後発品基金、企業は歓迎 薬価・薬事に課題の声
報道局 海老原 岳 氏
厚生労働省が創設する「後発医薬品製造基盤整備基金」に対し、後発品企業の関係者から賛同の声が上がっている。業界が特に期待しているのは、設備投資に対する補助金だ。ただ、実際に受ける恩恵の大きさは、企業の事業規模によって異なりそう。また後発品の業界再編に向けた課題も浮かび上がってきた。
日本ジェネリック製薬協会会長の川俣知己氏は自身が社長を務める日新製薬の立場に立って「各社が得意とする品目を統合することで、原薬のバイイングパワーが増し、調達コストの削減と採算の改善につながる」と話す。また品目統合の際に、自社か他社のどちらかが得意な品目の製造を請け負えば、もう一方の製造余力を確保することができ、業界全体の生産効率向上が期待できると指摘する。
一方、大手後発品企業の関係者は、「既に大きな市場シェアを持っているため、品目統合の受け皿になったとしても、さほど原薬調達コストの削減効果は受けられない」と指摘。ただ「品目統合の受け皿となり、製造ラインを増設する際には基金の支援を受けられる点はありがたい。国の方針に従い、増産に積極的に取り組み、再編に協力していく」と述べた。
●品目絞り込みが本格化
医療用医薬品の供給不足問題が長引いている。その要因の一つとして、後発品業界における「少量多品目生産」による生産効率の低下が指摘されてきた。現在は多くの企業が同じ品目を個別に生産しており、生産ラインの非効率性が問題視されている。
この問題を解決するため、厚労省は企業間の品目統合や事業再編を促す施策を打ち出した。具体的には、同じ成分の医薬品を製造販売している企業間で品目を集約し、統合先企業の製造設備の拡充費用の一部を補助する。また企業買収時に行う投資リスクの調査・分析費用も補助対象に含めることで、円滑な再編を支援する。
厚労省はこの政策に、2024年度補正予算事業で取り組む。基金の創設に先立ち、試験的に実施する方針で2月25日には事業への参加を募集する公募も始まった。事業の進捗を踏まえながら、26年度の概算要求に基金の予算規模を盛り込む。
また厚労省は業界再編の目安として、「1成分当たり5品目」を掲げてきた。25年度薬価改定では、同一成分内で市場シェアが3%以下の品目がある場合に、後発品の企業指標で減算される仕組みが導入される予定であり、業界は厚労省が本格的に品目の絞り込みを進めるとみている。
●深刻な人手不足
再編を進める上で大きな課題の一つに、人手不足がある。日本全体で賃上げが進む中、他業種との人材獲得競争が激化しており、新たに製造ラインを増やしても、十分な人員を確保するのが困難な状況だ。
日新製薬は山形県天童市に生産能力10億錠の長岡工場を竣工するが、人手不足のため、既存工場の稼働率を下げて、工員を新工場に派遣することで稼働に備えているという。また大手後発品企業の関係者も、「年間数%の従業員が離職するため、採用にはいつも苦労している」と明かす。工場の自動化や省人化対応にも限界があるため、増産に取り組んでいる品目に限って、薬価を引き上げるなどの対応を求めている。
●厚労省、規制面でも支援
業界関係者からは、業界再編促進策に伴い、薬事上の手続きを円滑に進める措置を求める声も多く上がっている。増産に伴い製造設備を変更したり、使用する原薬を切り替えたりする際に、迅速に一部変更承認申請が認められるよう求めている。
こうした要望を踏まえ、厚労省は、後発品の品目統合にかかる薬事手続きの標準的事務処理期間を、通常の6カ月から1カ月半に短縮する特例措置を設けた。4月1日の申請分から適用する。
さらに2月17日の「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」で、後発医薬品企業同士が品目統合する際の交渉プロセスで独占禁止法に違反しない事例集をまとめたことを報告した。
●後発品業界再編は進むか
事業再編を進める企業に国が資金支援する補正予算の公募が始まったほか、薬事規制、統合に伴う独禁法の回避法など厚労省は矢継ぎ早に環境整備を進めている。厚労省からは少量多品目生産の是正と業界再編を貫徹させたい意志が伝わってくる。こうした支援を踏まえ、後発品各社は、自社の強みを生かしつつ、業界再編にどう取り組むかが問われている。