2020 令和2年7月17日閣議決定
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/decision0717.html