地域フォーミュラリの浸透、 ジェネリック業界にも影響か
編集局日刊薬業編集部 大塚達也 氏
国内各地で徐々に地域フォーミュラリが浸透している。10月30日に行われた第1回日本フォーミュラリ学会学術総会で、同学会の今井博久理事長はすでに15カ所以上の地域でフォーミュラリを実施したり、実施に向けた検討が行われていると説明した。地域フォーミュラリについては財務省も薬剤費適正化につながる取り組みとして紹介しており、こうした動きがさらに加速していけばジェネリック医薬品業界にも影響を及ぼす可能性がある。
地域フォーミュラリは、安全性、有効性に加えて経済性も加味して同一地域内における標準的な薬物治療を確立する取り組みで、患者アウトカムを向上させながら薬剤費を抑制し、さらには医薬品管理の効率化も期待できるため、近年同時多発的に導入を検討する事例が増えている。
学術総会で今井理事長が提示した資料によると、北海道北部の上川北部医療連携推進法人や山形県酒田地区の日本海ヘルスケアネット、大阪府八尾市、兵庫県丹波市地区など、15カ所以上で地域フォーミュラリを導入したり、導入を本格的に検討している。今年度内にはさらに採用・検討する地域が拡大する見込みだ。
病院単位の院内フォーミュラリも含めたフォーミュラリを巡る議論としては、2017年の厚生労働省の中央社会保険医療協議会において推進の提案が上がって以降、2020年度薬価改定、2022年度薬価改定に向けた中医協でも導入が俎上に載った。ただ、処方権の侵害や診療報酬としての手当ての是非などが懸念の材料となり、結局、診療報酬への組み入れは見送られた。
ただ、財務省は今年4月の財政制度等審議会財政制度分科会で示した資料において、医療費適正化計画の見直しとして都道府県が努力すべきポイントの一例に地域フォーミュラリの策定を挙げた。10月の厚労省の社会保障審議会医療保険部会でも、第4期医療費適正化計画(2024~ 29年度)に関する議論で、保険者側が「フォーミュラリによる薬物治療の標準化に取り組むべき」と訴えた。現段階では、政策としてどこまで地域フォーミュラリが推奨されるかは未知数だが、今後、医療費適正化効果が如実に確認されたり、実際に何らかの加算が付いたりするようになれば、一気に導入が加速することも予想される。
フォーミュラリの策定においては、薬価は当然ながら、安定供給体制の整備状況やその開示状況なども同一成分内での差別化のポイントになり得る。原薬の調達状況から製造規模、配送拠点の立地なども評価される可能性があり、積極的に安定供給に取り組んだ企業の製品が優先されることになる。逆に言えば、フォーミュラリの採用が進めば進むほど、安定供給の体力のない企業の製品は淘汰されていく。
11月には米子会社の事業で多額の損失が発生し債務超過に陥ったジェネリック大手日医工が投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズと医薬品卸のメディパルホールディングスが出資する合同会社ジェイ・エス・ディーの子会社となり、来春にも上場廃止する見通しとなったことを発表した。厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」でも産業構造の在り方が論点の1つになっている。これまで幾度となくささやかれてきた業界地図の変革が徐々に現実味を帯びる中、地域フォーミュラリの浸透もその原動力の1つになるかも知れない。