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月刊JGAニュース

「骨太の方針2021」について  

正確な数量シェアを出せるように

株式会社 じほう 報道局日刊薬業編集部
大塚 達也

 ジェネリック医薬品の新目標に関する「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)は、原案で示された「数量シェアを、2023年度末までに全ての都道府県で80%以上」に「品質及び安定供給の信頼性の確保を柱とし、官民一体で、製造管理体制強化や製造所への監督の厳格化、市場流通品の品質確認検査などの取組を進める」ことが加えられ、決着した。

 ジェネリック医薬品業界、少なくとも日本ジェネリック製薬協会は昨年から相次いだ業界内の不祥事を受けて、信頼回復に向けた取り組みを最優先事項としている。会員全社の総括製造販売責任者が参加する会議を開催したり、各社の製造実態を把握するための調査を実施したり、各社に承認書通りの製造を行っているか確認するよう呼び掛けるなど、今は足元の立て直しを図っている最中だ。

 そのような状態で使用促進の数値目標が設定されることについては、自民党の厚生労働部会などで「性急すぎる」といった危惧が複数の議員から指摘され、最終的には信頼性確保を前提とする修文がなされた。

 全体を見渡せば、信頼性確保に向けて官民一体で取り組むこと、使用促進に向けて医療機関別の使用割合を含む実施状況の見える化を実施すること、などブレーキ、アクセル両面でポイントはあるだろうが、そもそも取り組むべきは正確な数量シェアを出せるようにすることではないだろうか。

 17年の骨太で「20年9月までに数量シェア80%」の目標が示された中、20年9月の薬価調査で算出された実績は78.3%にとどまり、達成はならなかった。ただ、この78.3%にはGMPを逸脱した方法で製造された医薬品が内包されており、正しい製法で作られた「本当の医薬品」を集計したら数値はそれよりもさらに下だったということになる。

 極端な話をすれば、ジェネリック医薬品を製造している全社があらためて全製品の製造工程の見直しを行い、すべての製品が承認書と相違なく製造されていることを確認し終わらなければ、正確な置き換え率の数字自体が世に出ない。今後は薬価調査ではなくナショナルデータベースのデータを用いてシェアを見ていくことになるが、どちらにしても現在の状態で数字の話をすることが適正なのかは疑問が残る。

 とはいえ、ジェネリック医薬品の使用割合の増加が社会保障費抑制につながることは疑いようのない事実で、品質や安定供給の確保という当たり前すぎる条件が前提として強調されたことも重いメッセージと言える。森鴎外「最後の一句」でいちが言った「お上の事には間違いはございますまいから」ではないが、方針が決まったからには、結果的に良い方向に物事が進むと信じて、目の前の課題解決に粛々と取り組んでいくしかないだろう。全都道府県で80%という目標についてハードルが高いと見るか低いと見るかは難しいところだが、少なくとも地道な安定供給の延長線上にさらなるジェネリック医薬品の普及があることは間違いない。


オピニオン シェア80%は維持できるか

株式会社 薬事ニュース社 編集部
野口 一彦

 「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針2021)の原案が示され、社会保障改革のテーマでは、後発医薬品のさらなる使用促進に向けた新たな政府目標として「23年度末までに数量シェアを全ての都道府県で80%以上」が示された。少し物足りなさを感じるものの、今のジェネリック医薬品業界の状態を見れば、妥当なところという気もしている。とても数量シェア90%を目指すなどという目標は掲げられないだろう。

 もしかすると、80%を維持していくことも困難かもしれない。やはり小林化工に端を発した品質問題は大きい。日医工も自主回収が続いているし、他の企業においても自主回収が相次いでいる。この品質問題をクリアすることが、業界としては喫緊の課題なのだが、自主点検と内部告発に頼るところが大きく、どれほどの効果が認められるかは不明である。やはり、当局による抜き打ち検査を増やしていくことが重要となってくるだろう。

 また、品質問題が表出する以前からも、ジェネリック医薬品を使用しないという医師も一定数いる。取材のなかでジェネリック医薬品の使用について聞いてみると、使用しないと答える医師もちょくちょくいるのだ。なかには、オピニオンリーダー的な存在の医師も見られる。理由としては、昔のイメージを引きずっている医師もいるにはいるが、使用経験から先発品に戻したという意見も聞く。さらに患者側から先発品を希望するケースもあり、これらを取り崩していくのは困難であろう。

