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GE薬協コラム

【Factに迫る!】『ムーンショット経営』について

【Factに迫る!】『ムーンショット経営』について
目次

【Factに迫る!】『ムーンショット経営』について
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ムーンショットと言われる内閣府主導の日本の研究開発制度をご存知でしょうか?
2018年度から1,000億円以上の予算が計上されている国家プロジェクトです。(図1)

ムーンショットの由来は1961年、アメリカ合衆国のジョン・F・ケネディ大統領が、「1960年代が終わる前に月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させる」という実現困難な月面着陸プロジェクト (アポロ計画)を発表し、1969年にその目標通り達成したことにあります。

今回、「ムーンショット」に関連して『ムーンショット型研究開発制度』『ムーンショット経営』および『SF思考』について紹介いたします。

 

①『ムーンショット型研究開発制度』

(図1)引用:内閣府ムーンショット型研究開発制度

未来社会を展望し、困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題等を対象として、人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)及び構想を国が策定しています。
実現困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題を対象にした野心的な目標を掲げた研究開発制度であるため、「ムーンショット型」と名付けています。
現在はビジネス用語としても使用されています。

「ムーンショット目標」
全ての目標は「人々の幸福(Human Well-being)」の実現を目指し、掲げられています。

将来の社会課題を解決するために、人々の幸福で豊かな暮らしの基盤となる以下の3つの領域から、具体的な9つの目標を決定しています。

 

<3つの領域>
1 社会:急進的イノベーションで少子高齢化時代を切り拓く。
[課題:少子高齢化、労働人口減少 等]
2 環境:地球環境を回復させながら都市文明を発展させる。
[課題:地球温暖化、海洋プラスチック、資源の枯渇、環境保全と食料生産の両立 等]
3 経済:サイエンスとテクノロジーでフロンティアを開拓する。
[課題:Society5.0実現のための計算需要増大、人類の活動領域拡大 等]

 

<9つの目標>
目標1.2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
目標2.2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
目標3.2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
目標4.2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
目標5.2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
目標6.2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
目標7.2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
目標8.2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
目標9.2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現

 

医療関連では赤字の目標2、7、9が強く関係することがわかります。
各々の目標に対してイノベーティブな事業が現在進行中です。

②『ムーンショット経営』

多くの企業はイノベーションを希求しながら、高度経済成長期の昭和的思考から抜け出せずにいます。今日のR&Dや企業経営にこそ、大いなる挑戦が求められています。

グーグルが認めた起業家の加藤崇氏がムーンショット経営の要諦を明かしています(図2)

 

(図2)著者作図
引用:ハーバードビジネスレビュー2019年8月号特集MOONSHOTムーンショット

 

グーグルには物事を10%改善するよりも、10倍の成果を手に入れようとする考え方があります。人類の進歩に貢献するような大きな挑戦をする方が、人を奮い立たせてより多くのものを得られるという戦略をムーンショットに例えています。

ムーンショットの要素として3つあります。
1. 人を魅了し、奮い立たせるもの(inspire)
2. 信憑性のあるもの(credible)
3. 創意にあふれる斬新なもの(imaginative)

 

グーグルは、上記を満たす、魅力的で、技術的な裏付けがあり、しかも斬新なプロジェクトを推し進めています。
例をあげると拡張現実(AR)対応のグーグルグラス開発や無人自動運転のグーグルカーの開発等です。

それでは、ムーンショットを実践するうえで、どのようなポイントが重要になるのか?
3つに絞ると

◯ムーンショットのように10年後にどのようにありたいかを強烈にイメージし、思考の枠組みを拡げていく。ここで、物事を大きく考えるプレーヤー「ビッグシンカー」(big thinker)になることが必要。

◯リスクに寛容で成長を希求するガバナンスの体勢をどう構築するかが、ムーンショット成功のカギになる。「攻め」の姿勢を持つ社外取締役の存在が不可欠。日本的な直感に反するガバナンス体勢を実現すること。

