知らなくていい豆知識「FPSゲームについて」
FPSゲームとは、First Person Shootingゲームの略であり、プレイヤーは操作するキャラクターの本人視点でプレイし、キャラクター自身になっているかのようなリアルな体験が味わえるのが魅力である。
FPSのジャンルは主に戦場やサバイバルといったガンシューティングがメインとなっているものが多く、そのため年齢制限が課されているタイトルもある。
このジャンルのゲームを世界的に有名にしたのは、「バトルフィールド」や「コール オブ デューティ」といった戦争ゲームが挙げられるだろう。近年では、家庭用ゲーム機やスマートフォンでプレイできるタイトルも数多くあり、「APEX」や「フォートナイト」などは若年層にも人気のスポーツ系FPSである。
私が普段プレイしているのはARENA BREAKOUTというモバイル版のゲームで、リアルさに拘ったハードコアな戦争ゲームである。本ゲームの目的は、ゲームマップの中の物資を取得し無事に脱出することにあるのだが、得た物資はプレイ後にゲーム内通貨に換金することができ、銃や防具、医薬品や食料などの装備を購入するための資金となる。当然のことながら、戦場で有利な装備は高額であるのでプレイヤーは必死でマップ上の施設や民家などにある高額物資を漁り散らかすのだが、このゲームの恐ろしいところは取得できる物資の中に他プレイヤーの装備品も含まれるということである。
つまり、高額で強力な装備を纏い意気揚々とプレイしても倒されたら敵に奪われ裸で帰ってくる羽目になるということである。当然、装備に使用した通貨は補填されず、マイナスということになる。
ここまでで察しのいい諸兄ならお分かりだろうが、このゲームにはプレイ中に再出撃という概念がない。「倒されたらそこで終わりですよ。」という諸行無常の鐘が鳴り響いているのだ。私のような弱小プレイヤーは出撃1分後に裸で帰宅なんてことが幾度となくあり、悔しさで枕を濡らす夜もざらである。しかし、涙の数だけ強くなれるよ、アスファルトに咲く花のように1)と自分に言い聞かせながら、倒されても倒されても何度でも立ち上がるのである。
さて、ここからは記憶に残るプレイを1つご紹介したいと思う。
時は西暦2023年、季節は秋だったか。少し肌寒さを感じていた頃と記憶している。テレビのニュースではR国とU国の戦況を連日報道しており、私はのんきに戦争ゲームに興じる中、平和ってステキ。などとうつつを抜かしていた。
その時のプレイは初めて行くマップで、右も左もわからないのだが、迷子にならぬようランダムに選ばれた3名のチームメイトの後を追いかけるように移動した。3名のチームメイトの中で日本人は私のみで、他は皆外国のプレイヤーだった。その中に1人ポーランド人が混ざっていて、「え?お前、隣でガチのやつやってんじゃん。」と思った記憶がある。
マップを進んで行くと、あちらこちらで銃声が鳴り響いていた。おそらく敵である他チームが交戦中なのであろう。私は、倒されまいと慎重に物資を漁りながら、物陰に身を潜める。仲間も同様だ。通路奥に敵が潜んでいないか。遠距離から狙撃されないか。階上から狙われていないか。いつ撃たれるかわからない状況下で耳と目を凝らし感覚を研ぎ澄ませる。
とは言え、物陰にうずくまっていても戦果は得られない。敵がいないことを確認すると我々は移動を開始した。途中、ボットと言われるNPC2)を倒しながら進んでいく。施設内には数多くの部屋があり、アイテムボックスが存在している。また、通路は入り組んでおりさながら迷路のようであった。仲間たちは手慣れた感じで目的の部屋に進んではアイテムを拾っていて、迷子にならぬよう必死なのは私だけのようだ。
突如、仲間からチャットメッセージが送られてきた。
「敵を見つけた」
一瞬で緊張感が走り、場が凍り付く。静寂の時が流れていく。
私は索敵をするのだが、敵を目視できない。下手に動くと瞬殺されるため動けないでいると、近くで銃声が鳴り響いた。銃撃戦が始まったようだ。
