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月刊JGAニュース

有識者検討会報告書案から産業構造を考える  

株式会社ミクス
ミクス編集部 デスク 望月 英梨 氏

 厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が6月6日、報告書案を取りまとめた。最大の課題である医薬品の安定供給については、「少量多品目生産が行われるといった後発品産業の構造的課題が存在している」と指摘した。今後は、会議体を新設し、構造的課題解消に向けた具体的な取り組みについて議論がなされることになる。製薬業界としては、今後のビジネスモデルを考えるべきタイミングでもある。
 「少量多品目生産といった構造的課題を解消し、企業における品目ごとの生産能力を高める観点から、業界再編も視野に入れつつ、品目数の適正化や、適正規模への生産能力の強化を進めることが必要」。報告書案では、こう提言されている。
 現在、大手ジェネリックメーカーでも少量多品目生産を行っているのが実態だろう。当然、取材する中では、少量多品目生産が悪ではないという声を多く耳にする。医薬品の供給不安が継続する中で、ビジネスモデルを急激に転換するのは確かに難しい。一方で、製薬業界として真摯に受け止めなければならないのは、少量多品目生産には多くのデメリットがあるという点だ。
 報告書案では、長引く供給不安の背景に、小規模で生産能力も限定的な企業が多く、結果として少量多品目生産に陥ったために、「常に製造キャパシティの限界に近い稼働状況であるため、緊急増産等の柔軟な対応は困難である」と指摘している。さらに、「事前準備や洗浄等の工程が増加することによる製造工程の複雑化に伴う製造の非効率性」に加え、管理業務の増大によるリソース不足、品質不良のリスク増大などの“デメリット”があると説明。こうしたリスクに対して、必要な人員配置や教育研修などが十分に
整備されていなかった企業において、「製造管理や品質管理の不備による法令違反や品質不良の発生が、供給問題の原因の一つになった」とも指摘している。
 もちろん、多くの企業がこうしたリスクをなくすための取り組みを行っていることだろう。ただ、報告書案が問いかけているのは、こうした課題をはらむことを理解しつつも、是とする姿勢そのものと言えるのではないか。
 少量多品目生産となった背景には、もちろん制度的課題もある。共同開発が導入され、市場参入の障壁が下がった。報告書案では、「必ずしも十分な製造能力を確保できない多くの企業が新規品目を上市し、激しい価格競争による薬価引下げや、先発品の特許切れに伴う更なる品目の増加を招いてきた」とした。そのうえで、上市に際し、十分な製造能力を確保していることや、継続的な供給計画を有すなど、安定供給を担保する一定の要件をハードルとする考えを盛り込んだ。要件を満たさない企業は結果として市場参入できなくなる仕組みを検討すべきと提案した。
 企業の安定供給などについての企業情報(製造能力、生産計画、生産実績等)を可視化したうえで、これらの情報を踏まえた薬価のあり方を検討すべきとした。あわせて、他産業の取り組みも参考に、「品目数の適正化に併せた製造ラインの増設等への支援や税制上の優遇措置を検討するなど、政府において、ロードマップを策定した上で、期限を設けて集中的な取組を行うべき」と提言している。
 報告書案では、医薬品の供給不安は、ジェネリックメーカーの構造的な課題があることを突き付けているが、一方では、医薬品産業は制度の影響が大きく、今後の施策の行方は重要である。ただ、根本的な課題解決には、企業のマインドセットが何よりも重要である。報告書案が突き付けた課題に真摯に向き合う、ジェネリックメーカーの今後の取り組みに期待したい。

 

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