◯市場を見据えた時、「自分たちの組織を何とかしないといけない」というミドル層の危機感と、大きなことに挑戦するミドル層の意識が上層部に強く伝わっていくこと。
日本のムーンショットは、「ミドル・アップダウン・マネジメント」から始まる。とりわけ日本企業は、企業トップと、第一線で戦うボトムの社員を結びつけるミドル層が、「組織的知識創造」のプロセス促進に重要な役割を果たすこと。

そして、ムーンショット経営とは、ロマンチストになって大きな絵を描く。そこから世界を変える新しい一歩が踏み出せる。「こういうことを世の中に起こしたい。そのためにはこの技術が必要だ」と着想し、10年越しの大きな目標を掲げ、そして大きな予算措置を講じ、その目標の実現に邁進していくアプローチである。としています。

③『SF思考』

ムーンショット同様、過去にとらわれることなく、新しい発想でビジネスを生み出す手法としてSF思考が注目されています。(図3)

 

(図3)著者作図 
引用:SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル 藤本敦也[著]宮本道人[著]
関根秀真[著] ダイヤモンド社

 

SFとビジネスに違和感があるかもしれませんが、SFは現実の前提がひっくり返された社会で、イノベーティブな未来を考える活動と親和性が高くなっています。

図3の左上では、「ビジネスと自分の未来を考えるスキル」をマトリックス表で示しています。
表のシナリオプラニングから反時計回りに解説いたします。
シナリオプラニングは既投稿『GE薬協コラム:VUCA時代経営』で示したように「戦略的に未来をマネジメントする方法」として有用です。社会起点で不確実な可能性を重視しています。

マクロトレンド分析は人口動態などPEST分析(Politics、Economics、Social、Technology)に代表される社会起点で確実なトレンド重視の分析です。

デザインシンキングはユーザ目線で人間中心起点でのトレンド分析です。

SF思考は、非連続、かつリアリティーのある未来を描く「人を起点に、不確実な可能性を重視して未来を描く」手法となります。
企業のパーパスを策定したり、新事業でブルーオーシャンを探索したりする場面で有用です。SF思考に基づいたストーリーづくりはこれからの企業のコンサルティングツールになります。

SF思考は未来を予知するものではなく、イノベーティブな発想を語り合う手段であり、非連続な未来に跳ぶためのステップであることを常に意識することが重要です。

そして、SF思考を本当にビジネスの現場に浸透させるには、知らず知らずに自分自身で限界を作ってしまっているような、思い込みをいったん外して「仕事をもっと楽しもう」と心から思えるようにマインドセットを変革することが大切です。

また、未来を創造するには既成概念だけでは材料不足です。そして不足しているものは、自身の既成概念を越えた、潜在的な強みとして、自分の中にあります。それに気付けば
ビジネスは「自分ごと化」し、革新的なことも起こしやすくなります。

SF思考は不確実な未来において、自分の人生・キャリアをわくわくエキサイティングにさせるスキルです。ビジネスで非連続なアイデアを創出し、異なる立場の思考法を組み合わせることで、「未来を描き出す」ためのスキルを身に着けることが可能です。

これからのビジネスパーソンはSF思考をはじめ未来を創造するスキルを身に付けることで、自身のビジネスライフをデザインすることができます。

④最後に

ムーンショット経営(マネジメント)は医薬品企業にとって社会課題を解決するための大変重要な概念です。
医薬品・医療機器企業はこれから、ムーンショットを意識し、持続可能(SDGs)な国民皆保険を含めた社会保険制度維持に貢献していくべきと考えます。

 

2022年9月
文責:ニプロ株式会社 学術情報部 山口博人(日本FP協会会員AFP)

参考情報
◯内閣府ムーンショット型研究開発制度
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html
◯『人的資本経営(パート3)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220901.html
◯『人的資本経営(パート2)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
◯『人的資本経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
◯『ウェルビーイング経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220601.html
◯『VUCA時代経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220510.html
◯『パーパス経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220325.html
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html