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月刊JGAニュース

沼にはまる  

 昨年の夏休み。家の近所の川沿いを散歩していると、突然、甲高く「チチチ」と飛んできた鳥が水面近くの枝にとまった。目を凝らしてみるとテレビや図鑑で見たことのある青い鳥だった。
「えっ?こんな所にカワセミがいるの?」
 カワセミは渓流の宝石とも言われる美しい鳥なのは知っていたが、お世辞にも清流とは言えないこんな川にいるとは思わなかった。さっそく、スマホを取り出して撮影し、自慢げに家族に見せるが「ナニコレ?ほんとにカワセミ?小さすぎてわからない」と、夏なのに冷たい反応しか返ってこない。
 それならば、翌日はもっと近くで撮ってやろうと同じ時間に出かけるが、待てど暮らせどカワセミは現れず、三日目、やっと現れたが、スマホの限界なのか結果は同じで「ふ~ん」の冷ややかな反応だった。
 そこで、お金をかけないで大きく撮る方法はないかとネット検索したところ、双眼鏡にスマホを取り付けるアタッチメントを発見。カタログでは月面が撮れるほどの優れものが、送料込みで800円と驚きの価格だったので、速攻でポチる。
 「よし、これで、ドアップでカワセミの写真が撮れる」とワクワクもので現地に行くが、そう簡単に問屋が卸さない。手振れがすごくピントも合わず、中央に収まらず、画質も良くなく、炎天下で汗は目に入るわ、双眼鏡はベチャベチャになるわで、散々な結果に終わった。
 「ムリ、ムリ、ちゃんとしたカメラじゃなきゃ。使ってない高倍率のコンデジ(コンパクトデジタルカメラ)があるから持っていけば?」
 相談を持ちかけた友人が納戸からカメラと三脚を持ち出してきた。やはり持つべきものは独身貴族でカメラが趣味の友人である。家族を見返す為に「借りるね」と軽い気持ちで自宅に持ち帰り、カワセミを撮ると、さすが専用機、双眼鏡よりも大きく奇麗に撮れる。
 家族の評判も良かったので、有頂天になり友人に見せると、ピントが甘い、白飛びしている、などと専門用語で散々けなされた。どうも大きく撮るだけではカメラオタクにはダメらしい。
 内心、面白くなかったので、「じゃ、撮って見せてよ」と挑発し、まんまと友人も野鳥撮影の沼に巻き込む事に成功し、二人の間でレアな鳥の撮影自慢も始まった。朝早くからカメラをぶら下げての単独徘徊も始まった。
 山野を歩き回り、野鳥の声を聴き、自然の中でオニギリを頬張ると、日頃のストレスも消し飛んでゆく。
レアな鳥の写真が撮れると一日中ニヤニヤしてしまうほど、どっぷりと沼にはまってしまった。
 ストレスと上手に付き合っていかなければならない現代社会。みなさんも、少しだけ通勤や散歩の途中で鳥の声に耳を傾けてみませんか。スズメだと思っていたら、見たこともない素敵な鳥と出会えるかもしれません。

(Y.H)
 

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