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カギ握る医薬品卸機能の評価

株式会社ミクス
ミクス編集部デスク 望月 英梨

 2022年度薬価制度改革の議論が本格的にスタートした。2022年度は、団塊世代が後期高齢者に入ることにより社会構造や社会システムが大きな転換点を迎える。後期高齢者になると一人当たり医療費が現役世代に比べて急増する。これまでの医療保険制度をめぐる議論において高齢化の進展は、現役世代と高齢者の負担の不均衡を生むと指摘されてきた。その意味で、22年度改定はこれまで以上に、日本の社会保障制度を占う上での重要な議論が行われると想定している。

 2019年10月に消費増税が引き上げられ、国民の痛みを伴う“負担”の議論が先行した。消費税増税は財政規律が緩むと指摘する声も多い。財務省も心得たもので、20年4月の通常改定と21年4月の毎年薬価改定で財政規律の楔を打った。5月に発表された国内大手製薬企業の21年度決算をみる限り、国内医療用医薬品市場の伸びが抑制され、海外の売上収益の確保で成功した企業とそうでない企業との間に、ある種の企業間格差を目の当りにする結果となった。
 財務省の財政制度等審議会が5月21日に麻生財務相に提出した建議は、新型コロナで一時的に緩んだ財政規律を再び引き締める施策を刻みこんでいる。特に、歳出の伸びの抑制については、22年度からの3年間を「歳出改革の継続期間」と位置づけている。25年度に迫る高齢化のピークを控え、給付と負担の議論にメスを入れる姿勢を一切崩さず、加えて、社会保障費の伸びの抑制も、「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」と早くも22年度改定の議論を牽制するメッセージを刻み込んでいる。薬価制度も同様で、2016年度薬価制度抜本改革で示した方針を、22年度以降も堅持する方針を明確に打ち出している。
 ただ、一つこれまでとの違いを言えば、政府の掲げるデジタル化社会の実現やDXに伴う社会構造の変化を、これからの財政規律の考え方にどう絡ませるかついては、財務省内でも議論のあるところだろう。

◎関心を持つべきは医薬品流通のコストをめぐる問題

 こうしたなか一足早く22年度薬価・診療報酬制改定の議論が中医協を舞台にスタートした。次回改定のメニューは数多いが、製薬業界として関心を持って注目すべきは医薬品流通のコストをめぐる問題だろう。
 「医薬品卸が果たしている役割や機能について適正な評価を行い、医薬品を安全かつ安定的に流通させるためのコストについて、どのようなルールで負担すべきなのかを検討し、今後の医薬品流通、ひいては医薬品の安定供給に支障が生じないようにしていただきたい」―。卸連の渡辺秀一会長(メディパルホールディングス)は5月12日の中医協総会で意見陳述に臨み、こう訴えた。
 流通当事者である医薬品卸の機能には、①医薬品の安全確保と安定供給、②国家安全保障上の有事の際の供給、③社会維持のための医薬品の需給調整―がある。昨年来頻発している後発品の自主回収問題で、地域の診療所、中小病院、基幹病院、そして保険薬局を訪問し、頭を下げているのは医薬品卸のMSだ。卸にとっては代替品の情報提供や納品手続きなどで追加的なコストも発生しているという。まして競合卸に帳合を奪われるケースも散発しており、結果的に卸間の価格競争に発展するケースもある。
 アルフレッサホールディングスの荒川隆治社長は20年度業績会見の席上、自主回収関係の収益以上に追加的なコストを要していると危機感を表明した。加えて新型コロナワクチンの配送などで追加的経費も増えており、ここにきて卸機能についても平時と異なる対応が求められているという。
 医薬品卸格差の20年度決算はこれまで以上に厳しいと、各社の経営幹部は口を揃える。
 「仕切価上昇、それに伴うリベート、アローアンスから仕切価に置き換えるというなかで、結果的に最終原価が上昇した。医薬品卸そのものの公正な競争が激化した」ことが影響した。これからの卸機能を論ずる上で、「調整幅」の議論は避けて通れない。
 「価格交渉、薬価調査、薬価制度の在り方、未妥結減算制度の在り方を見直す時期ではないか」―。22年度改定の議論が注目される。


