G1長期品の撤退、267品目中4品目のみスキーム機能せず
日刊薬業編集部 海老沢 岳 氏
新薬メーカーが長期収載品(以後、長期品)から撤退し、後発医薬品メーカーに市場を引き継ぐ仕組みとして、厚生労働省が2018年度薬価制度改革で導入した「G1品目の撤退スキーム」がうまく機能していない。G1品に該当する長期品は22年4月時点で累計109成分267品目あるが、撤退が決まったのはわずか2成分4品目にとどまる。このままなら18年度に最初にG1品になった長期品のうち31成分62品目は、24年4月の改定で後発品と同じ価格まで薬価が下がる。製薬団体は「薬価が大幅に下がる中で撤退したくても撤退できない」として見直しを訴えている。
ユナシン-S静注用」と「エンペシド腟錠」だけ
18年度改革で導入された長期品の新たな薬価引き下げルールでは、後発品上市から10年が経過した長期品について、その直後の薬価改定で後発品の2.5倍まで薬価を下げる。このうち後発品への置き換え率が80%以上に達している長期品は、G1品に指定され、さらに2年後には後発品の2倍、4年後は1.5倍まで薬価が下げられ、6年後に後発品と同一薬価になる(20年度改革でG1の前倒し適用ルールも導入)。
同時にG1品には撤退スキームが設けられ、厚労省医政局が仲介する中で6年かけ長期品の撤退を目指す。
G1品となったメーカーは、初年度の4月以降、医政局医薬産業振興・医療情報企画課(産情課)の担当者から撤退の意向を聞かれる。撤退の意思表示を示した場合に、今度は産情課が同一成分を持つ全後発品メーカーに、増産し長期品分の市場シェアを引き継ぐ意向があるかを確認。増産の意思を示した、1社または複数社を合算した後発品生産量が全後発品の50%を超えれば条件成立で、長期品メーカーは撤退が可能となる。
後発品は収載後12年で原則1価格帯となるが、G1品に対する増産の意思を示したメーカーは別の価格帯を維持できるインセンティブが厚労省から与えられる。長期品撤退後も別の価格帯を維持できる恩恵が続く。
ただ、こうしたインセンティブがあるにもかかわらず撤退が決まったのは、18年度にG1品となったファイザーの抗菌剤「ユナシン-S静注用」3品目と、20年度にG1品となったバイエル薬品の抗真菌剤「エンペシド腟錠」1品目だけだ。前者はMeiji Seika ファルマ、後者は富士製薬工業が引き継ぐ。
後発品メーカーの引継ぎ困難ケース目立つ
長期品、後発品双方のメーカー関係者に取材すると、G1品を持つメーカーが撤退希望を出すものの、後発品メーカーが増産に難色を示し条件成立とならないケースが多いという。
ある後発品メーカー関係者は、日刊薬業の取材に「長期品がG1品となった段階で後発品としてもすでに5回以上の薬価改定を受けており、新たに増産して長期品のシェアを引き継いでも得られる利益は微々たるもの」だと指摘した。
そもそも薬価は低くなっており、別枠の価格帯設定はインセンティブにはならないと強調。増産対応し市場を引き継いだ場合についても「1社で同一成分全体の供給責任を負う」と述べ、背負う責務の大きさは計り知れず、どの後発品メーカーも手を挙げられない状態だとした。
G1撤退スキーム、先発、後発双方にとって魅力なし
このルールでは長期品メーカーに市場からの撤退を促すため、厚労省が長期品の薬価を段階的に引き下げ、後発品の上市から16年後に長期品と後発品が同じ薬価になった段階で後発品メーカーに市場を引き継ぐ仕組みとなっている。長期品の薬価が後発品と一緒になれば、さすがに長期品を販売する魅力がなくなり撤退するだろうという意図が見え隠れする。
だがこれは後発品メーカーの立場にとっても同様で、後発品の上市から16年経過し後発品の薬価がかなり下がった段階で、彼らにとっても市場を引き継ぐ魅力は失われていると考えられる。
現在、後発品メーカーは安定供給にこれまで以上に費用がかかる状況になっており、新製品の発売とG1品の市場を引き継ぐ方のどちらにメリットがあるかと言えば新製品を選ぶのは明らかだ。
このルールでは後発品メーカーが市場を引き継ぐのはハードルが高すぎると言える。
中医協でG1ルール見直し議論開始も、着地点見えず
24年度薬価制度改革に向けて、中医協薬価専門部会ではG1ルールの見直しに関する議論が始まっている。日本製薬団体連合会は、7月5日の業界ヒアリングで撤退を基本とした上で医療現場からの要望などで撤退できない長期品については後発品との価格差を許容することも求めた。
一方、8月2日の薬価専門部会で、支払い側委員がG1指定後に早期に長期品と後発品の価格差をなくすよう求めるなど製薬業界にとって厳しい意見も出ており、業界が望む見直しが実現するかどうかは現時点では不透明な状況にある。