代用法について
試験法に関するこれまでの認識・考え方
医薬品が兼ね備えるべき要件として、有効性、安全性及び品質の確保の3点がありますが、実際に製造された医薬品が一定の品質を保つことが出来ないことは、医薬品の存在意義が失われることになります。そのためにも医薬品においては品質の確保は大変重要なものの一つであり、この品質状態を確認するために行われる医薬品の試験法も極めて重要なものになります。
医薬品等の品質、有効性及び安全性の確保等を規制する法律である「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、「薬機法」と称します。)では、医薬品は、品目ごとに厚生労働大臣(又は都道府県知事)による製造販売承認(以下、「承認」と称します。)を受けなければ、製造販売を行うことはできない製品になっています。その承認されたことが明示されている製造販売承認書には、当該医薬品の名称(販売名)、成分・分量、用法・用量、効能・効果、製造方法等に加え、その医薬品に使用される成分及び製剤の品質を確認するために設定された規格と、その規格を確認するための試験方法が記載されています。承認後に製造される医薬品の品質は、これら承認された内容と完全に合致することが薬機法において義務づけられています。
規格とその試験方法は、製造販売承認書(以下、「承認書」と称します。)の「規格及び試験方法欄」或いは「別紙規格欄」などに規定されます。(ただし、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格(以下、「局外規」と称します。)、医薬品添加物規格(以下、「薬添規」と称します。)等の規格集に収載されている成分及び製剤については、これら規格集に掲載されている規格や試験方法を参照することで、承認書の規格及び試験方法の記載は省略されることがあります。)
製造販売業者(製造業者)は、承認書に規定された試験法(以下、「承認法」と称します。)を用いて、医薬品原材料である有効成分や添加剤などを他の製造業者から受入れる際の受入試験結果判定や、実際に製造された医薬品の製剤を市場に出荷する際の出荷判定を実施しなければならない責任があります。
一方で、日本薬局方の通則や、医薬品規制調和国際会議(ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceutical for Human Use)の品質に関するガイドラインであるICH-Q6A(新医薬品の規格及び試験方法の設定)には代替法という考え方が以前から示されてきました。
日本薬局方 通則14
『日本薬局方に規定する試験法に代わる方法で,それが規定の方法以上の真度及び精度がある場合は,その方法を用いることができる.ただし,その結果について疑いのある場合は,規定の方法で最終の判定を行う.』
ICH-Q6A 2.7 代替法(Alternative procedures)
『別の測定法によって、原薬または製剤のある属性を承認申請書記載の方法と同等あるいはそれ以上によく管理できるようであれば、その方法を代替法として用いてもよい。例えば、製造工程で原薬が分解しないことが確認されている錠剤の出荷試験には、承認申請書記載の方法がクロマトグラフ法であっても、吸光光度法を用いてもよい。しかしながら、代替法による適否の判定に疑義が生じた場合に、その製剤が有効期間を考慮した判定基準に適合しているかどうかを最終的に判定するためには、承認申請書記載のクロマトグラフ法を用いる必要がある。』
これら代替法の取扱いについては、平成28年に実施された医薬品の製造販売承認書と製造実態の整合性に係る点検における事務連絡通知(Q&A)1)によって、以下のような対応が示されています。
本事務連絡では、日本薬局方 通則 14 に基づく代替法(日本薬局方に収載されている医薬品)については、承認書に記載されている試験法と異なる場合においても「相違なし」となる一方で、それ以外(日本薬局方に収載されていない医薬品における日本薬局方通則の準用又はICH-Q6A に基づく代替法)については、「相違あり」として報告の上、承認書と製造実態を合わせるよう(実際に製造において実施している試験法を承認書に記載するよう)に、試験方法の記載について見直しを図ること
