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後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業のこれまでを振り返って

三菱UFJリサーチ&コンサルティング

主任研究員

田極 春美

はじめに


 現在、平成30年度厚生労働省医政局経済課委託事業「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業」(以下、「ロードマップ検証検討事業」、「本事業」)が佳境を迎えている。本事業は平成26年度から開始し今年度で5回目となるが、長年、本事業や後発医薬品関連の調査を担当してきた者として、本事業の概要や、主な調査結果をもとにロードマップの実施状況等を紹介したうえで、今後の課題等について私見を述べたい。なお、本稿は本事業の検討委員会の議論等とは関係のないことをあらかじめお断りしておく。


ロードマップ検証検討事業とは


 平成25年4月に「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」(以下、「ロードマップ」)が公表された。このロードマップでは、後発医薬品の数量シェアを平成30年3月末までに60%以上とすること(その後、2020年(平成32年)9月までに80%となった)を目標に、(1)安定供給、(2)品質に対する信頼性の確保、(3)情報提供の方策、(4)使用促進に係る環境整備、(5)医療保険制度上の事項の5テーマについて、後発医薬品メーカーや業界団体、国、都道府県、保険者が取り組むべき事項を明記している。
 このロードマップ以前には、平成24年度をターゲットにした「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」(以下、「アクションプログラム」)(平成19年10月公表)があり、後発医薬品メーカーや業界団体の取組状況が毎年公表されてきた。
 ロードマップではアクションプログラムの大きな枠組みを踏襲しつつも、達成状況についてのモニタリング機能を強化している。具体的には、学識者・有識者、業界団体(メーカー・流通)や医療関係団体・保険者団体の代表者等を構成員とする検討委員会(座長:武藤正樹 国際医療福祉大学大学院教授)を設置した。これにより、関係者が一堂に会し、ロードマップの達成状況を評価し、さらなる使用促進策について具体的に議論・検討する場ができた。また、毎年、各種アンケート調査やヒアリング調査等を多面的に行うことで、ロードマップの取組状況や課題等を定量的にあるいは具体的に把握する仕組みができた。アンケート調査では、(1)後発医薬品メーカー調査、(2)医療機関・薬局調査、(3)都道府県調査を毎年実施しており、平成29年度事業ではこれに加えて、(4)長期収載品メーカー調査、(5)東京23区調査も実施した。また、メーカー・流通の業界団体や保険者団体、卸業者、国等に対するヒアリング調査も行っている。こうした時系列データの分析結果等をもとに、検討委員会では活発な議論が行われてきた。
 

ロードマップの実施状況等~モニタリング調査の結果から


 ロードマップ策定以降、毎年のモニタリング結果 から言えることは、後発医薬品メーカー(後発医薬品を薬価収載している製造販売業者。先発医薬品メーカーも含まれる)における各取組が着実に進展しているということである。日本製薬団体連合会の「ジェネリック医薬品供給ガイドライン」に準拠した「安定供給マニュアル」を作成している企業数は、平成26年11月は90社であったが、平成29年11月には151社にまで増加しており、対象企業の8割を超える状況となっている。日本ジェネリック製薬協会(以下、「JGA」)加盟企業に限定してみれば100%達成している。もちろん、マニュアルを作成していればそれでよいというわけではない。原薬の複数ソース化や安定供給に向けた体制の整備、品切れの把握状況、品切れが発生した場合の迅速な対応やその原因究明・再発防止等、安定供給を確保するための様々な取組についても進展がみられており、この点は高く評価したい。実際、昨年度の検証検討事業では長期収載品メーカーとの比較も行っているが、長期収載品メーカーと比較して遜色のない結果となっている。
 「安定供給」面以外にも、海外の製剤・原薬製造所に対する品質管理の状況を確認する計画の策定や、実地により品質管理の状況を確認した品目数といった「品質」面や、自社のホームページを通じた後発医薬品に関する情報提供といった「情報提供」面、錠剤への製品名・規格の印字や包装の差別化等の製剤上の工夫、一般的名称への切替、JGA等による医療関係者の理解を得るための情報提供(セミナー開催、工場視察など)などの「使用促進に係る環境整備」に関する取組なども着実に実施されている。
 都道府県の取組をみると、平成28年度には47都道府県中39都道府県で後発医薬品安心使用促進協議会(名称は都道府県によって異なる、以下、「協議会」)が設置・開催されており、過去に協議会を開催した都道府県を入れると、ようやく全ての都道府県が協議会の設置・開催経験を有する状態となった。協議会の構成員として保険者が参加している割合が高くなっており、都道府県の所管部署だけではなく国保担当部署をはじめ他部署の参加も多くなっている。これまで、医療関係者に協議会の活動が認知されていないという課題があったが、協議会の認知度を向上させるための取組を実施した都道府県数は、平成26年度は1件であったのが平成27年度には5件、平成28年度には16件と徐々に多くなっている。温度差はあるものの、全体的には都道府県の後発医薬品使用促進に向けた取組も進展しているといえるだろう。
 保険者については、アンケート調査ではなく団体等へのヒアリング調査・提供資料の結果に基づくが、加入者向けのジェネリック医薬品差額通知事業をはじめ、ジェネリック医薬品希望シールの配布、セミナーや広報誌による普及啓発活動など、後発医薬品使用促進に向けた取組が積極的に行われている。保険者によっては、差額通知発送後の後発医薬品への切替率や削減効果額を算出するなど、その経済効果も明らかにしている。全国健康保険協会では都道府県別に「ジェネリックカルテ」を作成し、各支部が後発医薬品使用促進のための戦略を検討する際の基礎資料を提供するなど、踏み込んだ取組も行われている。


