後発品80%時代の安定供給は国民との約束 医薬品産業ビジョンから考える業界の姿
厚生労働省の「医薬品産業ビジョン2021」の柱には「革新的創薬、後発医薬品、医薬品流通」が据えられている。昨年末から様々な問題を提起しているジェネリックもその一角を占める。高齢化が進み、医療費の効率化が重視されるなかで、ジェネリック医薬品への期待は高い。ただその一方で、日医工や小林化工に課せられた行政処分、相次ぐ自主回収、それに端を発した供給不安など、医療従事者や国民からの信頼を失墜している状況にある。今回のビジョンでも、長年問われ続けてきた「品質確保と安定供給」の重要性を改めて問うとともに、医薬品の製造販売事業者としての在り方を示す方針だ。
「ジェネリック業界も生き残りをかけた転換期を迎えることになる」―。沢井製薬の澤井光郎代表取締役会長は同社の決算会見でこう語った。ジェネリックを取り巻く環境は転換点を迎えている。一つが、大型品の特許切れが相次ぐなかで、低分子医薬品を中心としたジェネリックマーケットがこれまでのような急成長、急拡大の画が見通せないことだ。
ARBや抗血小板薬などのマーケットがジェネリックに切り替わり、今後置き換わるビッグマーケットは数少ない。厚労省が2002年に後発品使用促進を打ち出して以降、右肩上がりの成長を続けてきた。そして、この右肩上がりの成長のピークとも言える最中で起きたのが、日医工や小林化工の行政処分だ。医療従事者からジェネリックに対する不安の眼差しが向けられるなかで、追い打ちをかけるかのようにジェネリック各社からの出荷調整が相次いで起きている。
アルファカルシドールの供給調整は、ジェネリックメーカーから先発メーカーにも拡大した。ほかに治療選択肢の少ない副甲状腺機能低下症への治療に影響が出ており、学会や医療現場からは不安の声があがっている。
◎診療報酬上への打撃も少なからずある
診療報酬上への打撃も少なからずある。7月21日の中医協総会で診療側の有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は、後発医薬品調剤体制加算について「(出荷調整となった品目などを)使用率の母数から一時的に除外するなど、後発医薬品に関する報酬上の対応も迅速に対応いただけないと薬局経営はもたない」として、早急な対応を要望した。後発医薬品調剤体制加算については、廃止も議論の俎上に上っているが、中小規模の個店の薬局では経営への打撃は大きいという。
安定供給が十分確保できていない現状では、多方面への影響が避けられない状況にある。各社が供給体制拡充に動くものの、供給不安は当分、解決しないとの声も業界内からは漏れる。こうした不測の事態に対応できるような、ビジネスとしての強化が必要だ。一連の問題がジェネリックの低薬価にあると指摘する声も業界内にあるが、設備投資や人材確保など、安定供給に対するコストが含まれてこその薬価でもある。
これまでジェネリックビジネスは、価格を中心に訴求されてきた。しかし、こうしたビジネスモデルは限界に近づきつつある。現在は品質に焦点が当てられがちだが、先発品では集積されている市販後の安全情報など、医療現場が必要とする情報提供をするなど、価格以外で差別化した新たなビジネスモデルを模索する必要もあるのではないか。
「大型品の特許切れが相次ぐが、その後低分子医薬品のジェネリック市場参入は尽きる。今後人口減少社会が到来し、医薬品需要の伸びの鈍化も想定される。一時的な施策に踊らされることのないような、地に足のついた投資をして安定供給をさらに進めることも重要だ。ジェネリックメーカーが発展するためには、中小企業が淘汰されることも視野に入れなければならない。ジェネリックメーカーにとっても厳しい状況が待っている」―。実はこの言葉を取材で聞いたのは、後発品80%目標の議論が佳境を迎えていた2015年に、城克文氏(現・AMED理事)が当時、インタビューに答えてくれたものだ。現在起きていることと重なっている部分が多いことにも驚かされる。
現在策定が進められる「医薬品産業ビジョン2021」も、ジェネリックメーカーにとって耳の痛い面もあるだろう。とは言え、後発品80%時代が現実の姿として目の前に迫っていることは動かし難い事実でもある。国民が安心してジェネリックを選択し、服用できる環境を整え、患者を支援するのは、紛れもなくジェネリック医薬品企業の使命であり、国民との約束に他ならない。まもなく成案化される「医薬品産業ビジョン2021」に刻み込まれたメッセージを真摯に捉え、後発品80%時代の新たなビジネスモデルを構築する一手にしてほしい。