 それともう一つ、薬価制度の問題がある。ジェネリック医薬品と長期収載品は、最終的に同じ薬価になる。長期収載品を主に取り扱う企業のなかには、これをビジネスチャンスと捉えるところもあるのだ。同じ薬価になれば、ジェネリック医薬品の最大のメリットがなくなるとともに、もともと先発品メーカーがプロモーションを行っていたという強みもあるため、長期収載品が選ばれるようになるというわけだ。自主回収が相次ぐ今の状況が長引けば、長期収載品を選ぶ医療機関や患者が増えることは容易に想像できる。右肩上がりで成長してきたジェネリックだが、これからは80%の維持にも試練が待っているのかもしれない。


簡単ではない、量から質への転換

薬事日報編集局 村嶋 哲

 「骨太方針2021」では全般的に感染症対応に力点が置かれ、パンデミックという有事対応、将来の成長に向けた構造改革をどう進めていくかが示された。医薬品関係では、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、医療政策だけではなく産業政策も同時に推進していくことや、コロナ後を見据え、有事が起こった際にはワクチンや医薬品を供給できるよう平時から必要な準備を進めていく方向性はなんとなく読み取れた。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって起こった問題を教訓とし、新たな仕組みを導入する必要性に言及している。ワクチンの安定確保はその一つ。政府は骨太方針の策定に先立って新興感染症に対する国産ワクチンに必要な施策をまとめた「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定した。国家戦略としてワクチン開発を後押しし、供給していくと宣言したものだが、骨太方針でも「着実に推進し、そのために必要な財源を安定的に確保する」と盛り込んだ。

 緊急時の薬事承認の在り方についても検討を行うことが示された。医薬品の供給体制についてもサプライチェーンの実態を把握し、平時からの備えと非常時の買い上げの導入など緊急時の医薬品等の安定供給等の確立を図るとされた。

 一方、後発品については「後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性の確保、新目標についての検証、保険者の適正化の取組にも資する医療機関等の別の使用割合を含む実施状況の見える化を早期に実施し」と記載された。また、新目標との関係を踏まえた後発医薬品調剤体制加算等の見直し、フォーミュラリの活用など、さらなる使用促進を図るとされた。

 さらりと書かれてあるが、後発品業界は後発品メーカーによる不祥事でコロナの問題とは別の意味で有事といえる状況に直面し、将来の成長に向けた構造改革が問われている。

 例えば、「骨太方針2019」では「後発医薬品の使用促進について、安定供給や品質の更なる信頼性確保を図りつつ、2020年9月までの後発医薬品使用割合80%の実現に向け、インセンティブ強化も含めて引き続き取り組む」と書かれてあった。これまでの骨太方針では後発品に関する記載について使用促進を図ることが強調されていたはずなのに、今回は「品質及び安定供給の信頼性の確保」というフレーズから始まっていることが物語っている。

 成長ステージから成熟ステージへと駆け上がった後発品業界だが、厚労省は製造販売業者の要件を厳格化する方向性を示している。今後の骨太方針では後発品の業界再編を行う必要性まで言及があるかも知れない。ポスト80%時代の業界将来像には不透明感が残っている。


「骨太の方針」を「父の日」に思う

医薬経済社 坂口 直

 日本生命が6月15日に発表した「父の日」に関するアンケート調査が興味深い。妻・母・子の立場で、「夫・父が家事・育児を積極的に行っている(行うようになった)」と回答した人のうち76.5%が父の日にプレゼントを「贈る」と回答した一方で、「行っていない(消極的になった)」と回答した人で「贈る」と回答したのは49.7%にとどまった。日頃の行いが如実に表れたものであり、日々の積み重ねがいかに大切か思い知らされる。

 家族でさえ一朝一夕とはいかない信頼関係の構築は、他人であればなおさら容易にいかない。ましてや一度不信感を抱かれてしまえば至難の業だ。品質問題によって小林化工、日医工と業務停止命令が下され、後を追うかのように長生堂製薬でも不適切事案が判明した。ジェネリック医薬品に対する国民の不信感はそう簡単には拭えないものとなり、6月18日に閣議決定された政府の「骨太の方針2021」には、ジェネリック医薬品を名指しで「品質及び安定供給の信頼性確保」の文言が明記されてしまった。

 人の生命に直結する「医薬品」を扱う製薬会社にとっては、かなり手厳しい沙汰だ。過去に「ゾロ」と蔑まれ、辛酸を嘗めてきた各社にとってイメージの大切さは身に染みてわかっているはずだ。政府のジェネリック医薬品使用促進策の追い風を受け、業界全体が急成長を遂げた裏側には、テレビCMや新聞広告、あるいは市民公開講座などの地道な普及活動があった。そんな数十年にもわたる努力が、ここ1年で水の泡になりかねない状況だ。

