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月刊JGAニュース

テバが国内GE撤退宣言、社員に動揺も  安定供給し軟着陸を  

株式会社じほう
報道局 海老沢 岳 氏

 イスラエルのテバファーマスーティカル・インダストリーズが海外の投資家向けの決算説明会で突如、日本の後発医薬品事業を2025年中に売却する方針を宣言した。矢面に立たされたのは武田テバファーマだ。同社は21年から収益が見込める長期収載品とオーソライズド・ジェネリック(AG)に主軸を置く改革に着手し、業績も改善傾向に転じたばかり。そうした中でのグローバルアナウンスに社内でも動揺が広がった。武田テバ社員からは「動揺がないと言えばうそになるが、今は目先の安定供給に努めるしかない」との声が聞かれる。

 

●黒字化後、間もなく売却

 テバ社は11年に、当時国内の後発品売上高が第3位だった旧大洋薬品工業を買収。その後、テバ製薬として取り扱う製品数は900品目まで拡大した。16年10月にはテバが51%、武田薬品工業が49%を出資する合弁会社を設立し、社名も「武田テバファーマ」に変更して再出発した。

 官報によると、武田テバは初年の17年こそ純利益は黒字だったが、その後は4年連続で赤字続き。大洋薬品から引き継いだ品質の安定性確保が難しい製品の改良や、大洋時代に行政処分を受けた高山工場の立て直しで苦しんだ。当時の松森浩士CEO兼社長は18年に、品質の改良が見込めない後発品103品目の販売を中止にした。

 さらに21年2月までに、高山工場と後発品486品目を日医工に譲渡する決断もした。高山工場は大型製品の生産には適した設計だったが、同社の製品がいずれも高いシェアとは限らず、生産効率をどう高めるかが課題だった。そこで高山工場を手放し、製造を受託に切り替え、取扱製品を収益性が見込める170品目(新薬1、長期収載品95、後発品74〈うちAG23〉・23年6月時点)にまで絞り込んだ結果、直近22年の決算では純利益が5年ぶりに黒字に転じた。

 こうした中での売却宣言だった。テバ社は国内後発品事業を手放す理由を明らかにしていないが、米国の新薬事業に投資を集中したいのではないかとの見方も出ている。

 

●新薬開発に資源集中か

 武田テバの設立に関わった業界関係者は「グローバルの新薬開発が進んでいるため、そちらに経営資源を差し向けたいのだろう」と分析する。統合失調症治療薬オランザピンの月1回皮下持続型注射剤は臨床第3相(P3)試験で良好な結果を出したほか、P2やP3にも複数の開発品が控えている。

 また日本国内の特許切れ品市場に厳しさを感じていたようだ。毎年の薬価改定に加え、10月から長期収載品に選定療養費制度が導入される。武田テバは長期収載品38品目が選定療養の対象になり、これらは後発品への置き換えが進む可能性がある。

 

●売却方法に業界注目

 テバ社の経営陣は決算説明会で、日本からの完全撤退については否定した。ただ今後、どのようなシナリオで後発品事業を売却するのかは分からない。売却にはいくつもの選択肢が考えられるが、テバの持ち分51%を武田薬品が全て引き受ける可能性は低そうだ。武田薬品は新薬開発に集中するために長期収載品を武田テバに移管した経緯があるからだ。

 テバ社の発表には、国内の後発品業界も注目している。ある大手後発品企業の関係者は「成分内のシェアが高いAGは魅力。譲渡価格次第だ」とし、食指を伸ばしている。

 一方で、別の大手後発品企業関係者は「外資や新薬メーカーの子会社は、市場のうまみがなくなれば『撤退、はい、さよなら』と都合が良すぎる。文化が違うし、(武田テバに)興味ない」と述べ、資本提携はないと強調していた。

 卸の幹部は「メディパルホールディングスが日医工や共和薬品工業に資本参加しているが、後発品業界の先行きは明るいとは言えず、よく分からない」と述べ、自社としては有望なバイオベンチャーに資金提供する方向だと語った。

 医療関係者からは「医薬品不足がさらに悪化する方向にだけはなってほしくない」との声も出ている。

 先月、厚生労働省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」は、5年程度の集中改革期間を設定し、後発品企業の業界再編を促す施策を提案した。その報告書の取りまとめを待たずして、早々にテバが事業再編を宣言した格好だが、供給不安を起こさない形で軟着陸してもらいたい。