医薬品を高い品質で安定して製造するためには、その製造方法は適切に確認・検証し手順化される必要があります。この確認~検証~手順化の流れをバリデーションといいます。バリデーションを実施するためには、医薬品開発、工業化研究や類似製品に対する過去の製造実績等の知識や情報を活用して、製品品質に影響を及ぼす種々のリスクを特定し、そのリスクが問題にならないような製造方法や製造条件を設定することが必要です。
更に、適切なバリデーションを実施するためには、バリデーションの実施に必要な各種手順書が制定されていること、バリデーションを実施するための準備業務が完了していること及びバリデーションを適切に評価できる検証の方法が確立していることが必要となります。
品質リスクの特定と管理
プロセスバリデーションの前提として、工程での品質リスクの特定とその管理方法(製造手順)が適切に設定されている必要があります。プロセスバリデーションでは、設定された製造手順が特定された品質リスクを適切にコントロールできる能力があるかを検証していると言い換えることもできます。
製剤を事例として、医薬品開発、工業化研究、技術移転、PQ での品質リスクの特定と管理方法の設定に対する概念を以下で説明します。
○ 医薬品開発
医薬品開発では、目標とする品質・特性等を目指した製剤設計が行われます。このステップは、以降のステップで特定・管理することになる品質リスクが誕生するステップです。目標とする品質・特性等を目指しつつ、製剤の品質リスクを低減できるような処方や製造方法が選定される必要があります。
○ 工業化研究
工業化研究では、医薬品開発で選定された処方・製造方法に対して、実生産機で目的とする品質の製品が得られるような製造条件の検討が行われます。遅くとも、工業化研究の段階で製品品質に影響を及ぼす品質リスクが特定されている必要があり、工業化研究で品質リスクが危害化しない製造条件の範囲等が模索され、PQ で検討される製造条件が選定されることになります。
○ 技術移転
開発部門と生産部門の間及び工場内又は工場間で製品及び製造プロセス(試験検査)の知識を移転することです。技術移転でのリスクは、移転すべき技術・情報等の文書化の不十分さが挙げられます。そのリスクを低減するための要点には以下のようなポイントがあります。
・製造手順や試験検査手順を提供するだけでなく、その手順を設定した根拠や失敗事例も含めて徹底した知識の移転が必要です。
・移転元と移転先で設備機器が全く同一の設備・仕様であることは非常に少なく、移転元と移転先での設備の詳細な仕様(容量、形状、パーツの設置位置等)の差異を確認し、その差異が製造手順等に影響しないか注意する必要があります。
・技術移転時に、技術移転先の作業者が移転された製造手順書等に基づいて実施する作業(製造行為など)を技術移転元の技術者が確認することは有効な確認方法です。
○ 性能適格性評価(PQ)
医薬品開発で処方・製法が設定され、工業化研究で実生産での製造条件が予測され(必要な場合は、技術移転の実施)、予測された製造条件の適格性をPQ で検証することになります。
医薬品開発、工業化研究、類似製品に対する過去の製造実績等から当該工程のリスクの種類と大きさ等を明確にした後、PQでの評価対象、検討範囲をどのように設定するかなどを決めます。
JGAニュースNo127からの転載です