とされ、製造方法欄等の内容と合わせて製造販売承認書の記載整備が行われました。
新たに示された試験法に関する考え方
あくまでも製品に使用される成分及び製造された製剤の品質確認を行うための規格及び試験方法については、承認書に規定された承認法によることが原則であり、それ以外(代替法を除く)の試験方法で品質の確認を行うことは認められていません。しかしながら、医薬品原薬等の供給元の多様化等を背景に承認書に規定する規格及び試験方法を前提にしつつも、運用実態として承認書に規定する規格及び試験方法での実施が困難な場合が想定されることから、上記ICH-Q6Aの概念を一部取り込む形として、令和5年6月21日付 薬生薬審発0621第2号、薬生監麻発0621第3号通知「要指導医薬品及び一般用医薬品の製造に当たり承認書の「別紙規格欄」及び「規格及び試験方法欄」に規定する試験方法に代用しうる試験方法を実施する場合の取扱いについて」、及び令和5年6月21日付 薬生薬審発0621第5号、薬生監麻発0621第6号通知「医療用医薬品の製造に当たり承認書の「別紙規格欄」及び「規格及び試験方法欄」に規定する試験方法に代用しうる試験方法を実施する場合の取扱いについて」(以下、総称して「代用法通知」と称します。)が発出されました。
本通知の発出によって、医薬品の試験方法について「代用法」と「別法」という概念が新たに示されるとともに、上記「代替法」についても取り扱いが整理されました。
代用法通知に示された各試験法(まとめ)
承認法 | 承認書の別紙規格欄又は規格及び試験方法欄に規定されている試験法であるが、規格集の参照により記載省略されているものについては、参照先の試験法が該当する。 |
代用法 | 試験機器の故障やメンテナンスのため、承認法が使用できない場合に一時的に使用するために設定された試験法である。承認法と試験原理が原則同一であり、承認法と精度(正確さ)・真度(精密さ)等が同等以上の分析性能がある等、代用法通知に示された要件をすべて満たし、疑義が生じた場合は承認法が使用可能であることが適用条件。 この代用法は承認書に試験法として記載することは不要であるが、精度・真度等の検討が行われており、承認規格への適合・不適合が確認出来ること、製品標準書等に代用法の使用が規定されている必要がある。 |
代替法 | 日本薬局方収載医薬品について、医薬品各条で規定されている試験法よりも精度・真度等がより優れた試験法として、日本薬局方通則14に基づき設定された試験法が該当する。 承認書への当該試験法の記載は不要であるが、精度・真度等の検討が行われており、製品標準書等に代替法の使用が規定されている必要がある。 なお、局外規、薬添規等に規定されている試験法については、代替法は適用されない。また、合わせて本邦においては、ICH-Q6Aに規定されている「代替法」は適用されない。 |
別 法 | 代用法、代替法には該当せず、承認法とは異なる試験法であり、承認法に代えて日常的に使用されている試験法が該当する。 試験機器の故障時の試験法として規定した上記「代用法」が日常的に使用されている場合や、ICH-Q6Aの「代替法」の定義に基づき設定され運用されている試験法の一部は、別法に該当する可能性がある。この場合、速やかに承認書の記載を整備するため承認事項一部変更承認申請等を行い承認法とする必要がある。 |
代替法について
本通知で「代替法」は、日本薬局方通則14に基づき設定された試験法のみを指すこと、合わせて日本薬局方通則は、日本薬局方医薬品各条に収載された医薬品にのみ適用されることが示されました。従って、「代替法」は日本薬局方収載医薬品の試験法にのみ適用されるということになり、日本薬局方通則を準用している局外規や薬添規の試験法は、日本薬局方の代替法には該当しないことが明確化されました。
また、平成28年に発出された事務連絡通知(Q&A)1)と本通知により、ICH-Q6Aで規定された「代替法」については、承認事項一部変更承認申請(以下、「一変申請」と称します。)を行い「承認法」として運用することが必須であるということが、合わせて明確に示されたことになります。
代用法について
今回新たに示された「代用法」は、試験機器の故障やメンテナンス等のために「承認法」が使用できない場合、一時的に使用する試験法として定義されました。従って、常時「代用法」を使用することは認められません。
