物価高・エネルギー価格高騰がもたらす 安定供給への懸念
ミクス編集部 デスク 望月 英梨 氏
2023年度改定をめぐる議論が年末の予算編成に向けて本格化する。物価高やエネルギー価格の高騰、為替変動の影響が強まるなかで、低薬価品をはじめとした医薬品の安定供給も懸念されている。一方で、少子高齢化が進むなかで、構造的課題への対応は待ったなしだ。膨らみ続ける薬剤費は、国民負担に直結する。物価が高騰し、国民負担の重要性が高まるなかで、医療上必要性の高い医薬品をいかに安定供給するか。2023年度改定は、国民負担の軽減と医薬品の安定供給のバランスをいかに取るかが焦点となりそうだ。
「物価高における国民の負担軽減の観点から、完全実施を実現すべき」-。財務省主計局は11月7日の財政制度等審議会財政制度分科会で、こう主張した。少子高齢化の波が襲うなかで、社会保障における構造的課題の重みは増している。薬剤費そのものは、2016年のC型肝炎治療薬の薬価改定を除き、一貫して伸び続けている。財務省主計局は、「既存薬価の改定率は例年マイナスとなっているが、薬剤使用量の増加や新規医薬品の保険収載により、薬剤費総額は、経済成長を上回って推移している」と指摘した。
毎年薬価改定の初回となった2021年度改定は、乖離率5%超(平均乖離率8%の0.625倍)、約7割の品目が改定の対象となった。財務省は、「価格乖離の大きな品目に限定」して実施した。「21年度においても医薬品市場は拡大しているとの指摘もある」と強調した。
こうしたなかで、物価やエネルギー価格の高騰が国民生活を直撃している。製薬業界からは物価高騰を踏まえた薬価上の下支えを求める声も上がっているが、財務省主計局は、米国では物価上昇のなかで国民負担を軽減するため、特例的に医療保険(メディケア)の薬価を引き下げる法案を成立させたことを紹介し、日本も例外でないとの認識を滲ませた。
出席委員からは、「日本の医薬品メーカーの国際的プレゼンスが低いことが問題だ。薬価に守られて、イノベーションが生まれづらくなっているのではないか。その観点からも薬価を下げた方がいい。また、最近の物価高の中で国民負担を軽減していくということも重要だ。薬価の引き下げはアメリカもやっているし特に異論はないのではないか。今回の薬価改定において対象品目を限定しないで幅広くルールを適用していくことに賛同する」との意見があがったという。
翌9日に開かれた中医協薬価専門部会でも、医薬品の安定供給に議論の焦点が当たった。
医薬品の安定供給をめぐり、短期的な財政措置を検討する必要性を指摘。23年度改定の論点に盛り込むよう求める声があがった。ただ、支払側の松本委員は、“短期的な対応”には、「薬価のみならず、税制や補助金等もある」と指摘。さらに、4大臣合意を引き合いに、「診療報酬改定のない年の薬価改定は、市場実勢価格を適時に薬価に反映して、国民負担を抑制するためにするということをしっかり押さえていく必要がある」としたうえで、「物価高は生活の様々なところで全ての国民に影響がある。安定供給に支障をきたして必要な医療が受けられないことは避けなければなりませんが、薬価において物価高に配慮することになれば、ただでさえ病気になって出費がかさむ患者が負担軽減の恩恵を受けにくくなるということは指摘させていただく」と述べた。
これまでも薬価・診療報酬改定を決めるメルクマールに「物価・賃金」の指標が用いられてきた。ただ、この10数年間はデフレが続き、名目GDPもマイナス成長の深みにはまっている。その点で診療報酬改定論議における経済指標のウエイトはいつしか主役から脇役へと追いやられていた感もある。しかし、今回の世界的経済情勢の急激な変化は、諸外国をはじめ薬価や社会保障のあり方に一石を投じていることは間違いない。製薬産業も薬価中間年改定をめぐる政府判断にやきもきする日々を送っているが、今回の経済情勢はコロナ禍と同様に、そう簡単に終息しそうもない気配すら漂っている。ここは冷静になって世界経済や国際動向を踏まえた中期的戦略を練り直した方がよろしいのではないだろうか。いつまでも「日本の市場は魅力がない」とばかり主張していると、産業としての国際的な孤立を招くことにもならないだろうか。