今回は我々製薬産業に関わりの深い診療報酬や薬価に係る議論の中心の場として機能している中央社会保険医療協議会(以下、中医協)についてご紹介します。以下に中医協の発足や委員構成、各部会等についてお示しいたします。
1.中医協の発足
中医協は、社会保険医療協議会法(昭和25年4月1日施行)に基づき設置され、診療報酬、薬価など、公的医療保険から医療機関に支払われる公定価格を決定する権限を有する厚生労働大臣の諮問機関とされ、「診療報酬」「保険医療機関及び保険医療養担当規則」及び「訪問看護療養費」に関する事項等について、厚生労働大臣の諮問に応じて審議・答申するほか、自ら建議することができる協議会とされています。
中医協設立以前は、診療報酬は昭和2年の健保法施行後、支払側(健康保険組合など)と診療側(医療機関)との契約により決められていましたが、昭和18年に日本医師会や健保連、国保など関係者の意見を聴いて厚生大臣が決定する仕組みに改められ、昭和19年には厚生大臣が診療報酬を定めるにあたって意見を聴くための組織として「社会保険診療報酬算定協議会」が設置されました。その後、昭和22年に同協議会は「健康保険診療報酬算定協議会」と改称され、昭和23年には再び「社会保険診療報酬算定協議会」に改称されるとともに、適正な保険診療の指導、監督を任務とする「社会保険診療協議会」が設置されました。
昭和25年4月、社会保険医療協議会法が施行され、「社会保険診療報酬算定協議会」と「社会保険診療協議会」とを統合し、「中央社会保険医療協議会」が設立され、同年6月に発足しました。診療報酬に関しては、診療報酬改定の基本方針を社会保障審議会の医療部会と医療保険部会の両部会が決定し、中医協は具体的な保険診療行為に対する公定価格(点数)を定める役割を果たしています。
2.委員構成
現在の中医協は、厚生労働省保険局医療課を事務局とし、委員は20名で構成されています。その内訳は、支払側委員(健康保険・船員保険・国民健康保険の保険者・被保険者、事業主、船舶所有者を代表する委員)が7人、診療側委員(医師、歯科医師、薬剤師を代表する委員)が7人、公益委員が6人となっています。そのほか専門の事項を審議するために、各部会、小委員会ごとに10人以内の専門委員を置くことができるとされています。私たちの業界に大きく関係する薬価専門部会には、製薬団体を代表する専門委員2名が参加しています。
また、委員及び専門委員は、厚生労働大臣によって任命されます。委員の任期は2年で、1年ごとに半数が任命され、会長は公益委員のうちから委員の選挙した委員が努めます。
中医協の長い歴史において、委員構成にはいくつかの変遷がありました。中医協発足当初の委員は、保険者の代表(6人)、被保険者・事業主等の代表(6人)、医師、歯科医師及び薬剤師の代表(6人)、公益代表(6人)の計24名で構成されていました。
しかし、昭和30年代前半に診療報酬の甲乙表告示や診療側委員任命を巡り中医協が空転したことを理由に委員構成見直しの機運が高まり、昭和36年10月、従来の四者構成から三者構成へ組成する法律案を国会に提出することになり、「社会保険審議会及び社会保険医療協議会法の一部を改正する法律案」が成立し、同年11月に施行されました。これにより、中医協委員の構成は、従前に保険者と被保険者・事業主等に分かれていた委員を支払側としたことと、診療側委員については医師会5名、歯科医師会2名、薬剤師会1名に変更となりました。この支払側委員・診療側委員・公益委員の8・8・4の三者構成は、中医協を巡る贈収賄事件*をきっかけに中医協の在り方が見直され、平成19年に委員構成が変更されるまでの間、約45年続くこととなりました。
*平成14年度診療報酬改定における「かかりつけ歯科医初診料」の算定要件の緩和等について、一部の診療側委員及びその推薦団体が、自己に有利なものとなることを目的として、一部の支払側委員に対し、金品の授与による不正な働きかけをしたとして、平成16年4月から5月にかけて7名に及ぶ委員等の逮捕者を出した事件。 |
贈収賄事件をきっかけとし、平成16年10月に中医協として当面速やかに取り組むべき改善策を取りまとめ(中医協全員懇談会了解)、「中医協委員の在り方として患者一般の声をより適切に反映できるような委員の任命」等が検討されました。また、内閣府の総合規制改革会議が中医協の在り方を見直すべきとの考えを示し、平成16年12月には厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣の間で「中医協の在り方の見直しに係る基本的合意」がなされ、第三者による検討機関である「中医協の在り方に関する有識者会議」(以下、有識者会議)の設置が決定されました。平成17年7月に有識者会議の報告書が取りまとめられ、同年12月には政府が取りまとめた「医療制度改革大綱」の中で、中医協の見直しとして、委員構成を公益委員6名、支払側委員・診療側委員各7名とすることと、中医協委員の団体推薦規定の廃止が明記されました。このような経緯により、現在の委員構成につながる見直しがなされました。