承認法に代わり「代用法」となり得る条件は、以下の(1) ~ (3)全てをみたす場合とされています。
(1)化成品の医薬品に係る試験であること。
(2)承認法が、日本薬局方又は厚生労働大臣が定める基準2)の各条に定める試験方法以外であるこ
と(これら基準に収載されているものには「代替法」が適用となるため)。
(3)以下のいずれかに該当すること。
(ア)代用法が、承認法と同一原理の試験法で同等以上の分析性能がある場合。
(イ)代用法が、承認法とは原理が異なる試験法であるが、以下①~③のいずれかに該当し、承認法と同等以上の分析性能がある場合。
①確認試験又は有機不純物を対象とする純度試験において、承認法の薄層クロマトグラフィー 法を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法又はガスクロマトグラフィー(GC)法とする場合。
②定量法において、承認法の滴定法、蛍光光度法又は紫外可視吸光度測定法をクロマトグラフィー法とする場合。
③官能基の確認試験において、承認法の呈色反応を赤外吸収スペクトル測定法(IR)とする場合。
代用法を運用するにあたっては、予め当該試験法についての分析バリデーション(意図としている分析が行われるかの確認)を実施し、承認規格への適合・不適合を確認できること等を確認するとともに、その検証記録をGMP省令第20条又は第22条の規定に基づき、適切な期間保管することが求められます。また、代用法の結果に疑義が生じた場合は、承認法による判定が必要となることを想定し、承認法を実施するための手順、設備、体制を整備しておく必要があります。
代用法及び代替法は、いずれも承認書への記載は不要とされていますが、大きく異なる点は前述のとおり、承認法に変えて代用法にて常時品質確認を行うことが認められないこと、代用法を常時継続して使用する場合は、承認事項一部変更申請により承認を取得した上で承認法として運用する必要があることの2点になります。
別法について
最後に、代用法通知に示された「承認法」「、代替法」及び「代用法」のいずれにも該当しない試験法が「別法」となります。
別法は、承認法に代用しうる方法とは認められないので、現時点で別法が使用されている場合は、速やかに市場流通品に対して承認法による品質確認を行う等の措置(必要に応じて製品の回収を含む)が必要となります。また別法を継続して使用する必要がある場合は、当然ながら承認事項一部変更申請の承認を取得した上で、承認法として運用する必要があることが示されています。
一方で、代用法通知には、別法による出荷を継続せざるを得ない場合(既に承認法で使用する試薬、機材等(例えば、滴定法における発色試薬やクロマトグラフィーにおけるカラムなど。)が入手できない状況となってしまっている場合等)の対応についても示されています。この場合、別法を承認法とする承認事項一部変更申請が行われていること及び製造販売業者の責任で医薬品の品質を適切に保証可能と判断できることを前提に、別法による出荷継続が許容される場合があるとされています。
まとめ
冒頭に述べた通り、製造販売業者(製造業者)は、「承認法」を用いて、原材料の受入試験判定及び製品の出荷判定をロット毎に実施しなければならない責任があります。今回、代用法通知が発出されたことにより、承認法に代えて一時的に品質評価を行うために使用することができる「代用法」、従来日本薬局方通則14及びICH-Q6Aで示されてきた「代替法」の定義が整理されたことにより、結果的に「別法」についても定義されることとなりました。
承認取得から相当の年数を経過している製品については、承認取得後の科学水準の進歩に伴い、承認法以外の試験法による品質評価が行われている場合も想定されます。これら製品については、代用法通知で示された「承認法」、「代替法」、「代用法」、「別法」の定義に従い、今後発出が予定されている代用法通知Q&Aに示される運用も参考として、製造販売業者によって今後、必要な措置が順次取られていくものと想定されます。
1) 平成28年3月22日付医薬品審査管理課事務連絡「医薬品の製造販売承認書と製造実態の整合性に係る点検に関する質疑応答集(Q&A)について(その3)」
2) 放射線医薬品基準、生物学的製剤基準、血液型判定用抗体基準、生物由来原料基準