今年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針20221)」の第2章「新しい資本主義に向けた改革」の1丁目1番地は「人への投資」です。
デジタル化や脱炭素化という大きな変革の中、人口減少に伴う労働力不足にも直面する我が国において、創造性を発揮して“付加価値を生み出していく原動力は「人」である”と明確に記載されました。
「人材投資」という言葉は「経済財政運営と改革の基本方針2017」から掲載されてきましたが、今回、載視された「人への投資」は新しい資本主義に向けて計画的な重点投資行う科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXに共通する基盤への中核的な投資と位置付けられています。
“人への投資”と分配
こうした考えの下、政府は、働く人への分配を強化する賃上げを推進するとともに、職業訓練、生涯教育等への投資により人的資本の蓄積を加速させます。あわせて、“多様な人材の一人一人が持つ潜在力を十分に発揮”できるよう、年齢や性別、正規雇用・非正規雇用といった雇用形態にかかわらず、能力開発やセーフティネットを利用でき、自分の意思で仕事を選択可能で、個々の希望に応じて多様な働き方を選択できる環境整備を進めます。
具体的には、成長分野における重点投資等を通じた質の高い雇用の拡大を図りつつ、「人への投資」を抜本的に強化するため、2024 年度までの3年間に、一般の方から募集したアイデアを踏まえた、4,000 億円規模の予算を投入する施策パッケージを講じ、働く人が自らの意思でスキルアップし、デジタルなど成長分野へ移動できるよう強力に支援することが示されています。
“企業統治改革”と“学び直し”の後押し
また、企業統治改革を進め、“人的投資が企業の持続的な価値創造の基盤”である点について株主との共通の理解を作り、今年中に非財務情報の開示ルールを策定するとともに、四半期開示の見直しを行います。男女の賃金格差の是正に向けて企業の開示ルールの見直しにも取り組みます。さらに、政府からの特に大規模な支援を受ける際には、人的資本投資などを通じ、中長期的な価値創造にコミットすることを企業に求めます。
あわせて、社会全体で学び直し(リカレント教育)を促進するための環境を整備します。学び直しによる成果の可視化と適切な評価、学び直し成果を活用したキャリアアップや兼業・副業の促進、学ぶ意欲がある人への支援の充実や環境整備、成長分野のニーズに応じたプログラムの開発支援や学び直しの産学官の対話、企業におけるリカレント教育による人材育成の強化等の取組を進めます。
“質の高い教育”の実現
特に「質の高い教育の実現」に取り組む姿勢が明示されており、本文のP6には、官民共同修学支援プログラムの創設、地方自治体や企業による奨学金返還支援の促進等、若者を始め誰もが、家庭の経済事情にかかわらず学ぶことができる環境の整備を進めるとあります。また、未来を支える人材を育む大学等の機能強化を図るべく、デジタル・グリーンなど成長分野への大学等の再編促進と産学官連携強化等に向け、複数年度にわたり予見可能性をもって再編に取り組める支援の検討や、私学助成のメリハリ付けの活用を始め、必要な仕組みの構築等を進めていくことが謳われています。
その際、現在35%にとどまっている自然科学(理系)分野の学問を専攻する学生の割合についてOECD諸国でもっとも高い水準である5割程度を目指すなど具体的な目標を設定し、今後5 ~10年程度の期間に集中的に意欲ある大学の主体性をいかした取組を推進することを示しました。若手研究者と企業との共同研究を通じた人材育成等により大学院教育を強化することも明示されています。
現在は下記のような分布となっています2)
国は、“あらゆる分野の知見を総合的に活用”し、社会課題への的確な対応を図る「総合知」の創出・活用を目指すとし、専門性を大事にしつつ、文理横断的な大学入学者選抜や学びへの転換を進め、“文系・理系の枠を超えた人材教育”を加速する方針を示しています。
この社会的な転換期に、老若男女、改めて「学ぶこと」の原点に立ち戻ってみてはいかがでしょうか?
“新しい世界”“新しい自分”に出会うチャンスとなるかもしれません。
<参考>
1):経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)
新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/decision0607.html
2):文部科学省「諸外国の教育統計」令和3(2021)年版
https://www.mext.go.jp/content/20210602170043-mxtchousa02-000015333_00.pdf
<参考>
【Factに迫る!】『人的資本経営』について(パート1、2、3)
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220901.html
JGAニュースNo175からの転載です