中医協・薬価専門部会関係業界からの意見聴取行われる

 厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会が 5 月 12 日に開催され、令和 4年度薬価制度改革に対する関係業界からの意見聴取が行われた。
 今回は日本製薬団体連合会(日薬連)など 6 団体が意見陳述を行い、日薬連の意見陳述は、日薬連の手代木功会長、製薬協の中山譲治会長、当協会の澤井光郎会長がリレー方式で行った。
 澤井会長は、冒頭に、昨今の後発医薬品企業の品質問題に端を発した不適正事案について医療関係者へお詫びするとともに、協会として「品質確保への取組み」「コンプライアンス・ガバナンス体制の強化」「安定確保や情報発信への取組み」を一層徹底することで、後発医薬品の信頼回復に努めていく決意を述べた。その上で、後発医薬品の薬価制度について、「厳格な製造管理・品質管理のもとに製造された後発医薬品が、継続して上市でき、安定確保が持続可能となる薬価制度が必要」と強く訴えた。
 意見陳述後の質疑では、4 名の委員からの質問があった。
 診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)より「品目数が多いことによる過当競争が今回の問題に繋がっているのではないか?」との質問があり、澤井会長は「品目数の問題ではなく、根底にコンプライアンスの欠如、ガバナンスの機能不全があった」との見解を示した。
 有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)より「今後の後発医薬品の安定供給や信頼回復について、どのような対応を行っていくのか?」との質問があり、澤井会長は「製造販売承認書と実態の齟齬のチェック等について、責任をもって実行していく」、また、「一日でも早く市場の混乱を解消すべく、各社増産体制に取り組んでいる」と回答した。
 支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)より「日本ジェネリック製薬協会がおかれている現状の中で、改善していく制度上の問題や課題、さらに、新規収載品で供給問題を起こした場合の課題等、今後解決していくためどのような認識を持っているのか?」との質問があり、澤井会長は「新規収載品の供給については、しっかりと安定供給体制を整えた上で販売に踏み切ることが企業の責務である。」との考えを示し、後発医薬品の薬価制度上の課題については「初収載品の薬価については、現在の水準を維持すべき」「既収載品薬価については、中間年改定が実施され安定供給が求められている中で、銘柄別の市場実勢価格が適切に反映される制度とすべき」との見解を示した。
 幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)より「今回のGMP違反の原因の一つが薬価制度にあると考えているのであれば、どのような制度とすべきか?」との質問があったが、会議時間を大幅に超過していたため、その回答については別途機会を設けることとされた。
 今後、12 月にかけて引き続き議論が行われ、年内には令和 4 年度薬価制度の骨子が固まる見込みである。


「第4回革新的医薬品創出のための官民対話」について

 革新的医薬品創出のための官民対話は、我が国における医薬品産業がさらに成長していくため、産業界と行政のトップとアカデミアが政策対話の場を持つことにより、産業界を巡る現状や課題を共有することを目的として年 1 回程度非公開で開催されています。
 今回(第 4 回)は、昨今の医薬品企業を取巻く環境変化を受けて、夏頃に公開予定の「医薬品産業ビジョン 2021」の策定を見据えたものとなっております。まさに、我が国の医薬品産業(製造販売事業者、卸売事業者その他の関係者)がどのような方向を目指していくべきかについての政府としての考え方を示す目的があり、通常は新薬系団体が参加していましたが、初めて日本ジェネリック製薬協会も参加し、5 月 17 日に開催されました。
 会議では、各参加団体は行政に対して要望を表明することができます。当協会の澤井会長からは、冒頭、ジェネリック医薬品の品質問題に端を発した不適正事案について、「お詫び」と「今後の取組みについての決意」を述べていただき、その上で「医薬品産業政策の在り方について」特にジェネリック医薬品の今後の取組について次の 3 つの要望を訴えさせて頂きました。①製造管理・品質管理等に対する信頼性の確保と安心の回復②安定確保が持続可能となる薬価制度と流通の仕組みの構築③「第三期医療費適正化計画終了」までに地域の使用のバラツキを解消する。
 行政からは、厚生労働大臣、厚生労働副大臣、厚生労働大臣政務官 他、医薬品業界からは、日本製薬団体連合会会長、日本製薬工業協会会長、日本ジェネリック製薬協会会長、日本医薬品卸売業連合会会長 他、研究機関からは、国立がん研究センター理事長 他が出席され、医薬品に関わる課題が関係者で共有されました。これらは現在厚生労働省医政局経済課を中心に検討が進められている「医薬品産業ビジョン 2021」に生かされます。

なお、官民対話の配布資料等は、厚生労働省ホームページに掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_484683.html

 

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