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月刊JGAニュース

製薬企業の情報発信のあり方を考える  

株式会社ミクス
ミクス編集部 デスク 望月 英梨 氏

 日本医師会は10月6日の会見で、院内処方で入手困難だと回答のあった品目のうち、「通常出荷」としている品目が約3割あるとの調査結果を報告した。日本製薬団体連合会(日薬連)が毎月実施する銘柄別の供給状況調査で、「通常出荷」とは、「全ての受注に対応できている、又は十分な在庫量が確保できている状況」とされており、製薬企業発の情報と医療現場の実態に乖離が浮かび上がっている。
 日本医師会は、日本医師会員、地域医師会員を対象にインターネットで調査を実施した。調査期間は8月9日~9月30日までで、6773医療機関から回答を得た(速報値)。
 医療機関側が“入手困難”と回答した2082品目のうち、日薬連の「医薬品供給状況に係る調査」で製薬企業側が「通常出荷」としている品目が670品目(32.2%)あることもわかった。品目としては、漢方製剤が上位を占めており、「ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)」が院内(51件)、院外(115件)ともにトップとなった。また、陽進堂のトラネキサム酸錠250mgは、同一成分の他社品目がすべて限定出荷になっている中で通常出荷とされていたが、アンケート結果では上位にあがっていた。
 日本医師会の宮川政昭常任理事は、「メーカーは通常出荷だということだが、現場には届いていない」と指摘。「感染の爆発などが起きたときに、どれだけ余剰が必要か、考えていない。だから、現場には、十分な量が届いているという状況には見えない」と述べた。疾患の特性などにより、必要量が異なることも指摘し、こうした観点も加味して生産体制を構築することが必要との考えを示した。実際、新型コロナやインフルエンザの急拡大、さらには鎮咳剤や去痰剤の供給不足が安定供給に影響を及ぼしている。
 供給不安が続く中で、供給情報へのニーズが高い一方で、その医薬品を入手できるか、医療機関や薬局にとって明確にわかるものとしなければ、むしろ医療現場の混乱を招くことにつながってしまう。会見に同席した、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科の坂巻弘之 教授は、「通常出荷の“通常”とは何かということ。需要が急拡大してるのであれば急拡大にあわせたものであるべきだ。おそらく日薬連の調査に定義がきちんとなされていない」と指摘した。
 同様の実態が、日本保険薬局協会(NPhA)が管理薬剤師を対象とした調査からも浮かび上がっている。NPhAは9月7日の会見で、4513薬局の管理薬剤師が回答したアンケート結果を報告した。
 アンケートでは、後発品の自主回収や限定出荷をめぐり、製薬企業や医薬品卸の情報開示・提供が的確に「全く行われていない」と考える薬局が増加傾向にあった。製薬企業からの情報が適時的確に開示・提供されているか尋ねたところ、「供給不足の解消時期」、「供給可能な量(過去3か月実績に基づいてなど)」、「代替薬・代替治療の情報」など、すべての項目で「全く思わない」との回答率が増加していた。医薬品卸からの情報提供も同様の結果となった。自由回答では、「メーカーの出している流通状況と卸との間で格差がありすぎる。メーカーは出荷量通常と告知しているものの卸には全く入ってこないものが多い」、「製薬会社によって情報開示の内容に差がある。ホームページ上で限定出荷になっていなくても卸に問い合わせると限定出荷と回答されることが多々ある」などの回答が寄せられている。
 医療現場と製薬企業、卸の情報の乖離には、“タイムラグ”があることが背景にあることが指摘されている。ただ、医療現場にとっては、判断ができる情報こそが重要だ。供給不安に加え、新型コロナやインフルエンザの流行など、不確定要素が多い中で、より一層確かな情報提供が求められている。製薬企業にとっては情報提供の難しさは増しているかもしれないが、医療現場の判断に資する情報提供を続けることこそが、製薬企業の信頼回復につながるのではないだろうか。

 

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