医療機関・薬局の協力が不可欠 GE企業指標と安定供給確保
報道局 海老沢 岳
2024年度薬価制度改革で試行導入される後発医薬品の「企業指標」について、日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)の高田浩樹会長は今年1月のGE薬協の賀詞交歓会の挨拶で「歴史的な一歩」と表現した。厚生労働省が、安定供給体制を整えている企業を評価する方針を打ち出したことがその理由だ。
●これまでは価格重視
患者が医療機関から出された処方箋を持ち薬局で後発品を受け取る際に事実上、どのメーカーの薬を選択するかは医療機関、薬局にほぼ一任されている。医療用医薬品はメーカーが直接患者に宣伝することは禁止されており、そもそも患者は薬剤選択の情報を持ち合わせていない。
では医療機関、薬局はどのように薬剤を選択しているのか。新薬だったら臨床試験で有効性、安全性の結果が出るためまさに実力勝負で採用が決まる。半面、後発品の場合、これまではどれだけ安価に提供できるか、価格が重視されてきた。
より安価に医療機関、薬局の求めに応じた数量を提供することを追求した結果、小林化工を皮切りに、製造管理と品質管理への投資を怠り不正製造を行った企業がGMP違反で相次いで行政処分を受ける事態となった。
行政処分を受けると不正を行った製品を承認規格に適合させる改善作業のため、自社理由による長期間の出荷停止を行う必要がある。
不正を行った複数の企業で製品の出荷が一時的に止まったことを発端に市場全体の供給に余裕がなくなったことが、今の医薬品不足の要因とも言える。
●安定供給の取り組みを評価へ
後発品企業の中には、安定供給の観点からコストをかけて原薬を複数ルートから購入したり、同一製品を国内2カ所の工場で製造したりするなどリスク分散を図るとともに、原薬の製造国の公表も積極的に行い、GMP違反を起こしていない企業もある。
これまで製造管理や品質管理は実施されているのが当然とされており、こうした取り組みはあまり評価されてこなかったが、不正製造の問題が明るみに出るにつれ、安定確保への積極投資を行っている企業に注目が集まっている。
そうした流れの中で、安価である以上に安定供給に価値を見いだそうと厚労省が24年度に試行導入したのが後発品の企業指標だ。
後発品の安定供給の実績と薬価の乖離状況の2つの項目で企業を評価し、企業指標Aを獲得した企業で、後発品の平均乖離率以内などの条件を満たす品目は24年度薬価改定で3価格帯とは別の高い価格帯で薬価が付くことになる。
企業指標の評価項目の1つには自社都合による出荷停止の割合が多いと減点になる仕組みがあり、仮に品質問題をきっかけに多くの製品が同時に出荷停止となると大きな減点となる。
一方、安定供給を維持し他社が出荷停止になった品目に対し自社品を追加供給した場合は加点となる。
また24年度薬価改定には反映されなかったが、企業指標としては原薬の複数ソース化を評価する項目や安定確保医薬品について一定以上の余剰製造能力を評価するものもある。
企業指標には、別の高い価格帯の付与をインセンティブに企業に安定供給の取り組みを推進させる狙いがある。
●同時に流通改善も必要
日刊薬業が官報告示に合わせて行った24年度薬価改定に関するアンケートで、主要な後発品メーカーに企業指標について聞いたところ、回答した6社のうち3社は「評価はまだ分からない」と答えた。このうちの1社は企業指標を必要としつつ、乖離率など企業努力だけでは対応できない評価項目もあるため流通改善を同時に進める必要があると指摘していた。
卸と医療機関・薬局が総価取引で後発品の納入価を決め、後発品の平均乖離率を超えると企業指標の別価格帯を得られない。企業指標でA評価を得るために後発品メーカーが努力しても流通改善が進まなければ、それは無駄骨となる。
「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」(流通改善ガイドライン)には原則全ての品目で単品単価交渉を行うことが明示されており、卸の対応も問われている。
また最も重要なのは医療機関、薬局が安さだけを追い求める購買方針を改めることだ。
企業指標で別価格帯となった製品は暗に厚労省が安定供給にお墨付きを与えた製品だ。これらに対し強引な値下げ交渉を行うのは本末転倒だろう。
さらに値引き交渉に応じる他社製品に需要が集中するのも企業指標の趣旨に反することになる。
企業指標の各評価項目の達成度合いについては、後発品各社が今年6月以降、各社のホームページで公表する予定だ。
長引く供給問題を解決するためには、後発品の企業指標の導入を機に後発品企業が安定供給に向けた取り組みを強化するとともに、価格交渉において安さだけを追求するのではなく、安定供給に向けた企業の取り組みにも目を向けるといった医療機関や薬局の理解や協力も欠かせない。