ジェネリックの価値と産業振興を問い直す
ミクス編集部 デスク 望月 英梨 氏
「薬価あるいは診療報酬の見直しだけではなかなか問題が解決できない。産業構造、あるいはビジネスモデルのあり方も含めて医薬品の供給体制についての抜本的な再検討が政府に求められる」。中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の小塩隆士会長は12月23日の総会で、こう指摘した。
2023年度薬価改定は、平均乖離率7.0%の0.625倍(乖離率4.375%)を超える品目を対象とし、不採算品と新薬創出等加算品への臨時的・特例的な措置を講ずることで決着した。あわせて、加藤厚労相と鈴木財務相は12月21日の大臣折衝で、「医薬品の供給が不安定な中、患者への適切な薬剤処方の実施や薬局の地域における協力促進などの観点から、2023年12月末までの間、一般名処方、後発品の使用体制に係る加算、薬局における地域支援体制にかかわる加算について上乗せ措置を講ずる」ことに合意。これを踏まえて、加藤厚労相が中医協に諮問したことを受け、同日に開かれた中医協総会で議論された。
冒頭の中医協での小塩会長の発言は、12月23日、医薬品の安定供給問題を踏まえた診療報酬上の特例措置について加藤勝信厚労相に答申したときのものだ。諮問からわずか3日間で答申に至る短い期間ではあったが、本稿ではこの議論に注目したい。
供給不安が続くなかで、処方変更など医療機関や薬局の手間が増えるなか、支払側で患者代表の間宮清委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)が「医師や薬剤師の先生方のご苦労は非常に伝わってくるものがあり、本当に頭の下がる想い」と述べるなど、医療機関、薬局の対応に理解を示した。一方では、ジェネリックメーカーの不正に端を発した問題で、患者負担の増加に支払側が強く反発。支払側の間宮委員は、「一番迷惑を被っているのは患者だ。一番不安のなかにいるのは患者自身だということをご理解いただきたい」と述べ、「全く受け入れられない」と断じた。「供給不安は、患者が診療報酬でお金を払えば解消されるのか」と質す一幕もあった。
安定供給は製薬業界の最も重要な責務だ。この責務を全うできずに、患者にしわ寄せが行ってしまっている事実は、理由の如何を問わず、重く受け止めるべきだろう。
23年度薬価改定で不採算品再算定が臨時的・特例的に講じられたが、それとともに、「安定供給を製薬企業に求めるとともに、そのフォローアップを実施する」とされた。「安定供給」という重い十字架を背負っていることを改めて突き付けられているとも捉えられる。
ミクス編集部が医師850人を対象に行った調査では、ジェネリックについて尋ねた。詳細は本誌(Monthlyミクス2023年2月号)に譲るが、後発品に期待することは、「安定供給」に意見が集中。供給不安が続くなか、ジェネリックの処方を継続する意向を示す医師が4割を占めるなど、ジェネリックメーカーへの期待も見て取れた。
ジェネリックのビジネスモデルは、これまで政府の後発品80%目標による官製市場として、成長してきた。このせいもあってか、安定供給の重要性は誰もが理解する一方で、ジェネリックに適したビジネスモデルについてはこれまであまり論じられてこなかったように感じる。ジェネリックのビジネスモデルはいわば、収載直後の品目で得られる利益で、価格の下がった品目を補填するモデルだ。収載直後の垂直立ち上げが市場浸透のカギを握る。これが、薬価を武器にした競争を生む一つの要因となっていると言えるだろう。しかし、医療現場から求められているのは、市場に出てから長い年月を経て、医療現場で使い慣れた薬を長期間、安定供給することではないか。ただ、赤字品目が多くを占めてしまうと、事業のサステナビリティは期待できない。
今後、特許切れの新薬が低分子から抗体医薬へとシフトしていくなかで、ジェネリックメーカーの有する品目はさらに低薬価品が増加することも予想される。いかに安定供給を実現できるか。安定供給は製薬企業にとって根幹を握るが、特にジェネリックメーカーでは、継続的な安定供給こそが価値と言えるのかもしれない。
今後、厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の場などで、ビジネスモデルの議論も進むだろう。ただ、これまでのような政府主導の産業育成から少しでも脱却するためには、業界自らが先んじてビジネスモデルを考えてほしい。ジェネリックの価値を考えたうえでの新たなビジネスモデル構築こそが求められている。