1 詳細は厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/04.html)ご参照。ここでは、ロードマップ検証検討事業をはじめ、後発医薬品使用促進に関する様々な調査結果が公表されている。


 ロードマップに記載されている取組事項ではないが、医療機関や保険薬局、卸業者・販社は後発医薬品使用促進策上、極めて重要な役割を果たしている。医療機関や保険薬局の現場では、例えば、後発医薬品に関する情報収集・評価・選定や、院内システムにおける医薬品マスターの修正、関係者への説明、患者への説明等を行っている。こうした取組は、診療報酬や調剤報酬で評価されてはいるものの負担は大きく、さらに採用品目増加に伴う在庫負担や管理コスト等の負担も大きい。また、卸業者等は後発医薬品の安定供給だけではなく情報提供においても重要な役割を担っているが、後発医薬品のシェアが高まれば高まるほど売上単価が下がっていくため、効率化という経営課題との板挟みに置かれている。
 こうした関係者による取組の成果として、後発医薬品使用割合は平成25年9月には46.9%であったのが平成30年9月には72.6%と5年間で25.7ポイント上昇している2


 2JGAが定期的に公表している直近の数字(平成30年7月~9月)では73.2%となっている。

 

今後の課題


 ロードマップの期間に限定してみても後発医薬品使用は着実に進展しているが、「2020年9月までに後発医薬品使用割合を80%」という目標を達成するためにはいくつかの課題があり、より一層の取組が必要といえる。
 第一に、後発医薬品使用が進んでいない都道府県や地域、医療機関・薬局特性、患者特性、医薬品の種類等を明らかにした上で、原因とその対応策を検討・実施していくといったように、一律ではないミクロのアプローチが必要である。こうしたアプローチの中には、先進事例を共有化しつつ、関係者が協力しながら取り組んでいく必要があるものも多く、都道府県の協議会の活性化や地域レベルでの協議会の開催などが今後ますます重要になってくると思われる。
 第二に、後発医薬品だけではなく長期収載品も含めた医薬品全体の安定供給の強化である。特に原薬の安定的な調達が課題といえる。海外に原薬製造所がある後発医薬品メーカーは全体の87.4%を占め、製造所数ベースとなるが、なかでも中国、インド、イタリアが上位3位を占めている。これは後発医薬品に限定した話ではない。同じく海外に原薬製造所がある長期収載品メーカーは83.3%を占め、割合は後発医薬品よりも低いが、中国、イタリア、フランスが上位3位を占めている。コストとリスク回避とのバランスを各メーカーは考慮したうえで複数ソース化を進めているが、全体としてみた場合に、例えば、ある薬についてすべてのメーカーの原薬製造所が特定の国に集中してしまっていれば、カントリーリスクは回避できていないことになる。原薬の安定的な調達は医薬品の安定供給を確保する上で重要であることから、国として長期収載品も含めてその実態やリスクを把握するとともに、短期・中長期的な政策手段を考えていくことが必要である。


おわりに


 「後発医薬品使用促進策の意義は?」と問われれば、「患者負担の軽減」や「医療保険財政の改善」といったように、経済的意義を挙げる人が多いのではないだろうか。しかし、後発医薬品使用促進策の意義はそれだけにとどまらない。「なぜ後発医薬品なのか?」という質問者に対して、例えば薬剤師や保険者は、自己負担の軽減だけではなく、時として日本の医療保険制度を守るために必要であることなども説明している。こういった場面や資料を多く目にするようになった。JGAの「日本がもし1,000人の村だったら?」のパンフレット もその一つであり、業界団体が作成した資料として画期的といえる。
 国民皆保険となってからもうすぐ60年となるが、保険証1枚で比較的少ない窓口負担で医療機関を受診できるという医療保険制度はもはや“空気のような存在”となっているといっても過言ではない。しかし、急速な人口構造の変化や医療技術の高度化等により、その持続可能性が危ぶまれている。こういった問題は専門家の間や審議会等では散々議論されてきたことだが、医療現場で患者・国民に具体的に説明されることはほとんどなかった。「アクションプログラム」と「ロードマップ」という、10年以上にわたる本格的な後発医薬品使用促進策は、多くの医療関係者が医療保険制度を守ることの必要性を国民に直接訴える機会をつくったといえる。これまでの政策手段の中で、これだけ多くの関係者を巻き込んだ、医療保険制度の啓発活動は行われたことがなかったといっても過言ではない。医療保険制度を守るという意識を醸成してきたという点でも、後発医薬品使用促進策の意義を高く評価すべきであり、今後も医療保険制度の意義を皆がしっかりと考える取組が継続されることを願う。

JGAニュースNo.131(2019年3月号)