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月刊JGAニュース

医薬品の供給不安で考えるジェネリックメーカーの使命  

 株式会社ミクス
ミクス編集部 デスク 望月 英梨 氏

 「意図的限定出荷に当たるのではないか。企業のご事情もあるかと思うが、できる限り慎んでいただきたい。企業のホームページには、“患者さん中心”、“サービス・テクノロジーで患者さんに貢献”、“常に人々の健康を守るために薬を提供する”と書いてある。社是も含めて企業が表明している。企業には利潤を追求するという形もあるが、薬価削除や不採算を理由とした限定出荷は本来から見れば、国民に対する裏切りではないか」-。8月8日の医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議で、宮川政昭構成員(日本医師会常任理事)は、こう指摘した。
 限定出荷・供給停止の品目は22%(2024年6月時点)にのぼるなど、医薬品の供給不安が長引いている。複数の要因が複雑に絡まっていることも指摘されているが、特に他社品が限定出荷や供給停止をしたことによる玉突きで限定出荷などに踏み切る「他社品の影響」を理由とする品目が多い。一方で、他社品の影響により、限定出荷などに踏み切る要因は十分に解析されておらず、低薬価品などで採算が難しいケースで“意図的限定出荷”とも呼べる企業の都合による限定出荷などが行われているとの声もあがっていた。

 厚労省が需要量の季節変動が少ないと考えられる慢性疾患治療薬で、規格内の限定出荷品目数が比較的少ない68品目31社を対象に試行的調査を行ったところ、原材料調達の問題など解除が難しいケースがある一方で、企業努力で限定出荷が解除できる品目が22 品目(約32%)を占めていた。特に、問い合わせをきっかけに解除が可能と判断されるケースや、限定出荷を続ける理由が曖昧なケースのほか、薬価削除願提出前であるにもかかわらず、薬価削除に向けて対応中であることを理由に限定出荷としている製品や、不採算を理由に、限定出荷又は供給停止を続けている製品もあった。「他社品の影響」として限定出荷の解除に踏み切れないと報告されている品目の中に、不採算による薬価削除や販売中止を予定するなど、自社事情を理由とした限定出荷が含まれていることが浮かび上がってきた。

 このため、厚労省は、企業に対応を促すことで限定出荷の解除が可能と考えられる事例について改めて自社製品の供給状況を確認し、限定出荷の解除が可能となる具体的要件を明確にするよう働きかけを行った。また、薬価削除願が受理されるまでは安定供給の責務があるため、単に不採算であることをもって限定出荷とすることは適切ではないことを周知しているという。

 全ての医療用医薬品に範囲を拡大し、「通常出荷品目の割合が数量ベースで多い成分規格」で、限定出荷(他社品の影響)となっている373品目についてさらなる調査を実施。厚労省が解除するよう働きかけを行ったところ、「解除につながった又は解除時期が明確になった」品目が73品目(約23%、解除可能:23品目、条件付きで解除可能:50品目)あった。他社事情と報告されていたが、自社事情に報告の変更を求められた品目が59品目。このうち、薬価削除を予定している品目が32品目、販売中止を検討するなどしている品目が27品目あった。一方で、単に企業に対応を促すだけでは解消できない品目も残ることから、限定出荷解除の可否をより具体的に検討するための方策について、独禁法等の競争政策上の観点にも留意しつつ検討する姿勢を示している。

 企業として限定出荷・供給停止の解除に踏み切る動きも出てきている。サワイグループホールディングスの澤井光郎代表取締役会長兼社長は8月9日の第一四半期決算会見で、29品目の限定出荷を解除することを明らかにした。限定出荷・出荷停止となっていた198品目の4割に当たる約80品目を解除する品目の候補としており、残り50品目も順次追加で解除する予定。同社は、第二九州工場の新固形剤棟を今年7月に稼働を開始しており、27年には35億錠の生産能力にまで増強することを計画する。澤井会長は、「第二九州工場製造品で現在出荷制限をしている品目を中心に生産数量の拡大を行うことで、積極的な限定出荷解除につなげる」と強調。増産体制の構築を通じて、安定供給に注力する姿勢を強調する。

 一方で課題もある。澤井会長は「各品目の不足量全体が不明な中での限定出荷の解除となる。市場動向次第で、再度限定出荷となる可能性をはらんでいるが、弊社29品目の限定出荷解除を機に、業界全体での積極的な限定出荷解除につながることを期待している」と強調した。

 今年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)では、「安定供給に係る法的枠組みを整備する」と明記。医薬品等の安定供給確保に係るマネジメントシステムの確立に向けた議論が今後進むことも想定されるが、まずは企業としていかに医薬品の安定供給に取り組むか。個々の企業の取り組みに注目したい。