EN

月刊JGAニュース

東和薬品株式会社  

東和薬品株式会社

https://www.towayakuhin.co.jp

創 業 年 :1951年6月(昭和26年)
代 表 者 名:吉田 逸郎
本社所在地:大阪府門真市新橋町2-11
従 業 員 数:3,578名(2023年4月1日現在)

【企業理念】
私達は 人々の健康に貢献します
私達は こころの笑顔を大切にします

 「発がん性が疑われているニトロソジメチルアミン(Nitrosodimethylamine=NDMA)がバルサルタン原薬に混入」との報道に端を発した回収事例が他の薬剤にも急拡大している。現在はNDMAのような不純物の混入に留まらず、原薬を構成するアミン部分構造(例えばRR’NHなど)が直にニトロソ化されたNDSRIs(Nitrosamine drug substance related impurities、例えばRR’N-NOなど)が製薬業界を揺るがしている。アミン部分構造は薬の構成成分として汎用される化学構造(部品)であり、これまで服用してきた身近な薬剤にも、発がん性が疑われるニトロソ化体混入のリスクが忍び寄っている。リスク回避策は2つ、“混入ありきの許容摂取量(閾値)の設定”and/or“ニトロソ体生成の根絶”である。
 “許容摂取量(閾値)の設定”は、薬剤毎の“発がん性有無の予測ならびに服用期間”についての議論を待たねばならず、一朝一夕には結論を下せない状況にある。よってここでは“ニトロソ体生成の根絶”にフォーカスを絞り、当社で発生したNDMAの混入その原因解明についての事例研究を紹介したい。本事例研究がニトロソ体生成を根絶する一助となり、安心、安全な医薬品の安定供給に繋がれば幸いである。
 2型糖尿病治療の第一選択薬として位置づけられているメトホルミン製剤においてNDMAが検出(2019年12月)され、シンガポールで本製剤の自主回収が行われたことは記憶に新しい。その後の厚生労働省通知を受け、当社の国内2工場(大阪工場1)および山形工場2):相互補完/バックアップ生産体制)で製造されたメトホルミン製剤全ロットのNDMA含有量を測定したところ、一部のロット(全体の1.9%)から暫定基準値(0.043ppm)を上回るNDMAが検出された。
 先ず原薬製造工程でのNDMA混入を疑ったが、原薬中の混入を認めなかった。そこで製剤化工程でのNDMAの生成、混入を検証したところ、両工場で同じ原薬を使用していたにもかかわらず、暫定基準値を超えていたのは大阪工場製造品のみという事実が判明した。原薬中にNDMAが存在せず、製剤中でNDMAが検出された事実には驚きを隠せなかったが、流通過程を含め外部からの混入は考えられず、改めて原薬製造工程ならびに製剤化工程を徹底検証した。
 (CH3)2N-NOで表記されるNDMAが、ジメチルアミン(DMA)とニトロソ基(NO)から構成されていることは論を俟たないことから、極微量のDMAが原薬に紛れ込んでいるに違いないと推測した。そこで原薬中の微量分析を実施したところ、予想通りDMAがヒットした。次に確認すべきはNO源の特定と製造工程条件下でのNDMA生成の可否であった。
 上記のように、大阪工場製造品のみにNDMAが検出されたことから、NO源は立地の違いによると考えて、工場所在地近郊の大気中の窒素酸化物量を、大阪府および山形県の公表データを用いて調査した。その結果、驚くべきことにNDMA含有量大気中の窒素酸化物量の季節変動との間に明確な相関が認められた。即ち、“製剤化工程において、原薬中の極微量DMAが大気中の窒素酸化物と反応してNDMAを生じた”とする道筋がおぼろげながら見えてきた。
 ならば、製剤化工程で大量の空気に曝露されるタイミングが必ず存在するはずだとして、各工程を精査したところ、加温下大量の大気を導入する流動層造粒工程が線上に浮かび上がった。早速NDMAが検出された原薬を用いて、温度ならびに窒素酸化物濃度をコントロールしたモデル実験系を構築、得られた各種データをもとに上記仮説を証明した(論文投稿中)。
 原薬の製造法、添加剤、水、印刷インキなどが、NDMA生成に関与していることは知られているが、大気中の窒素酸化物量もその一因として考慮すべきである。またNDMA混入の背景には、実に様々な原因が複雑に絡んでおり、一筋縄では行かないことが今回の事例研究でより明確となった。
 NDMAなどの微量不純物は、原薬に混在するアミン類を除去すればその混入を回避することが可能である。しかしながら、冒頭に述べたNDSRIsは、原薬を構成するアミン部分構造に由来するため、ニトロソ化はもはや不可避(混入ありき)のようにも思われる。

 当社は、“ニトロソ体生成の根絶”を究極の目標に、製造工程(原薬、製剤)の見直しはもとより、各種ニトロソ化物質の特定や添加物の変更、そして大気中の窒素酸化物コントロールによる、安心、安全な医薬品の安定供給の実現に向けて、今後もたゆまぬ追究と挑戦を続けてまいります。

1):大阪工場:大阪府門真市松生町3-8
2):山形工場:山形県上山市金瓶字湯坂山17-8

 

PDFでご覧になる方はこちら