EN

月刊JGAニュース

「医薬品不足」改善兆し見えず 地震で工場被災し不安材料  

報道局日刊薬業編集部 海老沢 岳 氏

 医薬品の不正製造を行った一部の製薬企業が改善作業を行うため製品を一時出荷停止にした関係で市場での供給量が減り医薬品不足が生じている問題。かれこれ3年以上が経つが改善の兆しは一向に見えない。日本製薬団体連合会の調査結果によると、供給不安を起こしている製品の割合は2023年10月以降、逆に増加傾向にあり、24年1月1日に発生した能登半島地震で複数の製薬企業の工場が被災し、追加の限定出荷品が出ており不安材料になっている。

21年の小林化工以降続く医薬品不正 供給が悪化

 21年に小林化工で不正製造が明らかになり、その後、日医工、長生堂製薬と複数の後発医薬品メーカーで承認書とは異なる不適正な製造を行っていた実態が次々と明るみになった。所管する県から業務改善命令を受け改善作業を行う中で多くの製品が出荷停止となり、その影響で問題を起こしていないメーカーに注文が集中し多くのメーカーで供給を制限する事態となった。影響は現在も続いている。
 製薬各社の供給状況を可視化しようと、日薬連は医療用医薬品の供給情報を各社に聞く調査を22年6月(結果公表時期)から3カ月に1回の頻度で計4回実施。23年4月以降は厚生労働省医政局が23年度予算で計上した1500万円を活用することで調査の実施頻度を毎月に変更した。
 調査対象は薬価収載されている全ての医薬品で、その数は直近23年12月調査では6754成分規格、1万8596品目、製造販売企業数329社となる。

日薬連供給調査 10月から供給が悪化傾向

 限定出荷と供給停止の合計品目数が全体に占める割合を見ると23年4月調査が22.0%で、9月調査まで22%台で推移していたが、10月調査が23.7%、11月調査24.4%、12月調査25.9%と三カ月連続で割合が増えている。
 各社は増産対応のほか、生産効率を上げるため包装単位の集約化や1回に製造する量を増やすなどあの手この手で対応しているが、日薬連調査のデータには改善傾向として表れておらず逆に悪化している。

インフル流行や新型コロナで需要増

 悪化の要因として考えられるのはインフルエンザの流行だ。国立感染症研究所が発表する感染症週報によると、23年8月以降増加傾向に入り、12月初旬に流行のピークを迎えた。コロナ禍にはインフルエンザはまったく流行せず、鎮咳、去痰の治療薬の製造量は縮小傾向にあった中でインフルの流行で薬剤の需要が大きく増えたことが考えられる。
 また業界関係者によると、20年に新たな疾患として新型コロナウイルス感染症が加わり、解熱鎮痛剤などに新規の需要が発生したが供給量が完全に追いついていないことも影響しているという。
 鎮咳薬や去痰薬など感染症対症療法薬について、武見敬三厚生労働相は23年11月、製造販売する23社の社長や役員らを省内に招集し増産を要請した。当日欠席した1社を含めると要請先は24社。大臣が直接各社に要請するほど医薬品不足は深刻な社会問題になっている。

能登半島地震で工場被災 追加の限定出荷発生

 さらに24年1月1日には能登半島地震が発生し、製薬企業が多く工場を持つ富山県、石川県の工場が被災した。一部の工場で復旧に時間を要しておりすでに一部の製品で追加の限定出荷を行う動きが出ており不安材料になっている。
 日薬連の医薬品の供給調査は調査結果が出るまで1カ月の時差があるため、能登半島地震が供給に与える影響が分かるのは24年2月以降になりそうだ。
 大手の沢井製薬と東和薬品は工場の設備投資を行い、増産体制を構築中だが業界関係者からは「工場の増設による増産は一定の時間がかかるため新たな不正製造が起きないことを前提に正常化まであと3年かかる」との見方が出ている。医薬品不足は当面続きそうな雰囲気が濃厚だ。調査結果を知らせる記事の見出しに「改善」の文字が入るのはいつになるのだろうか。

 

PDFでご覧になる方はこちら