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月刊JGAニュース

ジャヌビア後発品で特許侵害訴訟 物質特許が争点か  

報道局日刊薬業編集部
海老沢 岳 氏

 米メルクの日本法人MSDのDPP-4阻害剤「ジャヌビア」(一般名=シタグリプチンリン酸塩水和物)の後発医薬品の承認をサワイグループホールディングス(HD)の連結子会社メディサ新薬が1社単独で8月に取得した件で、米メルクの関連会社Merck Sharp & Dohme LLCが特許侵害に当たるとして10月6日付で東京地方裁判所に訴訟を提起した。同後発品を巡っては物質特許延長の盲点を突くような形で承認を取得したとみられており、MSD側が訴訟を起こすかどうかが注目されていた。
 ジャヌビアは、小野薬品工業の「グラクティブ」とともに2ブランドで2009年10月に承認、同年12月に発売された。ピーク時(13年度)に両社合わせて1184億円(ジャヌビア分は薬価ベース)を売り上げ、14年度薬価改定で市場拡大再算定を受けた大型品だ。

●物質特許延長でも承認取得

 じほうの調べによると、ジャヌビアの物質特許の当初の満了日は22年7月ごろだったが、特許延長によって満了日は25年2月~26年3月(用途ごとに異なる)となった。このためこれまで後発品は参入していなかった。
 しかし今回、サワイHD子会社が1社単独で承認を取得した。オーソライズド・ジェネリック(AG)ではなく、通常の後発品だとしている。
 物質特許が延長されているにもかかわらず、なぜサワイHD子会社の通常後発品が承認を取得できたのか。そこには特許延長に絡む盲点があったと見られる。

●延長対象は「水和物」、後発品は「無水物」

 特許関連情報を公開しているINPIT(工業所有権情報・研修館)によると、MSDは一般名の「シタグリプチンリン酸塩水和物」で特許延長を出願し延長を受けていた。
 一方、今回承認された後発品の有効成分名は「シタグリプチンリン酸塩」で、先発品にある「水和物」が抜けている。
 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課は取材に対し、「水和物の先発品に対し、承認された後発品が無水物であるのは事実だ」と述べ無水物での承認を認めた。
 取材に応じた製薬企業に勤務経験がある都内の弁理士によると、「先発品と後発品で成分が異なる場合は新薬の扱いで臨床試験が必要になる」が、医薬品審査管理課は「一般的に水和物の先発品に対して、後発品が無水物だったとしても、有効成分は同じであるため、追加の臨床試験は必要ではない」とコメントした。
 この弁理士は、製薬企業は新薬の承認を取得する際には無水物など製品に関係する類縁物質も含め物質特許を取るため、「MSDは延長前の特許については無水物も含め特許を取っている可能性がある」と指摘する。
 一方、先発品メーカーが承認手続きなどにかかった期間を機会損失と見なしその期間を追加で特許期間として認める特許延長については、「延長の趣旨からも医薬品になった物質に関しての延長なので、特許延長された対象物が水和物だけだった可能性はあり得る」と述べ、無水物で承認を取得すれば特許侵害には当たらないとサワイ側が判断した可能性があると指摘した。
 つまり、サワイ側が当初の物資特許期間が満了した後に、延長特許の対象である「水和物」とは異なる「無水物」で後発品の承認申請を行い、特許侵害には当たらないと主張したため、承認された可能性があるというわけだ。

 MSDは10月26日に発表した訴訟に関するリリースで、「日本でシタグリプチンの後発品の承認を取得したと報道されているジェネリック企業と当社の間にライセンス契約や許諾は存在していない」と説明。「ジャヌビアの全ての剤形のさまざまな側面をカバーする単数または複数の特許が有効であると確信している」と主張した。

●サワイ側「訴状が届いていない」 

 一方、沢井製薬はじほうの取材に、今回の訴訟について「訴状が届いていないため、現時点ではコメントができない」とし、12月に収載するかどうかについても明言を避けている。

●類似の後発品申請が増える可能性も

 延長された特許の権利範囲がはっきりしないとの問題意識はこれまでも製薬業界内にあった。 今後の裁判で仮にサワイ側に有利な判決が出た場合には、今回の特許戦略を参考に別の後発品メーカーでも特許延長の盲点を突くような類似の承認申請が増える可能性もあるため引き続き注目していきたい。

 

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