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月刊JGAニュース

盛岡単身紀行  

皇漢堂製薬株式会社

 コロナ禍の為、好きな一人旅も出来ず、妻との旅行もままならない悶々とした日々を過ごしているときに、窓口担当者よりGE薬協からの寄稿依頼が来ているが書いてもらえないかとの話があり、どう言うわけか、フッと十数年前に単身赴任生活を送った盛岡の風景を思い浮かべた。これは良い機会をもらったと感謝している。


 というのも前職の製薬会社での20年の単身赴任生活の中で、盛岡をはじめとする青森、秋田の北東北での生活は2年の短期間だったが、最も印象深い大好きな街だからである。


 当時52歳頃だったと思うが、68歳になった今でも盛岡、三陸宮古、弘前在住の友人を兄貴、叔父貴と慕い長くお付き合いをさせていただいている。大好きな盛岡と北東北を出来るだけの臨場感で紹介しようと思う。


 2006年10月に福岡から盛岡に事務所がある北東北支店への異動を命じられた。単身赴任のメッカ博多から盛岡への異動は自身にとって電撃であったが、不動産屋に素晴らしいマンションを紹介されたのが大好きの始まりである。眼下には北上川が滔々と流れ、ベランダに出て仰ぎ見れば北上のはるか上流に2038mの名峰岩手山がそびえる。最高のシチュエーションに博多中洲のネオンが一瞬に消え去った。朝のウォーキングで北上川支流の中津川沿いの遊歩道を歩くと「バシャバシャ」と水音がするではないか。鮭の溯上である。太平洋河口の宮城県石巻から200km以上の旅を経て、この支流の浅い小石の間で産卵をするのである。その時期には朝から橋の上での見物人が絶えない。産卵が終わるころには盛岡城址公園他の街中が赤と黄に染まり、東北自動車道に沿って植わっているナナカマドの真赤な実が秋空に映えて実に美しい。冬は正直寒い。盛岡の雪はそれほどではないのだがマイナス10度は九州人にはこたえる。しかし、それなりの大人の遊び方がある。得意先のDRに誘われ、盛岡から1時間程のところにある本州一の極寒の地「岩洞湖」のワカサギ釣りに同行した。朝未だ明けていない湖面にボーッと浮かぶテントのランプや蝋燭の明かりが幻想的でしばし見とれてしまう。薄明りの中、氷に穴をあけ割り箸程の釣り竿に小さな餌をつけるのだ。釣果はどうだったか?5時間ほどで6匹、同行のDRは100匹近く。初心者は「そんなもの」と慰められた。手で持つと「あたり」がわからない。竿立てが必要と分かるが後の祭り。マンションに戻り、折角だと6匹をフライにしたが、縮んでメダカを食している感覚で虚しさを覚えた。北東北には冬にも祭りがあり、そして何よりも温泉がある。八戸の初春神事「えんぶり」と一関市大東町「水かけ祭り」はたいへん興味深く2年連続して観客となった。「えんぶり」は公道での子供たちの歌や踊り、寸劇のパフォーマンスが素晴らしく、「水かけ祭り」は男が化粧して女形になる仮装と褌一つの男衆が何度となく短距離選手のように町中を全力疾走、沿道の人たちが桶に汲んだ水を男衆に容赦なくかける大興奮の奇祭である。私も2年目に若い社員たちと参加するつもりだったが、嫁に「2月の一番寒い時に心臓発作でも起こしたらどうするの」の一言に負け、応援部隊に格下げとなった。今思えば、非常に残念であった。もう一つの楽しみは温泉である。2年間で13か所の温泉に入った。私のベスト3は秋田乳頭温泉「鶴の湯」、岩手新花巻温泉「藤三旅館」、岩手松川温泉「松川莊」である。いずれも源泉かけ流しの素晴らしい秘湯であることは勿論だが、最大の理由の詳細を話すことは控える。ヒントは「3勝10敗」。お知りになりたい方にはお会いした際にお答えしたい。そして何よりもお伝えしたいのは、「春の匂い」である。馴染みの寿司屋の大将から聞いて、「ほんまかいな」と半分信じていなかったのだが、これが正にそのとおり。4月中旬を過ぎ、街から根雪が消える頃に確かに「春の匂い」に気づかされたのである。それは「春の香り」と言ったほうが風情があり、口笛をふきながら歩きたくなる気分となる。思うに、長い厳しい冬を耐えてきた北東北の人たちへの風と大地からのプレゼントかもしれない。その後の北東北は満開の桜で春爛漫となる。


 夏の北東北はねぶた、竿灯、さんさ踊り、大曲花火大会と「祭り一色」であるが、コロナ禍により昨年、今年と華やかな芸術とも言うべき歴史あるお祭りを見ることが出来ないのは誠に残念である。もっと紹介すべき歴史、文化、自然は数多くあるが、これ以上は皆さんの想像力にお任せしよう。コロナ禍が終息したら是非訪れてご自身で見て、感じていただきたい。最後に、赴任当時に某大学の教授よりお話しいただいた言葉「ここの人たちは、穏やかな人が多いですよ」は忘れられない。盛岡は会社人生40数年で最高の地であったと言える。


 追記となり恐縮ですが、皇漢堂製薬の事業について簡単に紹介を致します。弊社は1980年に兵庫県尼崎市で創業し昨年40周年を迎えた。一般用医薬品、医療用医薬品(ジェネリック)事業に加え、近年では海外事業に力を入れている。


 GE薬協会員各社様のご指導、ご協力を宜しくお願い申し上げます。

令和3年 8 月
皇漢堂製薬株式会社 取締役社長 矢岡 博
 

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