 立て続けに生じた不祥事のため、業界全体の問題と見られている向きもある。しかし、加藤勝信官房長官は6月4日午後の定例会見で、各社の不祥事に対する「政府の責任をどう考えるのか」とした問いに、「個々の企業でそうしたこと(不祥事)が起きていることは、切り分けて考えるべき」と回答。田村憲久厚生労働相も6月1日の国会答弁で、品質問題は「例外的には出てきている」との認識を示している。現在、日本ジェネリック製薬協会の主導のもと、会員会社がそれぞれ品質管理などの自主点検を進めているが、白黒はっきりさせる良い機会だ。ぜひ胸を張って品質の高さを示してほしい。

 骨太の方針では「23年度末までに後発医薬品の数量シェアを、全ての都道府県で80%以上」とする新目標を打ち出している。ちなみに冒頭のアンケート調査では、父の日にプレゼントを「贈る」と回答した人は64.0%で、都道府県別ではジェネリック医薬品と同様、沖縄県が89.2%とトップだったが、80.0%以上は沖縄のほか、鹿児島、島根、愛媛、山口の計5県止まりだった。いずれにしても両者とも今後の行動次第で上にも下にも振れる。


ジェネリック抜きにした医療制度改革はあり得ない

アズクルー 月刊ジェネリック編集部
賀勢 順司

 6月18日に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2021」が閣議決定された。新型コロナ問題を前提とした新方針だけに、これまでの“骨太”以上に医療制度、医療・医薬産業への言及が多い。ジェネリック医薬品に関しては「社会保障改革/感染症を機に進める新たな仕組みの構築」の中で「後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性の確保、新目標についての検証、保険者の適正化の取組にも資する医療機関等の別の使用割合を含む実施状況の見える化を早期に実施し、バイオシミラーの医療費適正化効果を踏まえた目標設定の検討、新目標との関係を踏まえた後発医薬品調剤体制加算等の見直しの検討、フォーミュラリの活用等、更なる使用促進を図る」とある。具体的な使用新目標については「2023年度末までに全ての都道府県で80%以上」と記されている。

 今回の新型コロナウイルス感染症パンデミックによって明らかとなったのは、日本の医療・医薬体制が緊急時、想像以上に脆弱であった事である。病床数が世界的に高いレベルにありながら、欧米に比べ桁違いに少ない患者を充分にはフォロー出来なかった。また国産ワクチン開発が遅れ海外発のワクチン輸入に頼ったことや、治療薬についても目を見張るような貢献がないことも残念な点だ。この様な問題に対して国は、診療報酬、補助金・交付金、薬価といった制度の変革に踏み込む必要があると考えている。その意味ではジェネリック医薬品、バイオシミラーの更なる普及が経済的な下支えになると判断している様だ。一方で昨年から今年にかけて次々と表面化したジェネリックメーカーによるGMP違反と繰り返される製品の自主回収は、ジェネリック医薬品市場拡大に水を差しかねない。今夏に策定が予定されている厚労省の新たな「医薬品産業ビジョン」は、品質確保と安定供給が強く求められる内容となるだろう。また、骨太の方針決定後に行われた厚労省経済課長の学会講演では、「少なくとも医療機関には、製造販売企業がジェネリック医薬品の共同開発企業・原薬企業・委託製造企業名を情報提供するべき」という指摘があった。今後、「我が社は高品質・安定供給を続けている」というキャッチフレーズ先行型の自慢ではなく、明確な根拠を示した高品質・安定供給を供給市場に訴える必要があるだろう。

 今、ジェネリックメーカーがどの様な行動を取るのかが注目されていると同時に、ジェネリック業界がチームとしてどう動くのかが問われている。「現代の医薬品製造企業として、あのような社内体制は考えられない」と違反企業を指弾するのは理解出来なくもない。しかし自社が遡って改正薬事法をいつクリアしたのか思い返せば、心穏やかなジェネリックメーカーはないのではないか。同じ苦労を超えてきた製薬企業として、共同してトラブルを回避する方策が見出せないだろうか。行政の監視強化を待つのではなく、「同等で安価な製品」を共に製造する分野として自主的な対応が可能な業界だと思う。GE薬協にも製薬協とは全く異なる製造者団体としての思想と歩みを期待したい。

 

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