3.中医協の部会、小委員会について
中医協は、中央社会保険医療協議会議事規則の定めによって、特に専門的事項を調査審議させるために必要があるときは、その議決により、部会を置くことができるとされており、また、特定の事項についてあらかじめ意見の調整を行う必要があるときは、その議決により、小委員会を置くことができるとされています。現在は中医協総会の下に調査実施小委員会、診療報酬基本問題小委員会、薬価専門部会、保険医療材料専門部会、診療報酬改定結果検証部会、費用対効果評価専門部会の2小委員会・4部会が設置されています。
○調査実施小委員会
医療機関等の経営実態や保険者の財政状況の実態を調査し、診療報酬改定の基礎資料を整備する目的で「医療経済実態調査」というものが実施されています。医療経済実態調査について、当小委員会においてあらかじめ意見調整等が行われます。
現在の委員構成は、支払側・診療側各5名、公益委員4名となっています。
○診療報酬基本問題小委員会
中医協の所掌事務のうち、基本的な問題について、あらかじめ意見調整を行う場として設置され、診療報酬調査専門組織の各分科会からの報告内容等を基に検討が行われます。
現在の委員構成は、支払側・診療側各5名、公益委員6名、専門委員1名(日本看護協会代表者)となっています。
○薬価専門部会
薬価問題全般について専門的な見地から検討を行うため、平成2年12月7日から10回にわたり会合が持たれ、平成3年5月に中医協建議「新薬の薬価算定を含む薬価問題全般について」が取りまとめられました。
平成11年には、薬価算定ルールの明確化及び薬価算定手続きの透明化等に関する検討が行われ、同年9月の中医協総会で、薬価算定ルールの見直し等について検討する場として、薬価専門部会の設置が決定されました。この設置により、平成11年以降、薬価制度改革については基本的に薬価専門部会で議論されることとなり、薬価改定に資する薬価調査の実施案について審議し、総会に報告することとなっています。
現在の委員構成は、支払側・診療側各4名、公益委員4名、専門委員3名(製薬団体より2名、医療用医薬品卸団体よ1名)となっています。
○保険医療材料専門部会
保険医療材料の価格算定ルールや特定保険医療材料等の価格調査の実施案について審議し、総会に報告することとなっています。
現在の委員構成は、支払側・診療側各4名、公益委員4名、専門委員3名(医療機器団体より2名、医療機器卸団体より1名)となっています。
○診療報酬改定結果検証部会
「診療報酬改定の結果の検証を行い、診療報酬改定に係る議論に繋げていく」ことを目的として設置されました。中医協公益委員(6名)により構成されています。
改定の都度、診療報酬改定の結果検証のための資料を得る目的で診療報酬改定の結果検証に係る特別調査を実施しています。
○費用対効果評価専門部会
高額な医療技術の増加による医療保険財政への影響についての懸念から、医療技術の費用対効果評価の導入の検討が必要とされ、平成24年5月に費用対効果評価専門部会が設置されました。検討が重ねられていく中で、医薬品や医療機器等の保険適用に際して費用対効果を考慮することがクローズアップされ、結果、医薬品と医療機器を対象として平成28年度より「費用対効果評価」が試行的に導入され、2019年4月より費用対効果評価が制度化されました。
現在の委員構成は、支払側・診療側各6名、公益委員4名、専門委員4名(製薬団体より2名、医療機器団体より2名)となっています。
さらに、中央社会保険医療協議会議事規則に基づいて、中医協の外部組織として薬価算定組織、保険医療材料専門組織、診療報酬調査専門組織、費用対効果評価専門組織の4専門組織が設置され、総会はこれらの専門組織に意見を聴くことができます。
先に記載したとおり、薬価専門部会には製薬団体を代表する専門委員2名が参加しているほか、関係業界団体の意見陳述の際には、各団体の代表者が陳述する機会が設定され、日本製薬団体連合会の代表者を中心に陳述が行われますが、議題によっては当協会の代表者(主として会長)や海外製薬団体(PhRMA、EFPIA)の代表者が陳述することもあります。
※作成参考資料:日本製薬団体連合会保険薬価研究委員会「薬価基準総覧3~薬価研60周年記念~」
JGAニュースNo147からの転載です