私は、後方から射撃し応戦した。仲間も奮闘しているようであるが、1人、2人と倒されているのが確認できた。恐ろしくなった私は、小部屋でひっそりと傷の手当てをしながらマガジンに弾を込めつつ隠れることにした。
しばらくすると銃声が止み、静かになった。ほどなく、ガサガサと物資を漁る音が聞こえてきた。敵が仲間の物資を漁っているのだろうか。敵の人数もわからない中、部屋から出て行くこともできず、敵が去るのをひたすら待った。もちろん、銃口はドアに向けられたままである。生きた心地がしないとはこのことで、自分の心臓の鼓動が聞こえていた。
ガサガサ音が止み、敵が立ち去る足音が聞こえた。私は、コソコソと小部屋から出て、この薄汚い戦場から抜け出すべく脱出口に向かって歩き出した。
ところが、私はこのマップが初めてなので、脱出口までの道順が分からない。マップは確認することができるのだが、迷路のような通路なのでどこをどう通って行けばいいのかさっぱり分からないのである。
とりあえず、脱出口をマーキングして縦横無尽に右往左往していると、ボイスチャットで誰かが話しかけてきた。
話しかけてきたのは、倒された仲間のポーランド人らしい。どうやら、道に迷っている私に助け船を出してくれているようなのであるが、いかんせん何を言ってるのか全然分からない。そもそも、このゲームにおいて自身が倒された後でゲーム内に残って観戦することすら希なのだが、味方を助けるなんてあってはならないお人好しである。懸命に行き先を指示しているのに全くとんちんかんな動きをしている私を見かねて、ボイスではなくテキストチャットで指示を出し、「右」「左」と誘導してくれるようになった。ちなみに、テキストチャットでは自動翻訳となっていて、どんな言語でも私が登録している「日本語」で表示されるようになっている。
私は、最初からテキストで言ってくれよ・・・とブツブツ文句を言いながら、神のお告げを頼りに脱出口に向かう。ゲームの残り時間が10分を切り時間表示が赤くなる。私は、かなり焦りだした。なぜなら、誘導してくれているにも関わらず、迷路が全然わからず脱出口にたどり着く気配がないからだ。残り時間が0になると脱出失敗とみなされ装備が全て没収される。
悪戦苦闘しながらも私が脱出口に徐々に近づいていくと、ポーランド人の彼の声も熱を帯びてくる。相変わらず何言ってんのかさっぱり分からないが、応援してくれているらしい。
終了1分に迫ったところで、脱出口が見えてきた。ポーランド人の彼の声はもはや歓声へと変わっていた。私は、とうとう脱出口ポイントに到達し10秒の脱出カウントダウンを待つ間、彼に一言だけ「Thanks」と言い残し、無事脱出することができたのであった。
ゲーム終了後、私は、彼の優しさに改めて感銘を受けていた。この奪い奪われる薄汚い戦場でこれほど優しいプレイヤーは1500戦くらいプレイした中で彼以外にはいなかった。私は、彼とのプレイを思い返すうちにあることに気付いたような気がした。
彼は、隣国が戦争状態になっていることを憂慮し、このFPSゲームを通して「こんな戦地でも人の優しさはあるんだよ。人は、言葉は通じなくとも、愛情を持って接すれば必ずわかり合えるんだ。人がしなくちゃいけないのは、憎しみ合うことなんかじゃない。愛し合うことなんだ。」と訴えたかったのではないだろうか。
自国第一主義を掲げる国の台頭によって、分断を極めていく世界において、我々が本当に大事にしていかないといけないものは何なのかということを改めて考えさせられるような気がした。
このゲームでは、誰一人倒さなくてもクリアすることができる。心優しい彼はきっとボットであっても一人も倒さずプレイしていたに違いない。そう思った私は、戦闘記録から彼の撃破数を確認してみた。
うん。チームの中で一番倒してた。
1) ※作詞:岡本真夜/真名杏樹作曲:岡本真夜, 1995年 「TOMORROW」からの引用
2)ノン・プレイヤー・キャラクターの略で、人が操作しないコンピューター制御のキャラクターのこと