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月刊JGAニュース

沈黙が語るもの—ハン・ガン『少年が来る』を読んで  

 2025年、新しい年の始まりに、静けさを纏った一冊の本を手にしました。ハン・ガンの『少年が来る』。1980年の光州事件を背景に、人間の記憶と苦痛、そしてその先に見出される希望を描いた物語です。

 その中心にいるのは、ドンホという一人の少年。彼の死はただの個人的な悲劇ではなく、時代の残酷さを象徴する出来事として深く心に刻まれます。しかし、この物語がただの嘆きや悲しみに終わらないのは、ハン・ガンがそこに沈黙の力を見出し、描き出しているからです。彼女は、この沈黙を「ただの空白ではなく、記憶や抵抗を宿した表現」として捉えます。そして、語られなかった声が、静けさの中で強く響く様子を読者に伝えるのです。

 私はこの沈黙に触れながら、私たちの仕事について考えました。ジェネリック医薬品という分野に携わる日々の中で、私たちもまた、多くの「声なき声」に応えることを目指しています。薬を手に取る患者さんの不安、期待、そして時に沈黙の中に潜む信頼や疑念。それらに気づき、その一つひとつに応えることが、私たちの責務なのだと感じました。

 ジェネリック医薬品は、経済的な負担を軽減し、多くの患者さんに医薬品を届ける重要な役割を担っています。しかし、それは単なる「代替品」ではありません。その背景には、「選ばれる薬」であるための努力が欠かせません。品質を保証し、透明性を保ち、患者さんが安心して手に取れるようにする。これらの営みは目立つことはなく、まさに沈黙の中で築かれる信頼にほかなりません。

 『少年が来る』の物語の中で、人々は暴力の記憶と向き合い、それを未来へとつなぐために生きています。それは、過去をただ記憶するだけではなく、その痛みを糧により良い未来を目指す姿です。この姿勢は、医療を取り巻く環境が変化し続ける現代において、私たちの仕事にも通じるものがあるように思います。患者さん一人ひとりの生活に寄り添い、安心と信頼を届けること。それが、私たちが目指す未来の一端です。

 ハン・ガンの筆致は、静けさの中に宿る強さを描きます。それは、沈黙を通じて記憶や痛みを共有する人々の姿であり、言葉にされない真実をすくい上げる手法です。私たちが提供する薬もまた、言葉を超えた信頼を通じて、患者さんの生活を支える存在でなければなりません。それが、私たちの仕事の意味であり、未来に向けた責任だと信じています。

 2025年が、皆さまにとって健康と希望に満ちた一年となることを心より願っています。そして、私たちもまた、信頼される医薬品を届けるという目標に向かって歩みを進めてまいります。この新しい年が、静かでありながら力強い変化の年となることを願ってやみません。

(Y.S)