【Factに迫る!】『パーパス経営』について(PDF版)
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参考:https://www.jga.gr.jp/policy.html
現在、コロナ禍をきっかけとして、個人投資家や機関投資家の間で、社会課題を意識した投資行動が一層広がっているとされます。そこで注目されるのが、企業における「パーパス経営」です。“パーパス経営”とは一体どのようなものなのか?今回は、「パーパス経営」について迫って参ります!
①パーパスとは
パーパス(Purpose)とは、企業の社会での存在意義、社会的な存在価値についての言葉、概念です。
(図1)著者作図
②パーパス経営(図1)
新型コロナ感染症の影響等、私たちを取り巻く混沌とした環境のなか、どうすれば社会から選ばれる会社であり続けるのか。それには、これまで以上に企業の存在意義(パーパス)を明確化する必要があります。またその際、社会全体の課題解決を目指し、事業活動を通じて持続可能で健全な社会の実現に貢献することによって、社会から選ばれる企業であり続けることが可能になるかもしれません。
多くの企業ではこの「パーパス」を経営理念としてミッション(企業の使命)、ビジョン(将来像、ありたい姿)、バリュー(ビジョン達成のため不可欠な価値観、大切にしていること)に具体的に落とし込むことで表現しています。基本方針や行動指針(ウェイ)として制定している企業もあります。
③事例1
例としてスターバックスの事例(図2)を示します。
(図2)
引用:ハーバードビジネスレビュー2020年10月号特集パーパス・ブランディング、読売新聞2021年10月9日朝刊より作図
スターバックスでは、「なぜその企業は社会に必要とされるのか」という命題に対して、「人々の心を豊かで活力あるものにするためにーひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」というミッションを掲げています。
働くメンバー(社員)が何のために存在し、なぜ毎日仕事をしているのかという理由(存在価値)を記載し、安心して楽しく働ける場所であることを目指すことで、お客様により良いサービスができることを目指しています。そしてメンバーがしたいことと会社がしたいことの接点を探し、目標設定に入れる。結果的に、目標が会社の目標ではなく、メンバー自身の目標に落とし込まれることで「自分ごと」になっていく。
これらを繰り返すことで、深い共感、つながりができる。そして、「自分ごと」としての仕事ができた時、ヒトは自主的に行動していくとしています。
さらに、このようにヒトを軸とした経営を実践した結果、エンゲージメントサーベイによる従業員満足度は89%、また、育休後復職率99.9%、女性の管理職比率32.2%、正社員離職率4.3%と、非財務情報にも従業員が自社に共感している状況が表れています。
スターバックスでは、ミッションをベースに、顧客と従業員、地域とのつながりを育み、共感を広げることで揺るがぬパーパス・ブランディングを確立していこうとしています。
④事例2
次にエーザイの事例(図3)を示します。
(図3)引用:日本経済新聞2021年12月11日朝刊より作図
エーザイは前回コラムで紹介したようなESG経営を含め、国内でも先駆けてパーパス経営を推進しています。
企業の憲法である定款に企業理念として『患者様の喜怒哀楽を考えベネフィット向上に貢献し、その結果として収益がもたらさせる』としています。これは患者さんに貢献することを第一義とし、その結果として売上、利益があるという企業としての宣言です。このことは、仮に収益を先に追うことがあれば、見方によれば定款違反になってしまうということになります。
また、企業理念を社員ひとりひとりが「自分ごと」してとらえ実践することで、パーパス経営が社会的な「善」を最も効率良く実現できる集合体であると定義付けています。これらの一連の流れは、社会的な善をなす企業に個人投資家、機関投資家からも応援・支援が得られるのではないかと示唆しています。
また、図には示しませんが、日本におけるパーパス経営の先駆者といえる味の素株式会社は『アミノ酸のはたらきで、食と健康の課題解決をする』というパーパスを掲げ、社会課題を解決し、ステークホルダー(顧客、社会、従業員、株主・投資家)の価値向上によって企業価値を上げていくASV(Ajinomoto Group Shared Value)経営を実践しています。
まさに、パーパス主導の経営で新たな未来を創る取り組みをしているのです。
⑤まとめ
以上のように、パーパス経営はVUCA時代(Volatility:激しい変動、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の企業にとって、より一層重要さを増す経営概念と考えてられています。いうまでもなく医薬品・医療機器などの生命関連企業にとってもこのパーパス経営は欠かせません。
この2年におよぶコロナ禍や昨今の地政学的リスクマネジメントを鑑みると、我が国の製薬企業の存在意義はさらに重要なものへとなってきています。一方で、国家安全保障の観点からも製薬企業の役割を十分認識すべき時代が到来したといえます。新薬開発企業はイノベーティブなワクチン・新薬の開発を、ジェネリック医薬品企業は付加価値の高い適正な価値のジェネリック医薬品の安定供給を、といった社会的使命の各々の役割分担が明確になってきました。
医薬品・医療機器企業においては、国民の健康と生命を守るために、世の中に欠かせないものとして、その存在意義を「パーパス」として明確化し、社会全体の課題解決を目指す、同時に事業活動を通じて、持続可能(SDGs)で健全な社会の実現に貢献すべきであると考えます。
文責:ニプロ株式会社 学術情報部 山口博人(日本FP協会会員AFP)
【参考情報】
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html